イベントの打ち上げ
一つ目の敵集団を後ろ側から蹂躙し、二つ目の集団をほぼ殲滅し終わったころだ。
視界の端がピコピコ明滅している。運営からのメールだ。
「みんなー、ドロップ品はこっちに集めといてね。ユエ、シール、ローは食べれるの食べといてー」
メールを開けるとイベントが終了したこととそこでの貢献度ランキング?で1位を獲得したことが書いてある。
「イベント開始はしってるけどこんなに早く終わるんだっけ?まいいか。ええとー?選択式チケット二枚か」
イベント報酬とは別にランキングの報酬としてリスト内のアイテムから選べるチケットを2枚もらった。
リストを見ると武器防具精霊アイテム、スキルなんかも選べるようだ。一部の課金アイテムもある。
「畑の権利書とか牧場の権利書ってのもあるのか。ちょっと心惹かれるなー・・・まぁ無難にスキル選ぶのがいいと思うけど」
他にも投擲武器に『パンティ』とか『ピアノ』とか意味がわからないものも多い。調理器具セット、大工道具セット、お、機械ミシンてのもあるな。
うーん
「ん?終わった?・・・おぉ」
なるほど。これはいいかもしれない。
«精霊剣 モア»
攻撃力10 rank D
低級精霊の剣
«精霊槍 ピア»
攻撃力9 rank D
低級精霊の槍
チケットで交換した選択精霊たちです。剣の精霊のモア君と槍の精霊のピアちゃん。
どちらもランクがDだ。このランクってのが高いほうが自分で判断して動いてくれるっぽい。弓Eのユエよりも杖Dのローの方がほしい場所に魔術を使ってくれる気がする。
そして彼らには今回のイベントで獲得した大量のドロップ装備を食べてもらう。
«精霊剣 モア»
攻撃力136 rank B+
中級精霊の剣
«精霊槍 ピア»
攻撃力160 rank B++
中級精霊の槍
うん。とんでもない数値だね!
帝国の標準的な直剣の攻撃力が+30とかだからね。騎士とかだともっと良い武器を装備していることもある。
ランクの上昇は精霊の宿った武器を食べたからかな。中の精霊ごと吸収してしまったらしい。
«精霊弓 ユエ»
攻撃力112 rank C+
中級精霊の弓
«精霊盾 シール»
防御力185 rank A
上級精霊の盾
«精霊杖 ロー»
攻撃力107 rank C++
中級精霊の杖
ぐへへっ みんなすごいことになってるね!
今回集めた装備を全部つぎこんだ結果だ。もう数値を見ているだけでご飯3杯はいけるね!
ちなみに部下として動かしている魔導人形たちには余った装備を使ってもらっている。ほとんどが斧とロッドだけど。その中で精霊付きのものはレテにあげようかな。
«転移の精霊 レテ»
ーー rank B++
一度行ったポータルに移動できる。人々の願いによって生まれた精霊
ん。満足。
よし、この調子でもう1集団くらい倒しに行こうかな、と思ったところで個人チャットが来た。
『お姉ちゃんイベントの打ち上げやるよー!』
『行くいくー!』
妹のお呼びとあらばイベントそっちのけで会いに行くのは当然である。
魔導人形たちに整列してもらい、ある程度性能を整えてアイテム欄にしまっていく。性能が違うとアイテム欄が別になるので大変なのだ。
ただでさえ獲得した防具や食料物資や精霊石で空きがカツカツだ。もうモンスタードロップを捨ててでも入れていこう。
デナントの中央広場に来るとすでにイベントの打ち上げが始まっていた。
果実酒がふるまわれ、イノシシの肉やサラマンダーの肉を使った料理がふるまわれている。一食目は無料で、二食目からは有料というやり方らしい。
わたしはサラマンダーの照り焼きをもらって妹を探す。あ、おいしい。・・・サラマンダー肉残しておけばよかったかも。帰りにでも狩ってこよう。
「シィ姉っ、こっちだよー!」
「みぃ、それにみんなもっ。イベントお疲れ様ー!」
みぃたとマユラと花風が料理がたくさん乗せられたテーブルについていた。そのテーブルの空いている椅子にうながされて腰を掛ける。
この一角は地面に複数のテーブルとイスが置かれ、人の流れがあまりない。のんびりと料理を楽しむプレイヤーであふれている。
「お姉さまイェーイですわ!」
「イェーイ!」
かんぱーい。とグラスをぶつけ合うが彼女たちはみんな未成年。グラスの中身は果物のミックスジュースらしい。
「お姉さま、こちらもおいしいですよ。サラマンダーのハンバーグに雷神鳥のからあげです」
「ありがとー♪」
しっかし肉ばっかだ。ゲームだから大丈夫とはいえ、偏ったメニューだよね。
「お野菜は・・・まだまだ産出量が足らないので少ないんです」
「ごはんとか食べたいけどねー。どこかでドロップすればいいのに」
ほむ。ドロップは知らないけれど持ってます。
長持ちしやすい根菜と穀物ですが。ちょこっと葉物もある。
「・・・・・・いっぱいありますわね」
「シィ姉、これ使って料理してもらおうよっ」
「すごいですね。ハピエナさんを呼んできます」
花風ちゃんが呼んできた商人クランのまとめ役って人に食材を渡していく。アイテム欄の空きのためにも全部放出しよう。なにかわからないけれど狂喜乱舞で感謝された。この量があればカイナ周辺の食糧問題が解決するかもしれないそうだ。何日分だかわからないが、帝国軍兵士の腹を満たせるだけの量を奪ってきたのだ。きっと賄えることだろう。
野菜類を見ながら「後方支援貢献度・・・」とボソッとつぶやいていたのが不気味だったけど。
打ち上げにはGMの人も数人混ざって楽しんでいた。
緑のGMさんがプレイヤーさんに今回のイベントのことでひたすら頭を下げているのが印象的だった。緑の人はピーターパンモチーフのキャラらしいけど子供時代の象徴ではないな。その腰の低さは下請け会社の社員のような哀愁を漂わせている。
イベントが始まったと思ったら終わったのは想定外だったらしい。というか、聞けば開始一日で終わったらしい。そりゃ苦情も来るだろう。
「お姉ちゃんはどこで戦ってたの?」
新しくふるまわれることになったカレーライスを食べながらみぃたが身を乗り出してきた。
なので私はここ三日のことを話した。
───そう、イベントが始まる二日前からわたしは帝国軍相手に戦闘をしかけていたのだ。
帝国軍兵士のザンゴを魔導人形の数の暴力で倒してからのことだ。
ザンゴはNPCなので復活までは5日かかる。ゆっくりしていてはわたしが帝国の敵対者であることが伝わってしまう。
わたしはザンゴが復帰する前に行動を起こした。
まず輸送の馬車を襲い補給物資を奪った。食糧、武器、矢弾、精霊石だ。敵の補給を弱らせながら、これがどこに届けられるのか調べて回る。
王国側の国境線に三か所と南の国境線に1つ。南は戦争の準備ではなく防衛にとのことなのでこれは無視していい。
三か所のうち一番多くの物資が送られたのがシシャナク領との国境だ。
物資を適当に集めた後はシシャナク攻めをする軍の集団の様子を一日かけて観察していた。編成や武器の配布状況。食糧置き場やテントの数。
周囲の警戒にも魔導人形を使っていたのでおかげでやりやすくなった。
わたしの魔導人形を紛れ込ませられたからね。
情報収集がはかどった。人形たちにいつ襲撃指示を出そうかとタイミングを計っているうちに、望んでいたタイミングが来た。
戦争が開始されたのだ。
帝国の魔導人形たちが王国側へ攻め入っている。おかげでこちらの戦力は減り、兵士たちの注意は国境側に向いていた。
わたしは巡回偵察に紛れ込ませていた魔導人形に一斉に襲撃指示を出す。
同時に残りの人形を出して突撃の号令を出した。
それからはかなり一方的な蹂躙劇になってしまった。
敵の指揮系統が後ろ側───わたしが襲撃した方に偏っていたからだ。
指揮者を失い右往左往する兵士たちを囲んで倒していく。逃げようとしたり戦いに秀でていたりする相手には私の遠距離狙撃が飛び、無力化していく。
終わってみれば、辺り一面に帝国兵士のドロップアイテムが散乱していた。
「はー・・・すごいね。ちょー活躍したんだね!さすがシィ姉だ!」
「うふふ、もっとほめてもいいんだよっ」
妹によしよしされる。
わーい幸せだぁ。このために戦った気がしてくるな!
「イベントへの参加方法が明文化されてない気がしていましたが・・・そんな戦争方法があったのですわね・・・」
「自由度の高いゲームとは知っていましたが、ここまでとは驚きました。お姉さまの規格外さを制限しないのは良いことですね」
君たちもほめてもいいんだよ?
「大好きですわっ」
「とても愛おしく思います」
みんなによしよしされてご満悦なわたしです。
聞けば三人も大活躍だったとか。
その時の動画を見せられたり閲覧数に驚かされたりしました。
そうして夜もいい時間になり、打ち上げがお開きになるころ。青いGMがポロリととある情報をこぼしました。
曰く、「聖剣の一本を魔王が手に入れちゃっててどうしようかと困ってる」と。
■GM ゲームマスターの略。ゲーム運営会社側の人でゲームがきちんと動いているか、不正な行いをしている人がいないか確認していたりする。仕事は多岐にわたり、イベントの管理などの仕事もする。プレイヤー側のイメージでは通報すると確認にやってくる人。
■二章終了です。