エンド!
「えぇ?帰れない?!」
「オホホホホ、・・・召喚のスキルは呼び出すだけのものですから、還るなどということは・・・今まで考えたこともありませんわね」
勇者の仕事もなくなり、さぁみんなで帰るかというこの時になって、お姫様が重大なことを暴露した。
帰れない。
今更そんなことを言い始めたのだ。
なんてこった。我々は謝罪を求める!
「やっぱり詰め腹を切らせるべきだったかな」
「斬首よね」
せっかくこれまでのことをみんなが我慢してくらたというのにこの有様だ。姫に罪を償わせるべきという主張が再燃しはじめている。
「ヒィッ、そ、そ、そうですわ、勇者様の土地を用意いたします。南に温暖で過ごしやすい領地がありますから、そこを召し上げて下賜すれば・・・」
「帰れないことにはかわりないじゃん!」
勇者たちからのブーイングコールが鳴り響く。あちこちに派兵されていた勇者、総勢52名の大合唱だ。
彼らがこれまでのお姫様の行いを許したのは、国民への寄与を理解したからだ。
国民を救うために、それ以外を犠牲にしていた。まぁ異世界勇者のことだけど。
屍鬼との戦闘ではそのほとんどを勇者と、そして自身の細胞と魔力から作り出したクローンで賄っていた。
今のお姫様の身体はボロボロだ。
ムリな再生薬での回復で皮膚の下は白く壊死した部分が斑点のようにうかび、同じく薬で増産される魔力による反動で顔色が悪い。
彼女の両親の姿がみえないのも、彼らもクローンの作りすぎでベッドから離れられなくなっているからだと言う。
まぁ今は薬もやめたので、時間がある程度解決してくれるはずだけど。
その自己犠牲の部分を汲んで、勇者各位は自分の悪感情をがまんしてくれているのだ。
だけど帰れないとなればそれが噴き出すのもしかたないだろう。
お姫様、たじたじである。
「うーん、できるかわかんないけど、レテの能力を付与したら帰れるかも」
「シィちゃん?」
うちのレテは転移の精霊である。どうやらわたしがこの世界に来たのもレテのせいではないかと思っているのだけども。
その能力をみんなに『付与』すればみんなが転移できるんじゃないかと考えている。
「実際、レテの転移の候補地に”自宅”って選択肢があるんだよね。と言うか、”自宅”しかないんだけどさ。どこの”自宅”に帰れるのかさっぱりなんだよ」
わたしの自宅なのか、ゲーム内の自宅なのか。ゲーム内に自宅はなかったのだけども。それぞれの勇者に『付与』したとしても、”自宅”の選択肢が出るとも限らない。それぞれの自分の家だとも言えない。
いろいろと不確かなものだ。
「まぁやってみよっか。次元の狭間とかに落ちて恐竜時代にタイムトラベルしたら運がなかったってことで」
恐竜素材が取り放題なので大丈夫だろう。
まずはお試しで桜ちゃんの『付与』でレテの能力を稲毛の真央ちゃんに付与してみる。
「ええと・・・スキルかな。これね。・・・あるよっ。”自宅”って選択肢がある!」
おおー、という声があふれる。
次に実際に帰れるのか、だけど・・・試してもらうしかないよね。
「行くよ・・・『転移』っ」
真央ちゃんの姿が光って消えた。消失したのだ。
「真央ちゃん?まーおちゃーん・・・」
いない。成功かな?少なくともここではないどこかに転移したようだ。
「帰れたのか?」
「わからない。そうであってほしいとは思うけど」
「どうする?やる?」
「石の中とかに転送されたら死んじゃうんだぞ」
じゃぁ希望者だけやろっか。
ということで次々と『付与』して自宅へ転移してもらう。希望者は40余人に上る。
希望者がいなくなったのを確認して桜ちんを帰したら最後はわたしだ。
「じゃ、みんな息災で。戻れたらみんなのことは家族に伝えておくから。あとは姫はきちんと勇者召喚を封印してね。そっちの監視はたのんだよ」
残った勇者にお姫様の監視をお願いしてわたしも”自宅”へ転移を開始する。
世界は真っ白に包まれた。
★
★
★
「う・・・ん、ここは・・・」
目を開ける。
まだちょっと頭がぼうっとするけれど、がんばって体を起こして周囲に視線の焦点を合わせてゆく。
見知ったベッド
見知ったカレンダー
見知った目覚まし時計
見知った鏡台と化粧品類
そして見知った仕事鞄やら放り出されてるスーツ一式。
そこは紛れもない、リアルなわたしの部屋だった。
「・・・帰ってきた、ぞ?」
帰ってきた。とうとう自分の居場所に帰ってこれた。
向こうに行っていたのは一年に満たない期間だったけど、長く大変な思いをした、心休まらない場所だった。
あー・・・やっと休める。
わたしはベッドにゴロンと寝転がる。
そういや精霊たちはゲームに戻ったのかな。わたしはベッドの周囲からヘッドギアを探す。
あった。手に持ったままスイッチを入れる。
・・・起動しないな?
電源が入らない。壊れてしまったのかもしれない。
まぁ後でいいか、とヘッドギアを放り出す。今はこのベッドさんと愛をはぐくむのが先だよね。
目を閉じるとゆっくりと外が騒がしくなる。
わーわーと人の睡眠を邪魔する、とても素晴らしい騒音だ。
「ご、ゴブリンだ!逃げろ!」
ゴブリンなんているわけないだろ。馬鹿も休み休み言ってほしい。
「まったく、ユエー・・・おい」
左手にユエが出た。
わたしの召喚に応えて待機している。
「え?」
世界は混迷の時代に突入していた。
■■■■■■■■■おわり!■■■■■■■■■
「はっ、はっ、はっ、はっ」
少女は走る。手を引きながら。今日は本当なら安全のはずだった。
大人たちといっしょに近くにあるホームセンターへ行くはずだったのだ。天候は晴れ、本来なら日の光を嫌い、奴らはあまり出歩かない天気だ。
けれど”統率者”がいた。奴らを呼び、凶暴にさせてしまう危険な存在だ。
隠れながら移動していたわたしたちの存在を、”統率者”が見つけてしまったのだ。
”統率者”にかなうわけがない。スキルを得たはずの大人でさえ、簡単に殺されてしまうような奴だ。わたしたちは逃げようとした。
全員で?
いいや、違う。
誰か足の遅い者を囮として残しておいて、だ。
彼らは、大人は、ずっとそうやって生きてきた。
こんな世界になってから、そうやって生きるのが賢い生き方だと知っていたから、彼らは躊躇せずに行動できたのだろう。
わたしは馬鹿だ。
手の中の感触が消え、後ろで倒れる音がする。
「ゆきひろ君!」
振り返れば少年は倒れて、起き上がろうとしていた。
早く、早く!
なぜかわたしは駆け寄れない。駆け寄って起きるのを手助けするべきなのに。
彼の、少年の後ろに、奴らが見える。
間に合わない
わたしの足は、後ろに進むことを拒否している。
ここで彼を見捨てれば
そう頭の片隅に考えがよぎる。
「ゆきひろ君!」
手に感触が戻る。
あぁ
やっぱり馬鹿だった。でも、そんな自分も悪くないと思う。
わたしは奴らをにらみつける。少年を胸に抱きしめながら。最期の瞬間まで、抗ってやるって決めたから。
お前たちなんかに、負けなかったぞって、胸を張っていたいから。
トン、と何かが突き立った。
トントントン、とリズムを刻むように奴らが縫い留められていく。透明な・・・矢?。
「え・・・」
「まったく、これはどういうことかな?転移場所間違ったのかなぁ。寝起きドッキリにしては趣味がわるいんだけど」
それは不思議なお姉さんだった。まるで出社するみたいなピシッとしたスーツを着た、銀色の髪のお姉さんだ。手を振ると持っていた弓が消える。
「あの・・・」
「いいよ。ちょっとお話聞かせてくれるかな?」
わたしとゆきひろ君の困惑を丸っと無視してそのお姉さんは自分の好きなことだけしゃべりはじめる。たぶん会話ができない人だ。
彼女はたどたどしいわたしたちの話を聞いて、一つの結論を導き出した。
「よし。クエストってことだね!」
まるでイカれたゲーマーみたいに。
■■■■■■■■■ほんとにおわり!■■■■■■■■■
■読んでいただきありがとうございます。ハーフエルフさんの物語はこれにて終了です。
でも待ちぼうけさせている魔王がいるのでいつか会いにいくかもしれませんが。
ともあれ ありがとうございました(*'▽')♪




