「谷川さん家の猫」著者:大吾
谷川さんの家には二匹の猫がいる。一匹は黒猫のコクト、もう一匹は白猫のハクレイである。二匹は非常に仲が良く、主人の谷川さんが留守の間、何やら悪さを企んでいるようで、
「ハクレイさん、いつものキャットフードに飽きたんだけどさ」
「何よ、あんた贅沢言いすぎ」
「仕方ないじゃん。あんな味の濃い魚ばかりでこっちもうんざりなんだよ。しょっぱいものは嫌だ嫌だ」
「でも甘いものなんてあるの?」
「探しに行くんだよ、それを。僕に任せておけ」
コクトは自信ありげにそう言った。
その日の夕方、谷川さんが新聞を読みながらリビングでくつろいでいると、ハクレイが彼の足元にやって来てごねた。
「にゃーー」
ハクレイはその場でおしっこを流した。
「おいおいこんなところでバッチイぞ」
谷川さんは仕方なくトイレからトイレットペーパーを持ってきて、床を拭いた。しかし板にこびり付いた臭いはどうにも取れず、洗面所からぞうきんを絞ってはさらに一生懸命拭いた。
谷川さんが掃除に集中している隙に、台所ではコクトが冷蔵庫のドアを開けて、真ん中に堂々と置かれた羊羹を勝手にくすねた。
谷川さんが掃除を終えた頃、ハクレイは何食わぬ顔でコクトの元へ戻る。
コクトは皿を用意し、羊羹をサイコロ上に切って分け与えた。
「想像以上にすんなりいっただろ!」
「あぁあ、嫌だな。主人から躾のなっていない猫だと思われるよ」
「いいのいいの。それより見つけたぞ、この家に隠された甘いもの」
その黒く艶のある菓子を二匹は珍しそうに眺める。
「何で訝しがるんだよ」
「コクトの持って来るものを信用してもいいの?」
「まぁ、僕も食べたことは無いけど、きっとおいしいよ」
「しょうがないね。食べますか」
「いただきます」
二匹は羊羹を食べた。初めて食べる甘味と美味さで感動に溺れる最高のティータイムを過ごした。
二時間後、冷蔵庫から羊羹が消えたことを谷川さんは悲しんだという。