ゲーム開始(2)
幻月くんは妖艶な容姿とは打って変わり、無邪気な笑顔で私を見てくる。ニコニコニコニコ…。
「か、可愛い…」
「ありがとうございます。貴女に言われると何でも褒め言葉に聞こえますね」
ほんの少しだけ、照れた表情を見せる幻月くんに。なるほど、これは人気があるわけだわ。と納得した私。友人よすまん。そうして友人を思い出すと嫌なことも思い出す。大変だ。今日はまだやることがあるのだ。早々に切り上げようと思ったのに、珍しいとこにのめり込んでしまった。
「ごめんね幻月くん。もっとおしゃべりをしたいんだけど、もう課題をやらなくちゃいけないからゲーム終わらせなきゃ」
そう発言した瞬間。
身体が緊張で震えてしまった。幻月くんの雰囲気が寒々しいと言えば可愛いもので、殺伐とした何かを放っているように感じられるのだ。表情が見えなくなったところがさらに恐ろしい。
「げ、幻月くん?」
「…………」
沈黙しないでくれ!恐ろしいから!
「おーい、幻月くん!また来るから!思ったよりゲーム楽しかったし!」
「…ゲーム、ね」
何かを小さく呟いた幻月くんの声は、焦っていた私には聞こえなかった。
「あ、あの…」
私が深妙な、底知れない雰囲気を出す幻月くんに思い切って声をかけると、弾かれた様に顔を上げて笑みを浮かべる幻月くん。
ほっ、どうやら怒っていたとかではないらしい。にしてその笑顔は反則すぎる!
「分かりました。まだ時期が悪いですから仕様がありませんね。また明日もお会いしましょう」
"時期が悪い"とはどういうことだろうか?気になることはあるが今日は課題が本当に多すぎて今ゲームを止まないと時間がない。課題にうんざりした私は考えることを放棄したのであった。
「明日!明日はちょっと出かける用事があっ「明日ももちろん来てくれますよね」」
「…は、はーい」
言外の圧を感じた私は唯々諾々と従ってしまうのであった。私、意外と押しに弱いのか?
まあとりあえず今日はもうゲームを終了する為に挨拶をして去ろうと思ったのだが、幻月くんは唐突に不思議な質問をし出した。
「そういえばそちらは今、月の満ち欠けはどうなっているのですか?」
「月?あれ?そういえば今日は何だっけ」
そう問われて、突拍子のない質問に困惑しながらも律儀に窓の外を確認する。何もない澄んだ夜空。
「今日は朔月みたい」
夜空を見ながら答えると、チッ!!と音が聞こえる。急いで画面を覗き込むと変わらない美しい笑顔の幻月くん。はて?
「ありがとうございます。まああともう少しですから我慢することにします。…今まで散々待ちましたし」
「?そうなの?何だかよく分からないけれど、早く我慢が終わるといいね」
我慢は身体に良くないし…と告げると驚いた顔を見せていた。何だかやっぱり聞いていた話と違うなあ。こんなに表情豊かだったんだ。
クスッと呆れた様な、憐憫の様な、色々な感情が混じった様な目を向けてくる。
「なに?」
「いえ、まあ貴女に取って良いか悪いか分からないなと思いまして」
「そうなの?本当によく分からないなあ。あっ!でも立花が、ミステリアスなところが魅力的っていってたなあ。こういうことなのかな」
クスクスと上品な笑い声が聞こえてくる。流石は王族。品が良いなあ。
「じゃあ、本当に切るね!また明日!」
「ええ、また明日。必ず会いに来てくださいね」
私が満面の笑みでバイバイと手を振ると幻月くんも上品に手を振り返してくれた。優しいなあ。ゲームを躊躇いなく切ると、スマホをベッドに置いて勉強机に向かう。
「ふあああ。眠いなあ。久しぶりにゲームをしたから疲れたのかな。早くやることを済ませて寝よう…」
明日も講義があるし、課題をして寝よう。立花にもこのことを伝えなくちゃ!
幻月くんのゲームも中々楽しい時間を過ごすことが出来て、気持ちが昂ったまま残りの時間をこなしていったのだった。