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【第一部完】優しい領主と聖女ちゃん ~突然現れた聖女?に「偽物!」と、追い出されてしまいました~  作者: 群青こちか@愛しい婚約者が悪女だなんて~発売中
第一章 ラウラと聖女

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過去9 聖女ちゃん?2


私は聖女になれなかった。

周囲から大事にされ、たくさんの教えを受け、期待の光を浴びていたのに……。

魔力がまったくないなんて、最悪の結果。


お父さまとお母様は、アダンクで修業をしていた魔術師の子孫同士。

魔力の強さとかはわからないけど、ふたりとも魔法が使えた。

でも、普段の生活で使っているのは見たことがない。

魔法を使うのは、村のお祭りの時だけだった。


村の中央にある広場、炬火をともすのは父さまの役目だ。

魔法で点けた火は、嵐のような雨や風にならない限り消えない。

他にも魔法が使える村人はいるけど、お父さまが子供の頃からやっているらしい。

そして、祭りの終わりにその火を消すのはお母さま。

誰にも気づかれないくらい僅かな風を起こして、大きな火を消してしまう。

小さい頃から私は、そんな両親の姿を見るのがとても好きだった。

でも、一度も魔法を教えてくれなかった。

精霊が名前と贈り物をくれたというのに、私は普通の子供として育てられた。


……お父さまとお母さまは、私に魔力が無いってわかってたの?

それなら、どうして10歳の時に私を送り出したの?

私は何のために5年も修行をしたの? 

あんなに頑張ったのに、全部意味が無いことだったの?


15歳の誕生日の朝。

五年間の修行を終えた私は、聖女の適性を測るため、再び庭園の片隅に向かった。

王宮に来た時と同じように、水晶の池に手をかざす。

何ひとつ動かない氷のような水面。

静まり返った空気は、まるで時間が止まったかのように感じた。


その時、池の底に敷き詰められた水晶が、虹色に輝き始めた。

まるで、すべてが10歳の時を再現するかのようだった。

水晶はとても美しかったけど、それよりも魔力が無いという事実に、周囲の落胆が伝わってくる。

私が顔をあげると、全員が視線を下に向けた。

尊敬する師ランプロスの表情は、今まで見たことがないほど深い悲しみに満ちていた。


ごめんなさい、期待を裏切ってしまって……。

私だって信じられないし、信じたくない‼

ああ……ランプロス様……。

ごめんなさい……。


「ごめんなさいっ!」

「あっ、気が付いたみたい」

「ラウラ、大丈夫かい?」


見慣れない天井と大きな瞳の少女。

そして、とても美しい人が私を覗き込んでいる。

いままで王宮の庭園にいたはずなのに? ここはどこ? 


涙が渇いてパリパリになってしまった目元をこすりながら、ラウラは身体を起こした。


「起き上がって大丈夫かい、無理はしないでいいよ」


柔らかく響く低い声に、ラウラはハッとした。

ここは王宮じゃない。

目の前の美しい人はフィデリオ様、横に居るのはグレイスだ。

待って、私ったら調合施設で倒れちゃったの?


現実を実感して狼狽えるラウラに、フィデリオが優しく微笑みかけた。


「体調が悪かったのかい? 無理をさせてしまったのであれば……」

「いいえ、違います! 私が悪いんです」

「ラウラは何も悪くないわよ」

「ううん、私が……」


温室で大量に育っていた薬草を思い出し、ラウラは言葉を詰まらせた。

そんなラウラを見たグレイスは、小さな桶にお湯を注いでタオルを浸し、ぎゅっと絞った。


「はい、どうぞ」

「ありがとう」


ラウラは、僅かに湯気が立つタオルに顔を埋めた。

その温かさに、張りつめていた気持ちが緩んでいくのがわかる。

王宮の夢を見て泣いてしまったのか、目の周りがどんよりと重い。


ああーやってしまった。

せっかく仕事が決まったというのに、なんという失敗をしてしまったの。

初日に倒れてしまう子なんて、雇いたいはずがない。

はぁ、私は誰の期待にもこたえられないんだ……。


ラウラは、涙が出そうになるのをぐっと堪えたが、タオルから顔をあげることが出来ない。

どんな顔をすればいいのか、そして何を言われるのか、不安でたまらなくなっていた。


「ラウラ、疲れているなら今日はもう休んでいいよ」

「うんうん、フィデリオ様もこう言ってることだし、明日からにしましょ」

「え? 私クビじゃないんですか!」


二人に優しい言葉をかけられ、ラウラは慌てて顔をあげた。

少し驚いた顔をしたフィデリオが、目を細めてラウラの瞳を覗き込む。


「どうしてクビだと?」

「だって、こんな迷惑かけちゃって」

「迷惑なんて誰も思ってないよ。君がこの国に来たばかりなのは昨日聞いていたから、急ぎすぎたかなと思っていたところだ。きっと疲れが取れていないんだろう。すまなかったね」

「そんな、私こそ! 本当にごめんなさいっ」

「ラウラ」

「はい」

「謝らなくていいよ、君は何も悪くないんだから」


フィデリオは長い睫毛を瞬かせ、眉を下げて微笑んだ。

優しく口角をあげた薄い唇に、ラウラの心臓が小さく跳ねる。


駄目だわ、慣れなきゃ!

微笑まれただけでドキドキしてたら、仕事にならない。

本当にクビになっちゃう!


ラウラがあわてて視線を逸らすと、グレイスが手際よく動いている姿が目に入った。

温かいタオルを浸すために使った木の桶を、片付けている。

小さな鞄はチェストの上に置かれ、テーブルの上にはお茶が用意された。


あれ? あの鞄は私の……。

あっ! ここは私の部屋だわ。


ラウラは、今寝ている場所が自分の部屋だということに、やっと気が付いた。


倒れてしまった私を、誰かがここまで運んでくれたのね……。

あーもう! 想像しただけで、顔から火が出そう。


両手を頬に当てるラウラに、グレイスは目配せをして、いたずらっぽい笑みを見せた。

手に持っている銀のトレーのカバーをはずし、ティーカップの横に何かを並べ始める。

同時に、ふわりと甘い香りがラウラの鼻をくすぐった。

それに気づいたフィデリオが、テーブルの上を確認して席を立った。


「じゃあラウラ、しっかり食べて身体を休めるんだよ」

「はい、ありがとうございます」

「見送りはいいからね。何かあればグレイスに頼むといい。じゃグレイス、よろしく頼むよ」

「はいフィデリオ様、まかせてください」


元気よく答えるグレイスに、フィデリオは満足そうに頷くと部屋を出て行った。

部屋には、薬草と花の爽やかな残り香と、甘い香りが漂っている。


フィデリオが出て行った扉を、ラウラがぼーっと眺めていると、グレイスがベッドの横にちょこんと座った。

大きな瞳がぱちりと瞬く。


「先に荷物を整理して、何か食べて調合施設に行けばよかったわね。ごめんね」

「違うわ、勝手に倒れた私が悪いの……え、食べて?」

「だって、お腹すいてたのよね?」

「えっ、どうして?」

「ずっとお腹が鳴ってたから……」

「ずっと?」

「うん、運ばれてるとき」


グレイスの言葉を聞き、ラウラは自分のお腹に手を当てた。

朝は緊張でお腹がすいていなかったのに、いまは驚くほどペコペコだ。

部屋に立ち込める甘い香りに、さっきからお腹がきゅうっとなっている。

そういえば、この香りがした途端にフィデリオ様が部屋を出て行ったわ……。

まさか!?


「ねえグレイス……私のこと誰が運んでくれたの?」

「温室の前で倒れて、そこからリーアムとエルノが運んでたんだけど、屋敷に入ってからはフィデリオ様よ」

「ひっ!」

「大丈夫大丈夫、ラウラは小さいし、フィデリオ様はああ見えて力があるのよ。国が開催する剣術大会で何年も優勝してるんだって」

「そんなあ……」


昨日はじめて会った、今まで見たことがないくらい美しい人。

しかも、領主様であり今日からは私の雇い主!

そんな人に抱きかかえられて、ベッドまで運ばれたなんて!

グレイスが言うのが本当なら、私は倒れたうえにお腹をぎゅうぎゅう鳴らしてたってことになる。

ああああーーーー最悪だーーーー。


居たたまれなくなったラウラは、ベッドから立ち上がった。

その瞬間、子犬の鳴き声のようなきゅぅぅんっという音が、ラウラのお腹から鳴り響いた。

本日の更新はここまでです(*˙˘˙*)

お読みいただき、ありがとうございました

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