※ナークタリアside
■■■■■■■■■ナークタリア■■■■■■■■■
ギルド長のナークタリアは仕事が山積みであった。
どうも外部の異世界というところから大量に人的資源が送られてきており、それを半ば強制的にだが受け入れなくてはならないらしい。
”神の意志”というやつだ。
この世界の神は実に大味な管理をしている。人は寿命で死ぬか、大きな時代の流れでしか死なない。死んだと思っても肉になり、五日後に復活する。モンスターはもっと早く復活する。
しかし今度送られてきた異世界の人間たちは、そのモンスターよりももっと早い時間で復活ができると言うのだ。ため息が出る。
死は刑罰の一つの種類でしかない。奉仕活動やムチ打ちの先に死刑がある。死なないが死を実感させ、時間をおくことで頭を冷やさせるための罰だ。けれど異世界人たちはその頭を冷やす時間さえないという。彼らには死は罰になりえない。
これを管理せよと神が申し付けたらしいが、正直知ったことではない。
まったく、面倒ごとをおしつけてくれる・・・。
「ギルド長、ちょうど100組目の新人講習が始まりますよ。確認に行きますか」
書類仕事かから顔を上げれば、部屋の扉の所に副ギルド長のバラックが立っていた。バラックは人族の生粋の冒険者あがりだ。
彼は貴族との交渉にも駆り出される”ギルド長”という役職をきらい、こちらに押し付けてきた体力自慢の人物である。老いにはあらがえず体力の低下を感じてから冒険者を引退し、今は冒険者ギルドで管理する側にまわっている。
彼には異世界人の変質を調査するために、きりのいい組の視察をさせてくれるように頼んでいた。
始めの連中はひどかった。一年ほど前に一番初めの組みを受け入れた時だ。
彼らは初めは殊勝な様子を見せていたが、少しして笑いながら冒険者に襲い掛かり始めたのだ。
目的は冒険者の持つ武器、防具。
数人程度ならば冒険者が新人の異世界人になど負けない。けれど奴らは徒党を組んで襲い掛かった。
いつ、どこで襲われるのかわからない。
もちろん自衛を検討したこともある。異世界人をいっさい受け入れず、村から締め出せばいいのだ。
けれどここに強制力があった。
”神の意志”だ。
異世界人に便宜を図らねばならないという神の意志のために、締め出すことができなくなっていた。
こちら側が大きく妥協することでしか彼らと共生することができなくなったのだ。
しばらく彼らの往来が途絶えた後に、何度かまたやってくる時期がある。そのたびに人数が増えていく。
今度の往来は今までにない規模の人数がやってきていた。さすがにこのごろは突然襲い掛かってくることもなくなったようだが安心はできない。
常に彼らを監視し、その気質を見定めなくてはならない。
新人講習の視察もそのためのものだった。
「ふむ。特に問題ないようではあるな」
人数は多いが何かを企てているような様子はない。ただ、どうもこちらの世界の人間よりもへっぴり腰な感じだが。あれはおそらく武器など一度も扱ったことがないのではなかろうか。心配になるほどに武器に振り回されている。
「お、ギルド長、精霊魔術の番ですぜ」
バラックに呼ばれると精霊魔法を使う異世界人の試し打ちが始まる。なるほど、彼らはきちんと精霊魔法を理解して共に成長しようという心を感じる。実に関心だ。
うんうん、と内心喜んでいるとおかしな音が聞こえる。
「もっとできる!もっとできるでしょう、それじゃ今度はシールちん。投げるから戻ってきなさい。フリスビーのように!」
そして投げられる精霊。さっきは弓の精霊で案山子を殴りつける暴挙があった。
「な、なな、あれは何をしているのだ!」
「ええ?、いや。わかりませんが・・・」
何ということを!
精霊とはともにあるべき存在。敬意を持ち力を貸してもらう、そういった尊い上位存在なのだ。
それをこの人間、ぞんざいに扱いすぎる。いや人間ではない。銀の髪からちょこんと飛び出た耳のとがり具合からするに、どうやらハーフエルフであるらしい。
エルフ族の血を引きながらこの暴挙!エルフ貴族の私には見過ごすことができないのである!
「やめよ!何をしている!!」
あわてて止めるがその少女はキョトンとしていた。
「え?精霊のテストだけど」
そう答えて今度はまた別の精霊を呼び出した。
低級の精霊ではない。形のしっかりとした、力ある精霊だ。
「よし、レテちんは何ができるのかな。掃除洗濯からやってみよっか!」
まるで小間使いのように、精霊に雑事を申し付けていく。
「こ・・・この愚か者が!精霊をぞんざいに扱うとはなんということか!衛兵!いやバラック!この者を牢屋に叩き込んでおけ!」
「うっす・・・」
「ええ!?何?変質者?!きち〇いだ!」
逃げようとする少女を捕まえようと兵士たちがわらわら集まってくる。身の軽い様子はあったが人数の暴力には抗えず、無事に捕まえられた。
精霊を扱うと言うことを得々と教えてやろう、と心に決める。
少女の横には心配そうにたたずむ深い蒼の精霊がいた。
「見ない精霊だな」
興味が沸いたので声をかけようとするのだが、ふ、とその精霊が消えてしまう。
「あ、・・・死にました」
兵士たちに捕まっていたはずの少女は幾ばくかの金銭と肉に代わっていた。精霊を出していたために魔素枯渇に陥っていたらしい。
幼少期によくあるミスである。
「・・・・・・バラック、次に見つけたら私が話をする。応接室に来るように言っておいてくれ」
「・・・っす」
死は刑罰の一つでしかない。
この世界で生きていた私にはそれが当たり前だった。
外の世界の人間が、どういう感情を持つのか。
この時の私には知る由もなかったのである。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■
■異世界人により即急に発展したため、ナークタリアさんの認識ではまだカイナ村です。