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第二回イベント

■6000文字。いつもよりちょっと長いです。


イベントが始まると一定時間ごとにカイナ西に布陣しているシシャナク軍勢が町の復活地点である噴水を破壊しに攻めてくる。

町の衛兵たちは城門を守り、門の外には冒険者ギルドが集めた冒険者たちで迎撃のための集団を作っている。


初戦は冒険者たちの敗北で終わる。

集団としてのまとまりがなかったのもあるが、緊急のイベントだったためにプレイヤーも集まりが悪かった。噴水までシシャナク軍に攻めよられ、軍の最後の一人を死に戻りさせるころには噴水の残りHPが半分以下になってしまっていた。プレイヤーたちが死に戻り即噴水防衛に参加できたからこそのギリギリ防衛とも言える。


町はにわかに戦場の様相をなしていく。

鍛冶職のプレイヤーが噴水の修理と迎撃のトラップなどを作成し、リーダー気質な人が冒険者をまとめて集団戦ができるように組み分けしていく。


迎撃の主軸は冒険者ギルドだ。

町民との温度差にはまだ気が付いていない。

プレイヤーはギルドの指示でシシャナクの兵士を討っていくが、それが町民の好感度を下げていることに気が付くのはまだ先のことだった。




「姉ちゃん、来たぞ」


カイナ西から少し離れた、マップ名がデコボコナ丘にきりかわる境界線のあたりでのこと。

狩りをしながら待っていたわたしに数人の馬に乗った集団が近づいてきて声をかけたのだ。


「おー、早かったね。・・・相変わらず黒いなぁ」


弟のキャラは黒いトゲトゲした鎧を装備している。背中にしょった剣もなんか邪悪な感じだし、ロールプレイなのか趣味なのかだいぶ尖った外見だった。


「・・・姉ちゃんはなんで初期服のままなんだよ。装備買えよ」

「初期服は死んでも落ちないし壊れないんだぞ」


万能装備である。


「———で、クエストの概要を教えてくれ」


事の起こりはわたしがもう一回クソエルフに殺されたときに起こった。


※裏クエスト【悪逆領主代行を討て】を開始できます


クソエルフを退治するクエストが始まったのだ。

今回のイベントには明確な悪役がいない。運営の想定ではシシャナク伯爵が悪役になるはずだったのだが、彼は志が高く騒動の発端の一部はあれども引き起こしたのは別の存在だった。

今現在領主の館に引きこもっている領主代行、冒険者ギルドの長も務めるクソエルフ───ナークタリア・ヴィア・アストライトこそが騒動の引き金を引いた極悪人なのであった。


この極悪人に鉄槌をくらわせるのは難しい。貴族の館にこもり、館は兵士たちによって守られている。そもそもその主であるナークタリア自体も精霊魔術を使える高レベルNPCだった。


「───て感じで、わたし一人じゃクエストをクリアできなさそうなんだよね。だから助けてくれそうなクロに声をかけたんだけど、やってくれるんだよね?」

「イベントのクエスト条件が二方向にわかれたんだな?。噴水を守る正規ルートと、代行を討つ裏ルート。テストプレイの時にはなかったことだぞ。裏ルートはたぶん姉ちゃんしか見つけてないなこれ」


領主代行を狙うなんて行動をするのがわたしだけだからだろう。もしくはカイナ西に布陣するシシャナク陣営に赴いて話を聞けばわかるのかもしれないが、今現在のプレイヤーたちはシシャナク陣営を夜襲しようという話はあっても話を聞いてみようという流れにはなっていなかった。


「手伝ってくれるなら詳しい条件とか話すけど」

「おれはいいよ。みんなはどうする?」


弟のパーティーメンバーからも了承の声が上がる。一部姉ちゃんを嫁に、とか姉ちゃんを撫でる権利をくれとかいう声も上がるが弟が殴って静かにさせていく。

全員参加のようなので詳しいクエスト条件を話していく。


「お、こっちにもクエストが出てきたぞ。代行を倒せばシシャナク陣営で捕虜にできる、と。取り返されもするのか」

「それはめんどうだから代行は最終日の最後の襲撃が終わってから倒そうよ」


イベント終了時刻が最終日の16時。シシャナク陣営が4時間ごとにカイナ町にくるので最後の襲撃時刻が14時だ。14時の襲撃を防げばあとの王子が来るまでの二時間はイベント終了を待つだけの暇時間なのである。

なので代行襲撃はそこを狙う。


「わかった。明日のオヤツ時だな。それで、このシシャナク側の人員ってのは誰が来るんだ?」


まだこいつ三時のおやつ食べてるんだ、さすが学校に行ってない半ヒキコモリ。という驚きを顔に出ないようにしておく。


「これから回収するよ。シシャナク陣営だけど伯爵さんの復帰場所の恩恵を受けてないらしくてシシャナク領から向かってきてるはずなんだよね。なんでクロたちにはいっしょにこの先まで彼女の回収についてきてほしいんだけど」


たぶん馬で、このジグザグナ丘をますぐに抜けてくるはずだ。それを待ってもいいのだけど無茶をして死なれでもすると復帰が間に合わない。彼女は今の伯爵さんと違い復帰時間が5日かかるらしいので。


女性だと聞けばパーティーメンバーの数人が喜びの声を上げる。男ばかりのパーティーならではのことなのだろう。

彼女を迎えに森の中に入ってみると弟たちの強さはかなりの物だった。


わたしが弓で背面クリティカルヒットで52ダメージを出しているのに、彼らは正面から一撃80ダメージとか出している。スキルを使っているらしいけどすごいダメージだ。

武器が違う。

拠点としては2拠点先の武器らしい。その頃にはわたしのユエではとても太刀打ちできないくらい武器の性能が高いのだろう。


「馬がくるぞ。あれか?」


促される先に騎士を乗せた馬が、道なりに走ってくるのが見える。単騎だ。


わたしは手を挙げて彼女に合図をした。気が付いたのかこちらに向かってきつつ馬の速度を落としている。


「シィリエ様、・・・そちらの方々は?」


お孫さんはわたしの後ろの連中を警戒しているようだった。まぁ殺されてからの復帰だし、警戒するのは当然のことだろう。


「弟とその仲間だよ。伯爵さんのお孫さん、あなたにはいっしょに領主代行を倒してほしいんだ」

「はい?、代行を、ですか・・・?」


わたしは説明をする。お孫さんが殺されてから何があったのか、今どういう状況なのか。

そしてこれから私たちがすることを彼女の疑問に答えながら説明していった。


「そうですか、もう、止める手立てはないのですね・・・」


戦闘が始まってしまえばあとは決着まで終わらないだろう。伯爵さんが噴水を壊した場合がどうなるのかわからないが、でもたぶん伯爵さんの断罪イベントは起こるのだと思う。

あとは王子様到着前に王子様を襲撃した場合だ。その時は戦争がずっと続く可能性があった。


「止める手立てはないけれど、あちらの陣営にも罪を償わせることはできるよ。王子にかけあってこちらの罪を軽くしてもらえるかもしれないし、そのお願いをするためにも領主代行は捕まえたいんだ」

「・・・・・・わかりました。お祖父様を助けられるのならお手伝いしましょう」


彼女の名前はセルティナ・シシャナク。騎士職を持つ中堅レベルのNPCだ。




最後の襲撃が終わった。冒険者たちの勝利だ。

イベント期間中の襲撃はもうない。シシャナク伯爵軍勢はあとの残り時間、復帰が間に合わないからだ。


町の噴水広場にはプレイヤーの出店が開かれ、中央では吟遊詩人職のプレイヤーが楽器を持ち寄り有名なRPGゲームの曲を演奏している。

演奏が一度やみ、示し合わせたかのように一つの曲を流し始める。それにあわせるように広場の中央には最近話題になっているアイドルユニットが、そのかわいらしいぬいぐるみを伴って踊り始めた。


「緊急イベントおつかれさまでした!」

「防衛側勝利を祝ってこれからお疲れ様会が始まりますわっ!」

「有志から果実水や果実酒の差し入れがございます。イベントの終了時刻まで、みなさま楽しんでいかれてください!」


そうしてふるまわれた物は最近入荷が少なくなっていたはずの果実を使った飲み物だった。

りんご、バナナ、ピーチ味のそれは薄味でもなく、しっかりとした味わいのものだった。

他にも果物を使ったスイーツやイノシシの肉だと言われる肉料理も売られている。今日は良い日だ。


お疲れ様会はイベントの終了までの時間を待つ間の暇つぶしのようなユーザーイベントだ。

プレイヤーのほとんどは最後の襲撃からログアウトせずにそのまま王子様到着後のイベントを見ようと残っていた。


「あれ?何だ」


誰かが高級住宅街の方を指さした。


「火事か?」

「え?煙?」

「なにかのイベントか?」


見れば黒い煙が立ち上っている。イベントは終わったはずだが他の場所でも襲撃がおきたのだろうか。


「行ってみるか?」

「水魔術なら使えるわよ」

「襲撃かもしれない。見に行くやつとここを守る奴でわかれようぜ」


そうしていくつかのパーティーが様子を見に向かったが、すでに何事かは終わっており、火も消し止められていた。

何があったのか、一部に焼け跡を残す館の住人に聞こうにも誰も残っていなかった。もしこれが情報を残さないための行為だとすれば徹底したものである。

彼らは困惑するばかりでできることもない。

そうして首を傾げている間にイベントの終了時刻がやってきてしまう。


「王子が現れたって。個チャきたわ。カイナ西でイベントがあるって」

「行こう!」


冒険者たちが向かってみればシシャナク陣営はより多くの騎士たちに囲まれ、武装解除されて地に膝をついていた。

貴族、王族と言うのは復帰までの時間を短くする技術を持っているらしい。

静かに、けれどその場に通る声で断罪の言葉が伝えられる。


あれが王子か。

それは輝くような金の髪と少し険を帯びた蒼玉のような瞳、鎧をまとっていても流れるような優雅さを感じさせる動きが、冒険者のみならず断罪される兵士をも魅了している。

美しい王子だった。


ただ、その言葉がどうにも途中途中で遮られる。

シシャナク側に交じっている低レベルプレイヤーのせいだ。一人だけ初期服なので目立っている。

一方的に断罪されるはずの言葉が、実は国を思っての行動だったり民を助けるための苦渋の決断だったりするのだ。これには王子も考えさせられるようで言葉を止め、次の言葉を探す様子がみられた。


そしてシシャナク伯爵の断罪の時が来た。

最期の望みを聞かれた伯爵は兵士たちに(とが)がないこと、そしてできるなら王子と剣で立ち会うことを希望していた。

王子は剣の腕が立つのだろう。その剣士と最後に戦い斬られることを喜びだと言っている。


二人は武器を構えあい、そして最後の戦いが始まった。





「ぐううっ!」


右肩から大きく袈裟懸けに斬られた伯爵さんはそのまま地面に倒れる。感極まって飛び出したセルティナに半身を起こされたが、どう見ても致命傷だった。


「ガハッ、さ、さすがでございますじゃ。ユーベルト様。これなら、この国の先も安心して任せられますな」


伯爵さんは血を吐きながらも笑顔を向ける。目が輝かしいものを見るように細められ、王子の姿に未来の国を見たのだろう。彼は満足そうだった。


「シシャナク伯・・・あぁ。私はこの国を良いものにしよう。約束する。あなたの忠告にも親身に応えるつもりだ。安心して任せるがいい。だから・・・あなたはもう休め。あなたの罪はこれでなくなったのだから」

「ありがたく・・・存じますじゃ」


そうして目をつぶる伯爵さん。王子は剣をしまい、伯爵さんに背を向ける。

どうやら終わったらしい。


良かった。とんだ茶番だった。

まったくこのアホ王子には困らされることばかりだ。そのうえこの展開である。

でも終わったならもういいよね?


「終わったよね?それじゃ、早く縫おう」

「・・・は?」


泣き顔のままわたしに視線を向けるのはセルティナだ。そんな顔もかわいい。でも妹には負けるけど。


「シィ姉、ハイポーションあるぞ」

「ナイス弟。がんがんかけてちょうだい」


ちょっと邪魔なのでセルティナにどいてもらい、伯爵さんの傷の血をハイポーションで洗い落としながら傷口を縫っていく。なぁに実際の人体に比べればだいぶ作りがはしょられている。このピンクのがきっと肺で血が出ているのがたぶん動脈だ!

縫うことに慣れていてよかった。ぬいぐるみより緊張はするけど。


「よし、たぶんオッケー」


青色吐息だけど伯爵は死んでない。

あとは様子見ながらポーション飲ませておけばいいだろう。


と、まだ終わっていなかったらしい王子のイベント会話が続いていた。


「シシャナク伯爵はわが剣を受け、お亡くなりになられた!彼の方の罪は許されたのだ!私はシシャナクの兵の罪を問わない!領地に戻り、彼の方の誇り高き姿を伝えるがいい!」

「いや、死んでないよ」


王子はきょとんとする。それから視線を落とし伯爵さんを見下ろす。


「・・・ほんとだな」


さっきからこんな感じだ。ポンコツ王子すぎる。


「あー・・・シシャナク伯の最期は私が王に伝えよう、その最後の忠心もだ!」

「だから死んでないって」

「・・・えー・・・彼の武勇は後の歴史書にも」

「まだ歴史にするのは早いって。いいから。それよりこの騒動を戦争に発展させた大馬鹿野郎を引き取ってよ」


外見だけはきれいな王子が額に手をあてて考え込んでいる。

まぁ仕方ないのだろう。彼はストーリーという名の強制力であんなことを言っているのだ。本来なら伯爵さんは死んでいる。死ぬ前提で話が作られ、死んでからのストーリー展開しか用意されていないのだ。

それを修正しろといってもすぐには無理だ。


「・・・わかった。話は聞いている。こちらに国営を学びにきているエルフが国を揺るがす大問題を起こしたとな。こちらで引き取り、国で裁判にかけよう」

「よろしく」


よかった。クソエルフはきちんと裁いてもらえるらしい。ただどうもこの国の人間じゃないらしいっぽいことだけ心配だけど。国外追放だけして放流したりしないでね?


クソエルフはドナドナされていく。さようなら王子様。次会う時はまともであってほしい。

檻に入れられたクソエルフが連れていかれる。荷馬車にのせられて荷物と一緒に。


「おい、待て貴様っよくもやってくれたな!これがどのような遺恨を残すことになるかわかっているのか!」


知らないよー。てかクソエルフのしたことを考えたらとてもそんな阿呆なこと言えないはずなのだけども。


「エルフ国の貴族である私にこの仕打ち!覚えておけ!貴様など国で指名手配にしてくれるからな!」

「ばーか。あーほ。」

「ぐぎぎぎぎぎぎぎっ!こ、こんな低能にっ!天が許しても私が許さんからなっ!必ず、必ず後悔させてやるっ!」


思ったよりも煽りに弱い種族だったらしい。

エルフと言えば知性に富み、穏やかで静かな暮らしをする種族ってイメージだけど、たまにプライド高くて他種族を見下しているって設定の作品もあるな。クソエルフはどちらかと言えば後者か。


「でくのぼー。のっぽ。たんしょー。わかどしよりー。」

「ぬがっ、なんだとっ!?ち、違うぞっエルフは性に積極的ではないだけだ。訂正しろ!それはエルフ族を侮辱する言葉であるぞ!」


どれかが刺さったらしい。ふむ。


「そっかー。・・・かわいそうに」

「きさまー!!」


ドナドナと。こうしてクソエルフとも無事に決別でき、伯爵さんも生き残った。

おおまかには満足いく結果だっただろう。


「シィ姉、報酬分けどうする?」


クエストのクリア報酬の他に、クソエルフを倒した時のドロップ品があった。

けれど今回手を貸してもらったのはわたしだ。報酬は弟たちで分けてほしい。


「いや、面白かったからいいよ。みんなとは相談してこれをシィ姉にってことになってる」


すでにどう分けるか決まっていたらしい。わたしは白い小さな宝石がはまった指輪を渡される。

ちょっときれいなのでもらっておく。弟がリアルで女性に指輪を送れるのは何十年先のことか。ゲームでもいいから彼女を作ってほしいね。


まぁ彼氏のいたことのないわたしが言うことでもなかった。


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