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魔術学園のエトワール☆


仕事終わりでログインしたわたしに衝撃的な事実が告げられた。


「は?課題達成率失敗?」


今の課題達成率は43%。残りの生徒が達成しても50%に達しない計算らしい。


「ボスは・・・あ、これは終わってるか」


さすがに10体とか簡単すぎる。

いや、生徒を連れながらだとそうでもないのかな。生徒がやられると失敗なことを考えると、わざわざボスに挑むのは危ない。避けれるなら避けたい選択だ。


「マップは、あー67%か」


こっちは80%行きそうだね。と言っても未踏破は横道ばかりのようだから、めんどいし時間がかかりそうだけど。残っているプレイヤーの人数によっては失敗するかも。


さて、自分達はどうしようかな。

課題だけでいいかな。


「遅いぞ下民!これでは課外授業が失敗してしまうではないか!」


ああん?お姉さん仕事だぞー。

というか、成功できるのかな、残ってる生徒はどれくらいいるのさ。


「残っているのは三組です・・・なぜ、これほどリタイアが多いのか・・・これでは魔術学園の面目がたちませんぞ」


涙目で、と言うか泣きながら答えてくれたのは学園長だ。

彼は課題が終了してしまった生徒たちに顔をむけて声をあらげた。


「色恋に惑わされて失敗した者ばかりですじゃ!補講で鍛え直さねばなりますまい!」


生徒から不満の声が上がる。

色恋もあったが直接的な課題の失敗は全部冒険者がリタイアしたためだった。

これは冒険者を頼んだ教師陣か冒険者組合が悪いのではないか、と。

そしてその声に紛れて別の声も上がった。


「ハズレ王子がいるから失敗したんだよ」


声の方に目を向けてもみんな目をそらしている。

生徒たちに今回の課外授業は失敗か、という空気が流れていた。


「・・・まだ終わってはいないぞ!あきらめるのは弱者の哲学だ!」


ふむ。

王子のキラキラには陰りがない。

わたしは王子に伺った。


「全体の成功を目指すんですか?」


わたしとしては王子の課題をやればいいかなと思っていた。あと素材8種類。時間内に終わるだろう。

けど王子の課題は全体の成果には結び付かない。生徒の達成率は成功の50%に達しないからだ。


けれど全体の成功を目指すならかなり忙しいことになる。

洞窟の中に入り踏破していない部分を埋めなくてはいけない。条件の80%まであと13%。

運が良ければ一回で埋まるかもしれない数字だ。


「馬鹿者め。両方に決まっているだろう」


決まってないよ!

馬鹿はお前だと叫びたくなるこころを抑えてチョチョいと外部サイトを立ち上げる。

頼りたくはなかったけど仕方ない。


じつはこのイベントは初めて行われるものではない。クローズドテストでも行われた、二回目のイベントだった。

なので攻略wikiにマップや採集素材が載ってるはずなのだ。

あった。げ。


「3ルート、全部分かれてる・・・」


小山の外からダンジョン内に入れるのは3ヶ所。その3ヵ所が全てボス部屋でしか交わらない、完全個別のルートだった。


「壁の薄いところ・・・は無理か。行って帰ってたら間に合わないな」

「・・・おい冒険者」


冒険者だけど冒険者ではないよ。シィリエお姉さんだぞ。


「わかった。シィリエお姉さん、もしお前がこの逆境を打破できたなら私の参謀にしてやろう」


いらんわ。

度々ムカつくのでぶん殴らせてほしい。


「・・・ふん、考慮しよう」


まじですか。

ふふん、ならやろう。

お姉さん本気出しちゃうよ!


方針が決まればあとは早い。

必要なアイテムを購入し移動しながら適用していく。


「遅れないでよ!」

「ふ、ふん。私を誰だと・・・!」


洞窟内の移動はダッシュだ。出てきたモンスターはわたしがモアで倒す。壁ごと、地面ごと切り刻めるのでどんな敵にも対応できる。

未取得のアイテムは一つずつだけ確保だ。


「よし、ここで最後、と」


1ルート埋まった。

ボス部屋が近いがボスを倒すと課題クリアで王子が離脱してしまう。

採集品の場合は揃っていても提出するまでは終わりではない。


「つ、次、次は、はぁ、はぁ」

「こう。」


わたしは自分の首にモアを充てた


「な───」




※STRにペナルティーを受けました

※2000G落としました

※水生核×2を落としました

※精霊石×5を落としました

「───にをするんだ!?」


──よし、イベント広場だ。


生徒が死亡すると課題失敗だが、プレイヤーが死ぬとスタート地点に返されるだけ。

プレイヤーのお供と化している学生NPCはプレイヤー復帰にあわせてもちろんついてくることになる。

このように。

ルートの戻りができない以上、これしかなかった。


幸い保護(ロック)が外れた装備は1ヶ所だけだ。

再びアイテムを使って保護(ロック)しておく。この為だけにチャージしてあった課金を使ったのだ。ふへへ、課金って便利だなぁ。


今のマップ踏破率はどれくらいなのか。

しかしそれを聞く暇はなさそうだった。


「ぎゃひゃひゃひゃひゃ、わたくしめは真魔軍 序列が4位、エルカイオス・オニコニーでございます!ぎゃひゃひゃひゃひゃっ」


襲撃を受けていた。


コウモリの羽をはやしたゴブリンみたいな顔の人型のモンスターが、学生たちのいた広場を絨毯爆撃のように魔術で燃やしている。

学生と冒険者は右往左往しながらともにその襲撃に抗っていたが、一方でボーっと見ているだけの冒険者も少なくない。

わたしはその一人に声をかける。


「何があったの?」

「あ?、見てなかったのかよ。なんかイベントだよ。急に始まってさ。魔族の襲撃みたいな?」


あるあるだ。

本当、よくある展開だ。

でもなんでこの人らは見てるだけなんだろ。


「いや、飛ばれると攻撃できなくて。誰か落としてくれねぇかなって」


・・・まぁ冒険者のパーティーとは役割分担だから、攻撃できない人が出るのはしかたないのかな?

わたしは弓に矢をつがえながら言った。


「落とすから攻撃して!そこの見てる人も!‹(ゼツ)›!」


ユエの戦技が当たったコウモリゴブリンは魔術で飛翔していたのか、魔術がかき消されて地上に落ちる。

そうなればタコ殴りだ。

暇そうだった冒険者もあわてて攻撃に参加しだす。


※先兵『エルカイオス・オニコニー』を倒しました


「学園長!今のマップ踏破率は!?」

「ううむ、79%じゃ!」


あと1%!

あああくそっ、間に合わないっ。


「あーあ、なんだよ邪魔しやがって」

「魔族ってほんと嫌ですね。こいつのせいで失敗かぁ」

「魔族こわーい。きっしょーい」

「疲れたから帰ろうぜー」


「黙れ落伍者どもめ!」


一言で場を鎮めたのはキラショタ王子だ。ただし相手の怒気を煽ってのことで、それはただ周りのヘイトを集めるだけの結果にしかならない。


「私が残っているうちにあきらめるなど言語道断!最後まで私の勝利を願うことこそが臣下である貴様らの役目であろう!見ておれ、私が貴様らを勝ち馬に導いてやる、私を信じろ!」


そんな無茶な宣言をかまして王子はいくぞ!と森へ走り出す。


馬鹿じゃないのかなこの王子。

時間的には間に合わない。

これから森を抜けて洞窟に入り、埋まっていない側道を埋める。

魔族の襲撃イベントがなければかろうじて間に合ったかどうかってところだ。

既にこの時点では失敗が決まっていた。


けど


悪くない。


そんな馬鹿は嫌いじゃないんだ。


わたしたちは走る。移動速度はわたしの方が早いので、王子の前に現れるモンスターをユエで射殺していく。ちょっとくらい足を止めても置いて行かれないからね。


森を抜ければ小山だ。その途中に人の手で作ったような穴があり、中に魔術の光で照明がなされている。


「どっちだ!」

「二つ先を右へ!その先が未踏破領域だよ!」


走る、走る。道がせまいから森の中とまではいかないが、かなりの速度で走り抜ける。


けれど───


※イベントの終了時刻となりました

 広場マップへともどされます


視界が暗転し、次のタイミングで明るくなったのだけれど・・・そこはイベント広場だった。

わたしたちはスタート地点に戻されたのだ。


※イベント結果を集計中です


「くそっ、間に合わなかったか・・・」


「なんだよ、王子ダメだったのかよ。っぱりダメじゃねーか」

「あーあ。はっずかしー」


あれだけの啖呵をきって出て行ったのにダメだったのだ。王子に聞こえる声量で愚痴を言っている。


※イベント結果の発表です

※地域限定イベント【魔術学園のエトワール☆】は失敗に終わりました

課題①課題成功率  50%中・・・44%

課題②ボス討伐数  10体中・・・10体

課題③マップ踏破率 80%中・・・79%


★報酬 ・・・


※あなたの成果

学生の課題・・・失敗

裏ボス討伐・・・成功


★報酬 ・・・



あ、ああ~っそういや素材提出してなかった!

あー・・・いや、提出したら課題終了で王子も動けなくなってたか。


でも裏ボスってあれかね、コウモリゴブリン。課題に失敗した生徒が広場に多く集まってたから囲んですぐに倒せてたけど。良かったのか悪かったのか。

うーん、まぁこんなものかな。自分は最初の目的通り、素材を箱に変えて終了しよう。


「王子、ゴメンね、課題提出してなかったから失敗しちゃったね」

「・・・ふん、愚図な冒険者め」


どうせ愚図ですよー。一度死に戻ったときに提出することは出来たかな。あと1%を追わなければ達成は出来た。まぁ正直そんな時間はなかったけども。

いいさ。もう王子とも会うことはないだろう。ここでお別れです。ばーい


わたしはイベントテントによって素材をラッキーボックスに交換してもらう。全部で13箱。拾った物も合わせて17箱だ。

1つ開けてみる。


※青鱗魚の羽


なるほど?・・・使い道に困るアイテムが出てもな。


「ほう、面白そうなものだな」


王子まだついてきてたのですか。

面白そうと言うならひと箱あげよう。課題は失敗してしまったが、検討した君へのご褒美だ。


「ふっ、もらってやろう。ならば私からは貴様を参謀にしてやる。どうだ、うれしかろう」


く・・・成功させれてれば殴れたものを・・・!

ま、でも参謀はいらないかなー。

王子の参謀ってなにするんだろうね。


「これをもっておけ。用がある時には呼び出すからすぐに王城に参れよ」

「え?、・・・『王印許可証』?。おー、これが許可証」


あざっす!許可証ほしかったので助かるよ!

貴族街に入れるし魔術塔にも行けるね。あとで行ってみよう。


王子は課題を失敗したと言うのにそれほどがっかりした様子もなく去っていく。

あの王子、実は強者なのでは・・・?

逆境にもあきらめず、人からの悪評にもへこたれることがない。己の目指すものをまっすぐにめざせるタイプの人間。

普通は難しいんだけどね、それができるってのはすごいことだ。


ガンバレ王子。あとは言動を何とかしなよ★

こうしてわたしのイベントは終わったのだった。



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