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炎竜の山


「‹閃光(ホーリーランス)›!」


ピアが輝き、長さが倍くらいになる。こちらに向かってくるスノーエルクに合わせてピアを突き出した。

うん。さっくりと倒せるね。スノーエルクはこの辺りだとHPの多いモンスターだったけど楽勝だった。

槍は突き刺した相手に継続ダメージを与えるらしく、一瞬で500、600、600みたいなダメージが出てエルクは倒れた。



※スノーエルクを倒しました

※霜降りシカ肉

※ヘラ鹿の角

※ヘラ鹿の毛皮



「ランスなのか。ジャベリンみたいに投げられないかなぁ。弓で打てるといいんだけど」


突き刺して継続ダメージがあるのでやっぱりランスということなのかな。突き刺すことにしか機能を割いていない円柱状の騎乗槍がランス、兵士が持って突き刺したり薙ぎ払ったりできるのがスピア。投げ槍がジャベリンだ。


今日は使ってしまったので試すのは明日になる。

武具精霊は重さがほとんどないので弓につがえることができる。剣は大きくなって振り回す戦技だったので弓で飛ばせないけど、突撃槍なら矢とやってることは変わらない。ぜひとも飛んでほしいね。


「あのエルクを一撃、ですか・・・エルフでも数人がかりで囲んで倒す魔物なのに」


武器が強いもので。


「ワッタルさんに聞きたいことがあるんだけど。『短小』とか『種無し』ってなんでダメなの?」

「エルフは子供ができづらいですからね。それを揶揄する言葉として使われています。人族の間だとその言葉はエルフのことだったりもしますよ。あとワッテルです」


エルフを悪しざまに言う時の隠語になってるってことか。頭の美しい人にヘアスタイルを指摘すると戦争になるような感じか。自重しよう。


「そいやクソエルフってどうなるのかな?また国外追放?」

「クソ・・・いえ、自分にはわからないですが、幽閉か処刑罰だと思いますよ」


この世界の処刑は軽い。いや重いけど、死んでも復活するので一時的に苦痛を与える刑罰とされてるらしい。


「まぁ二度と会うことがなければいいよ。まさかこんな森の中で会うことになるとは思わなかったし」

「ハハハ・・・森ですいません」


以前はもう少しアクセスの良い場所に集落を作っていたらしいけど、竜が争うようになってからは巻き添えにされるのを嫌って東の森深くに移り住んだということだ。


「ナークタリア様も優秀な方だったんですよ。魔術の覚えはいいし、精霊にも好かれている。それに人族の習性も理解されてるし、あの人なら人族が子供を増やす原動力を探ってきてくれるのではと期待されていたのです」

「子供を増やす原動力」

「はい。エルフは少子化傾向にありますからね。どんどん種族数が減っていってしまって・・・」

「へー・・・」


少子化の話はリアルの方でも問題になっていた。

その一つに娯楽が充実してしまい、異性と逢瀬を楽しむ工程が面倒になった、というのがある。

うん。ゲームが楽しいから仕方ないよね!

仕事から帰ったあとはゲームだから、その時間に恋人と過ごす余裕とかないからね。


「あー、まぁ。うーん・・・、大変だね」

「ですね。もっとハーフエルフなどを国で雇用すればいいと思うんですけど、純粋なエルフじゃないと貴族になれないのでみんな純粋種と結婚しようとするんです。だから余計に先細りしちゃうんでしょうね」


わかってるなら改善してほしいね。

まぁエルフの未来とかどうでもいいか。わたしはわたしの未来のために竜を仲裁しなくちゃならないし。


「竜たちはなんで喧嘩してるの?」

「あー・・・何やら因縁めいたものがありましてね・・・」


あの二竜はもともと兄妹だった。

兄と妹、そして母竜の三竜でむつましく暮らしていた。けれど二竜が独り歩きできるころになると母竜は山を出て行った。もう自分たちで狩りができるとだろうと安心して置いて行ったのだ。

けれどそれは密猟者を呼び込む結果になってしまう。人族や魔族はもとより、クスリになるからと卵の欠片を求めた竜人族や獣人族もいて二竜は常に狩りにおびえなければならなくなった。

二竜は母を思い啼いた。まだ幼い子供竜なのだ。親の庇護が必要だったのに。

しかし母親はかえってこない。

なぜなのか、なぜ───

そこで片方の竜が気が付いてしまう。

妹のせいじゃないか、と。


「ええと?どうしてだったんですか?」

「それが、どうやら妹竜には”女子に嫌われやすい”という生い立ちがあったのです」

「は?女子に?生い立ち?」

「はい。生い立ちです」


ええとー?

生い立ち。

ゲーム開始時に設定できるやつだよね?

”脛に傷を持つもの””食べ物の消化が早い””採掘すると鉱石が手に入りやすい”とか、それ生い立ちなのか?みたいなバフだったりデバフだったりが付与される設定だ。

わたしは開始時にOFFにしたのでついていない。


そして妹竜には”女子に嫌われやすい”というデバフが付与されていたらしい。


「だから、妹を嫌って母親が出て行ってしまったと」

「そうです」


それが喧嘩の原因かー。

しょうもなっ!

でも生い立ちは確かに効果のあるものらしい。付けてないので人の話だけど、”動物に嫌われやすい”という生い立ちのあるプレイヤーは確かに他のプレイヤーよりも動物が近寄ってこないのだとか。


妹竜は自分のせいで母親がいなくなったと思ってショックだし、兄竜は妹のせいだと思って怒るし。

で、そのまま二竜の関係がこじれて大人になった今も険悪状態で、一日一回は喧嘩しないと気がすまないらしい。


「ちなみに兄の生い立ちって?」

「”父の意志を継し者”だそうです」


・・・そりゃ妹も怒るわ。


自分はデバフな生い立ちなのに自分を責める兄がかっこいい生い立ちなのだ。コノヤロウと思うのは当然だろう。


うーんこれは仲裁とか難しいぞ。



それから3日かけて山のふもとまでやって来た。

やー流石エルフだ。迷いの森で迷うことなく目的地に到着できるとは。ワッテルさんはここで待機である。山にはわたし一人で登る。


「よし、火山から行こう」


サラマンダー装備で火耐性があるから行けるでしょ?という安直さで決めた。

マップの名前は"火崩山"。


出てくるのはゴーレムと火竜だ。


※ゴーレムを倒しました

※石ころ

※岩


※マッドゴーレムを倒しました

※粘土

※腐葉土


※サンドゴーレムを倒しました

※珪砂

※砂


※マグマゴーレムを倒しました

※溶岩石

※ルビー


火竜はちょっとやばそうな雰囲気なので手を出していない。ワッテルさんも隠れてやり過ごすように言っていた。


と言うか、今回会いに行くのは炎竜だよね?火竜と仲良くすればいいじゃないか。

同じ蜥蜴なのだし。妥協すればいけるはずだ!


件の炎竜は山の頂き付近の洞窟の中にいた。


「こんにちはー」


グルルと喉を鳴らしながら頭を上げる。

───でかい。頭だけでわたし以上の高さがある。

火竜となら倍くらいサイズに差があった。あー、これは仲良くできませんわ。上司と部下ならいけるかも?

炎竜はファンタジーゲームにおける代表的なドラゴンだ。

長い首と短い手足、長いしっぽがあり、二枚の大きな羽を持つ。赤い鱗状の体表は溶岩の明かりで照らされてオレンジ色に輝いていた。


『◆A??◆◆◆?』

「え、えっとー、言葉わかんないな」

『◆◆?◆??◆◆◆』

「うーん?」


返事があったようなので会話はできるのだろう。しかし何をしゃべっているのかさっぱりである。


「わかる言語で話しなよ。がんばれドラゴン!蜥蜴じゃないところを見せてみなさい!」

『◆A・・・』


む、なんかにらまれた気がする。おかしいな言葉がわからないはずでは?


「マーザーコン!マーザーコン!」


煽ってみた。


『ミジンコ◆ふ◆?ぜいが◆あぁぁぁAA?あ!!』

「しゃべれんじゃん」


炎竜の全力ブレスをシールの‹逆鏡(サカガミ)›で反射する。

逆鏡は短時間の絶対防御と、防いだダメージと等倍の反射ダメージを与える。継続時間はランクに相当し、Aランクのシールなら6秒だ。


『ぐ◆??◆があA?ぁぁあぁああ◆A!』

「ないすシール!行くよモア、‹巨刃(ギガブレイド)›!!」


逆鏡の大ダメージでのけぞった炎竜の胸元に潜り込み、モアを振りかぶる。モアのランクでは5m、5秒のスキルだ。

重さを感じない刃がビデオゲームの様に炎竜を切り刻む。

サラマンダーならとっくに倒せているダメージ量だ。


「──ダメかっ、ユエ、ロー、にげよう!」


巨刃のノックバックが残っているうちに武器を変更し洞窟の外へと駆け出す。サラマンダーと同じならブレスは即死。ブレスの範囲外に出て隠れながら弓で削るしかない。


洞窟の入口に羽を広げた巨大なドラゴンが姿を現す。ひぇえでかい!ははっやばい大きさだ!

ピンチなのに楽しくなる。

いいよ、かかってきな!


遮蔽物に隠れながら矢を放つ。ユエのホーミング能力のおかげで大雑把な攻撃でも当ててくれる。魔術矢は氷だ。弱点のはずなのに当てても当てても削っている感じがしない。


炎竜はブレスを撃たない。おそらく逆鏡のダメージが開けていた口のなかにヒットしたのだろう。口内炎でしゃべるのがおっくうになるのと同じだ。ラッキーだね。

代わりに風と雷の魔術を使う。

風は避けにくいがまだいい。もうモーションを覚えたからね。けれど雷はやばい。避けにくいうえにシールで軽減してさえHPが半分も減らされる。

森まで行ければ雷は怖くないんだけど。


「あとちょっと!」


けれどわたしの足を風がさらう。

炎竜が両手を広げ胸を張る。雷のモーションだ。


「‹(ゼツ)›っ!!」


炎竜の魔術に遅れて矢が竜の腹を削り取る。

絶はユエの戦技だ。着弾時に当たった所を削り取り、魔術の効果を消去する。


「ぐ・・・」


雷が体を打つ。大ダメージと短時間のマヒ───ここに次の攻撃が来れば、わたしは死に戻ることになる。

けれど攻撃は来ない。

絶の効果で雷は途中で断たれ、炎竜を飛翔させていた魔術が消えたのだ。


炎竜は地面に叩きつけられる。

わたしは落下ダメージを確認する余裕もなく、マヒから解放された身体をムチ打って森に駆けていた。


森までくれば木々を盾に矢で攻撃できる。

そう───は許されない。


地に伏した竜が口いっぱいに焔を溜め込んでいる。

まずい、止める方法は!?


口の牙のギザギザにそって光が流れた。

ブレスが来る


ゴオオオォォォォッ

と耳をつんざくような音が降り注ぎ、炎竜を地面に縫い付ける。

ブレス、何者かのブレスだ。

炎竜は体を横にたおし首を伸ばす。そして頭上にブレスを放った。

二つのブレスが相殺し、辺りが水蒸気で覆われた。


わたしは駆け出す。前へ。

あと使ってない戦技は二つ。


「穿てケツ・・・アスタリスク!‹閃光(ホーリーランス)›!」


弓から放たれた光の槍は、無防備にさらされた股間の急所に刺さる。

炎竜がビクンと震え、ブレスが消える。


「ローちん、全部のせで!‹永遠(エターニア)›!」


4秒間の魔法消費MP無し。わたしはありったけの魔術スキルをショートカット欄からひたすら連打していた。


空からは魔術が。ブレスは終わったらしく、それでも援護射撃をしてくれる。

そして地上からは魔術の奔流が。

炎竜に向けて放たれていた。



※炎竜『アグニマーラ』を倒しました

※炎竜の肉

※炎竜の牙

※炎竜の竜角

※炎竜の竜鱗

※炎竜の皮

※炎竜の竜骨

※火の宝玉(特大)

※竜結晶

※『炎竜を討伐せし者』の称号を得ました



あああーおわったー!おわったよー!

疲れたー!!何時間戦ってたんだー!?

あー・・・もうこんな時間か・・・長かったからなぁ・・・・・・・・・寝ないと仕事に支障が!


バサバサと頭上から何かが降り立つ音がする。


『◆◆?◆?A?◆◆◆◆』

「ごめん!時間ないから明日ね!じゃあね!」


挨拶もそこそこにログアウトする。

今日はいい夢が見られそうだ。


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