恋愛ゲーム"あなたの幻月くん"(3)
「それが発売当初から現在まで続いているのだ」
と、大学友達の立花が得意げな顔をして
私に語ってくる。友人がこのゲームの猛烈なファンだということは知っていたが、こう何百何千何万回も同じことを聞かされると流石にうんざりだ。
「またその話なの?私ゲームに興味がないんだってば」
「それはゲームをしたことがないからよ!やればハマる!もう戻れなくなるよ!」
この発言をし終わった瞬間、机を思い切り叩きながら立ち上がった彼女のうるささに思わず耳を塞いでしまった。休み時間中の講義室が何事かと一瞬こちらを見たが、すぐに逸らされてしまった。…またか、という表情を伴って。いや、助けてくれい。
「だってコメントを入力して自由に会話を楽しんでエンドまで辿り着こうっていうのか最終目標なのに、エンドはそんなだし、過去もよく分からないって言うしさ…」
「その不満を凌駕するくらい幻月はイケメンなのよ!あの赤と碧のオッドアイにさらっさらの三つ編みにした長い金髪!圧倒的な美貌!細身だけど筋肉質なスタイル!少し低めの美声!目の下の完璧な位置のほくろ!そして王という絶対権力に剣も魔法も超一級!もうたまらない!特に幼年期編から見守ってきたユーザーとして親近感が凄いのよ!冷たくされても無問題!結婚して!」
「…勢いが強すぎてドン引きだわ」
ものすごく興奮している友人に思わずドン引いてしまうのはしょうがないと思って欲しい。ゲームをやらない層に限っては、その欲求が理解できないのだ。
「まあとりあえずやってみ!やらないでピーピー言うな!やってからピーピー言え!」
「…私、ピーピーなんて言ってないけれど」
普段は良い子で面白い友人なのだが、ことゲームに関しては性格が一変するのだ。もう二重人格レベルに。
(これは、今流行っていると言う異世界転生とかの世界に行ったら昇天しちゃうレベルだなあ)
「…これをこうしてはい!終了!」
友人の勢いに押され、現実から少しボーっと離れていた隙に、手に持っていたのは私のスマートフォン。そしてピロリンと鳴る音。
「げげ!あなたの幻月くんのアプリ入っているじゃない!」
「ほーっほっほ!まあやってみなさい!」
どこかの悪役令嬢かのように手を頬に当てながら悪い顔をして高笑いしている友人は、完全に勝者の顔であった…。
「というかいつの間に!パスワードこっそり見てたな!」
今度は反対に私が思い切り机をドンと叩きながら立ち上がると鼻が高くなったように見える友人に抗議した!人のパスワード勝手に入力してはいけません!
「だってあなたのパスワード分かりやすいんだもん。私の誕生日よ?指の動きで分かるわ」
「ぐっ!だっ、だって、……私の初めての友達だから。みんな私が話しかけようとしたら逃げちゃうし、目も合わせてくれないし。初めて話しかけてくれたのが立花だったから嬉しくて…」
少し顔が赤くなって目を逸らしてしまう私。何故だか初めて!の友人も真っ赤になっている。
「いや、それはあんたが美少女過ぎるんだって!昔は黒髪だっけ?今は白髪?銀髪?っぽい長くてさらっさらな髪に完璧な出るところは出ているスタイル!超絶整った美貌!澄んだ空色の瞳!人外か!!!」
鼻息を荒くして語る友人には相変わらず理解が追いつかないが、まあ褒めてもらって嬉しいので手放しに喜んでおこう。
「まあ、ありがとうね私は容姿関係なく立花のことが好きだけどね」
「やばっ!鼻血でた!やめろ天然タラシ!」
「本当に鼻血出てる!ティッシュ使って!」
「うう。私は幻月くんと恋愛エンドを迎えるまでは死なない…」
「おおい!死ぬなー!」
…友人とのやりとりはいつもこうである。楽しいけどね。