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伯爵さんに道案内



「ほう、異世界からの冒険者じゃと」

「そうだよ。ゲームが本稼働したからね。クソゲーってウワサのわりに人は多いかな。100万ダウンロード達成って広告してたはず」


ただし3回アンインストールしてからが本番らしい。

100万DLが多いのか少ないのかわからないが、それだけの人数をカイナ町だけで受けとめられるわけがない。

開始場所の候補は3ヶ所用意されており、特に希望がない場合は 関東 関東以南 関東以北 で別けられていた。わたしは弟妹と関東の開始場所だ。


「カイナの他に二ヶ所あるということか」

「そうだね。確か聖王国と公国だったかな。魔術よりの国と貿易に強い国だったと思う」

「レーウェン聖国じゃな。あそこは魔術学園を作るほど魔術に傾倒しておる。それにグランディナ公国か。あれは元は小国の集まりじゃから面白い国らしいの」

「伯爵さんは行ったことないんだ?。行ってみたいと思う?」

「ふ、そうさな。見れるものであれば見てみたいものじゃな」


まるであきらめたように呟く。


「見に行こうよ。転移精霊いるから一回行けばすぐだよ」

「そうじゃな。わしが処断されなければ共をしてやろう」

「・・・ならやめればいいのに」

「それはならぬ。誰かが止めねば国の衰退につながるからな。国防の為に命をかけるのは老いぼれが丁度いいのじゃ」


伯爵さんはこの挙兵行為で処罰を受ける覚悟で国にもの申したいようです。


聞けばカイナ町の異世界人(プレイヤー)のために、国の備蓄食糧だけではなく国民が食べていくための食糧すら放出されているのだとか。


カイナは今、この国を食い潰そうとしている。


誰かがどうにかしなきゃならないけれど、その完全な解決策は誰も持っていない。

あるのはどこかを犠牲にする妥協案だ。


今の国民を犠牲にする方策をやめ、異世界人を犠牲にする方策に切り替えさせる。

その呼び水を起こそうと兵を出したのが伯爵さんなんだって。


異世界人の一人としては頭が上がらない話しだ。

わたしの頭では良いアドバイスも出てこない。

弟にでも聞いてみるかなとおもいつつ、この伯爵さんを止める手立ては無さそうだった。


いや、わたしがカイナ町までの道の道案内をしているから迷わせればいいんだけどね!


報酬が鋼鉄の武具って言うのできちんと道案内するつもりです。


いつしかデコボコナ丘を抜けカイナ西に入る。


ここまで来ればもうそこだ、と言うところで後ろから馬の蹄の音が聞こえてきた。


「お祖父様!」


騎士鎧を着こんだ女性が馬でわたしたちの前をふさぐように止まった。


「お祖父様、考えをお改め下さい!」

「セルティナか。ならぬ」

「ですが!」

「今動かねば間に合わぬのじゃ。冬がやってくる前にな」

「ならばわたくしも参ります!武人として共に加えていただきます!」

「馬鹿者め!」

「お祖父様の孫ですから」


シワシワの顔をくしゃりと歪め、でも嬉しそうに少しだけ笑う。

そしてわたしにだけ聞こえる声で伯爵さんは呟いた。


「シィリエ殿、もし万が一の時には孫をつれて逃げてくだされ。あやつは死を経験するには若すぎるのじゃ」

「いいけど。できる範囲でならね」


それでいいと伯爵さんは頷く。




カイナ町がまだ見えない距離だが斥候に出ていた伯爵さんの部下が進行方向に騎士の一団がいることを伝えてきた。


「領主代行の一行じゃな。わしに話しがあると先ぶれが来ておるわ」


話し合いで戦争を回避したい一団なのだろう。けど伯爵さんはカイナ町の権力者を視野に入れていない。彼が事を起こしたのはそのさらに上───王様を動かしたいからだ。

話し合いは始まる前から決裂することがわかっていた。



実際に話し合いが始まってもその印象は変わることはなかった。と言うよりももっとひどい。相手側のリーダー格が不在で伯爵さんを相手に交渉できる人が誰もいない。


流石に伯爵さんも頭に来たのか、いつ戦闘開始の号令が出てもおかしくない雰囲気だ。


「どうか、どうか少しばかりのお時間を。間もなく、間もなく領主代行の復帰がかないますので、それまでどうか・・・!」

「えぇい話しにならぬ!いないのであれば領主を連れてこい!土地の話しに土地を治める者がおらぬで話しになるか!」


ほんとだね。これはちょっと相手側の不手際が過ぎると思うよ。どんな事情があって復帰に時間がかかるのか知らないけどいないなら代わりを連れてくるべきだね。


しかし伯爵さんを抑えるのは何も相手側ばかりではない。お孫さんもできるかぎり穏便にすませたいのでいっしょになって伯爵さんを止めようとしている。がんばれー


それはそうとわたしの仕事はいつまでだろう?もうほとんどカイナ町なのでそろそろ報酬を払ってほしい。

ここでいっしょになって待たされてなきゃいけないんだろうか。


長引きそうだから、とこちらの兵隊が天幕を立てはじめたころ事態に変化が起こる。

三頭の馬が全速力と思われる速度でやってきた。

おそらくあれが領主代行だろう。兵士たちに剣呑な空気が流れる。


「シィリエ殿、あなたもきてくだされ。話の流れによっては先のこと、よろしくですじゃ」


ううん、これは本当に巻き込まれることになるのかな、と少し憂鬱。けれど確かにこの集団の中にいて、伯爵さんと心を共にしていないのは私とお孫さんだけだろう。


ここにいる兵士たち100人はみんな、伯爵さんとともに処断される覚悟でいる。死を覚悟してここにいるのだ。

しかたない、と重い腰をあげて遅れつつ参加すると、自己紹介中だった相手側の参加者と目があった。


わたしが「クソエルフ」と声を上げるのとクソエルフが手を上げるのは同時だったと思う。


クソエルフの前方にうっすらと赤く輝く半透明のナニカが現れる。そのナニカからの嫌な予感にわたしは近くの兵士の後ろに隠れた。


辺りが赤く燃える。

一番最初はお孫さんだ。次に私の隠れ蓑になった兵士。

瞬く間に燃やし尽くされる。


「おのれ!?謀りおったか!?」


そちらに顔を向ける余裕はなかった。次に燃えたのはわたしだ。わたしは





※STRにペナルティーを受けました

※100G落としました

※錆びた剣を落としました

※バナナを落としました

※アンガーボア肉×3を落としました

「ああああーっ!くそーっ!反撃できなかったー!」


クソエルフを見つけたのに一撃も返せなかった。というかクソエルフめ、わたしを見つけたとたん殺しに来るとはね。姿を見られずに狙撃を成功させたつもりだったけど、もしかすると誰にやられたか知ることのできるスキルとかあるのかもしれない。死んでも生き返る世界だからそんなスキルがあっても不思議じゃない。


「うぬー、くやしいっ」


お孫さんが燃やされた時点でもっとやれることはあったと思う。いや、こちらが狂刃をふるうことはあってもあちらから攻撃されるなんて思ってなかった。やれることはほとんどなかったかもしれない。


しかしなぜ一番にお孫さんが狙われたのか?


「・・・まさかわたしの代わりかな?」


あの場で女性はわたしかお孫さんしかいなかった。そしてあのクソエルフが呼び出したのはおそらく精霊だ。それも(微)ではないしっかりした属性精霊だ。ハーフエルフじゃないしっかりとしたエルフだし、まっとうな精霊と契約しているのだろう。

クソエルフはおそらく精霊にわたしを殺すように命令したはずで、それがたとえば「あのクソ女を討て」とかだったりする。

命令を実行しようとした精霊は相手側に二人の女性がいることに気が付き、その両方を焼き殺そうとした。主と精霊の認識が別だったからだ。

・・・・・・うん。ありうるな。


あのクソエルフ、とんでもないやらかししたんじゃないか?


お孫さんと兵士さんは数日後に復活する。

けど、クソエルフがしたことは消えてなくならない。話し合いのテーブルにしぶしぶでもつこうとしていた伯爵さん陣営に対して、クソエルフは騙し討ちのように凶刃をふるった。話し合いどころではないな。

殺し合いが始まる。


というかこの世界の戦争ってどうなんだ?みんな数日すれば復活するんだよね?決着つかないじゃん。


「あれ?」


視界の端でピコピコなにかが出ている。確認すると運営からの告知だった。



※緊急イベント【西方よりの暗雲】開催のお知らせ

エリア【ファスティア】において防衛戦イベントを開催します。

カイナ西に襲来した騎士からカイナ町を守りましょう。


★イベント期間 ・・・

★イベント報酬 ・・・


◇イベント概要

カイナ町の発展は人々に笑顔をもたらした。けれどその影で妬ましく思う者も少なからず存在したのだ。

隣領の領主、シシャナク伯爵は隣国ナザール帝国にそそのかされるままカイナ町に対して挙兵してしまう。

たった100人の兵士、けれどそれは圧倒的な力をもった戦兵であった。

カイナ町のために立ち上がったギルド長の要請を受けて幾人もの冒険者がこれに立ち向かう。

勝つことはむずかしいだろう。けれど守り続ければ王都に知らせが届くはずだ。

美少年と謳われる王子は間に合うのか──!



「はーん」


前のイベントの時にはこんな告知はなかったんだけどな。きっとシステムメッセージを読まない人が多かったのだろう。知らせてくれるのはありがたいね。


しっかし・・・なんかちょっと違わない?

隣国の介入があるっぽいのは知らなかったけどさ、先にやらかしたのはカイナ町の方だよね?発展に笑顔?いや、住民の食料を奪うような状況でなかなかに難しい関係みたいだけど?

なんかちょっと作りこみが甘いっていうか、恣意的というか・・・。


ちょっと弟に話を聞こうかな。




弟は『その伯爵の言い分が正しいのかおれにはわからないけど・・・』と言いおいて続けた。


『それは好感度のせいだな』

『好感度?』

『そう。NPCそれぞれに設定された自分への好感度だよ』


カルマ値もあるのに好感度もあるのか。めんどうくさくないかな。


『好感度は上げることでNPCを恋人にすることができるんだ。オープンテストの時に好感度上げまくってギルド職員を彼女にした猛者がいるぞ』


何それすごい!夢のあるゲームだな!

てことはイベントの王子様も・・・!?


『その猛者はそのあと、彼女を殺して肉を手に入れて、彼女の誕生日に彼女の肉を料理していっしょに食べたんだ』


こういうとこだぞ運営!さらっと猟奇展開入るところがクソゲーなんだぞ!わかってるのか!?


『その後のアップデートで、自分を殺した相手に対しては好感度が大幅に下がるようになったんだよ』


大幅に下がるだけなのか。運営の頭どうかしてないか。してるか。知ってた。


『今回やらかしたのって、こないだシィ姉がスナイプしたエルフだろ?エルフのシィ姉への好感度が”殺意”レベルになってたんだと思うぞ』

『殺意持たれたからって問答無用で殺されてたらたまらないよ』

『姉ちゃんみたいなエルフだな』


どういう意味かね?

まぁわかった。なんかこう、運営の想定するストーリー展開にクソエルフとわたしが混じったために想定通りに運ばなかったってことかな。

プレイヤーは知らないからイベント通りに動くけど、NPCの間だと伯爵さんが必ずしも悪者ってわけでもなくなってしまっている。

もし何も考えずにプレイヤーがカイナ町の防衛に乗り出した場合、カイナ町以外も含めたNPCからのカルマ値や好感度がどう振れるかわからなくなってしまっているってことか。

片や大義名分を掲げ、民のために命を賭して兵をあげた老貴族。片やいきなり人を燃やし、話し合いもぶん投げる狂った他国人(クソエルフ)

NPCがどちらの肩を持つか一目瞭然だった。


『ややこしいことになってるね』

『クロはどうするの?イベント参加する?』

『おれはカイナにいないからね。仲間とエラント方面に進んでるよ』


どこかわかんないけど違う町で活動しているらしい。

さすが半ヒキゲーオタだ。私もそろそろカイナ町から次の町を探して移動しているところだし。伯爵さんにつかまっちゃったけど。


『今回のはたぶんキャラ死イベントだな』

『きゃらし?』

『登場キャラが死ぬイベントだよ。ストーリーに係わるやつだ』


ゲームなのでストーリーがある。そのストーリーの進行では、死んだキャラクターはそのまま復活することなく死亡してしまうらしい。

死んでも復活するこのゲームでの数少ないNPCの死亡方法の一つらしい。


死んで復活しない。


伯爵は死ぬために用意されたNPCキャラクターなのだ。


『・・・・・・ねぇ弟』

『なに姉?』

『ちょっとやりたいことがあるんだけど』



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