表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
祈雨  作者: 千賀 万彩記


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/11

第九話:故郷へ

 船は、西の風を受けて走ります。

 リルは甲板の隅で柵に捕まり、黒く揺れる波を見降ろしました。白い泡を散らしながら、波は船をよけていきます。

 視線をあげると、翼を広げて風に乗るズゥの姿が見えました。リルが乗る船を追いかけるようにして、ゆうゆうと飛んでいます。速く、早く、と焦る気持ちを押さえきれず、リルはため息をついて再び波の花へと目を落としました。


 『キウが千年の寿命を迎えるとき、新しいキウは必ず同じ国の中で生まれる。その言い伝えが、あんたの国では途切れてしまったんだろう』


 お婆さん師匠の言葉が、頭のなかでこだまします。

 はたして本当のことなのでしょうか。お父さんは、余所の国で新しいキウを探してくるよう言いました。しかし、彼女が嘘をつく理由も意味もありません。どちらの言葉も本当のことを言っているようで、それでいて食い違っていて、リルは素直に信じることも、ただ疑うことも、どうしてもできませんでした。


 それに……とリルは眉をひそめます。

 キウの代替わりは千年に一度。誰もが『前回の代替わり』に立ち会ってはいないのです。それこそ数千年の寿命を持つ生き物でもないかぎり。たとえ、キウ守の役であったとしても、です。キウが今までと同じ姿で生まれ変わるのか、まったく別の姿に変わるのか。そんなことすら知らなかったのだと、リルは身を震わせました。


「とにかく一度、雨氷の国へ帰ろう。そして、お父さんに相談しよう」


 それが、リルの出した答えでした。

 そして隣の国から雨氷の国へ船が出ていることを聞き、これ幸いと飛び乗ったのです。船賃が少々足りず、いくらか物を売らなければなりませんでしたが些細なことです。それよりも、早く、速く。言い表しようのない不安と苛立ちが溢れてきます。



 キュイッ。

 突然、リルの隣でズゥが声をあげました。いつのまにか甲板に降りてきたようです。ズゥは首をくるりと傾げ、まんまるな瞳をリルへと向けました。その表情に変化はありませんが、リルを心配しているのだと分かります。


「ズゥ……」


 おもわずリルは、ズゥの胸毛に顔をうずめました。ふわふわの羽毛が頬をくすぐり、潮の香りと太陽の匂いに包まれます。それをめいっぱいに吸い込むと、ズゥは翼をわしゃわしゃと震わせて、リルの髪の毛をかじりました。

 ふと、ズゥと出会った時の光景が、リルの脳裏に浮かびます。


 よく晴れた冬の日でした。積もった雪が陽に照らされていたのでしょう。景色が白く、キラキラと光っていたことを覚えています。とても寒かったということ。ひとりぼっちで、とても心細かったということも。

 どうしてそんな所にいたのか、なぜひとりぼっちだったのか、その手のことはよく覚えていません。おそらく雪を追って歩くうちに迷ってしまった、というところでしょう。

 そうして淋しさに圧しつぶされそうになったとき、積もった雪の割れ目から、ぴょこん、と転がり出てきたのがズゥでした。今のような、立派な風切り羽はありません。黒っぽいモジャモジャから小枝が伸びているようで、リルは小さな雛だと分からなかったくらいです。

 黒っぽいモジャモジャはもぞもぞと動きまわり、リルの姿を認めたとたん身体中で己の存在を主張しました。あらん限りの鳴き声をあげ、リルにすり寄ってきたのです。

 気がつくと、リルはズゥを胸元に抱いていました。



 それからずっと一緒にいます。これからも、ずっと一緒にいるのでしょう。

 リルが淋しいとき、不安なとき、苛立っているとき、ズゥはこうしてそばにいてくれます。嬉しいとき、楽しいとき、笑っているときも、です。


「ズゥが一緒じゃなかったら……」


 旅を続けることはできなかったろうな。

 そう呟くと、もう少しだけ、とズゥの胸を吸いました。


 ズゥの喉がクルルゥ、と音をたてました。顔を上げると、ズゥのくちばしが船の進む先に向いています。

 緑色の波の間から、雨氷の国の港が揺れているのが見えました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ