スキル至上主義の国で、姫が授かったスキルは『家事』でした 〜魔王の元に送られた姫はスキルを駆使して愛されたいと願う〜
だいぶ前に書いていた連載構想の第一話です。
飲み会で連載の続きが書けそうにないからと慌てて投稿したわけではない。いいね?
反応如何では次の連載候補なので、よろしくお願いいたします。
人と魔が同じ大地に生きる世界。
この世界では魔力の強い魔族が権勢を誇っていました。
それを憐れんだ神々は、人に力を与えました。
その名は『スキル』。
人が積み上げた経験や知識を魂から抽出し、若い者に与える力。
死してなお繋がり、進化を続ける魂の力は、魔族と拮抗するに至りました。
と言うのが数百年前のお話。
今や人と魔族の間に争いはありません。
国としては分かれているものの、交易などは盛んに行われています。
平和な世。
暗闇の生き物の目が退化するように。
代わりに聴覚や嗅覚が発達するように。
人に与えられた『スキル』もまた、その理から逃れる事はできませんでした……。
「国王陛下。姫のスキルは『家事』です」
「……何?」
神官の言葉に国王は一瞬固まり、そして大きい声で笑い出しました。
「成程! 国の舵取りのスキルというわけか! 素晴らしい! 姫に相応しいスキルだな!」
「いえ、王様。舵取りではなく、『家事』のスキルで」
「何と! 火災に関するスキルとは初めて聞くな! 危険だが制御出来れば実に大きな利がある!」
「王様。火災の『火事』ではなく、仕事の『家事』で」
「鍛治の才能とはまた女には不憫な……。しかし国を象徴する剣を打つ事があれば、王家の者としての義務は果たせるであろう!」
話を聞こうとしない国王の態度に、ついに神官はキレました。
「だーかーら! 家の仕事の家事だよ! 現実に目を向けろこの親バカ王!」
「いーやーだ! 姫のスキルがそんな嫁入りにしか使えない物だなんて信じるもんかー! あと急に褒めないで! びっくりするから!」
「親バカ王は褒め言葉じゃない!」
神官のツッコミに、国王の勢いも弱まります。
「えー、本当に家事? 何で? 王子達には、「政治手腕」とか「財政管理」とか「人材活用」とか王族向きのスキルが付いてるのに!」
「知りませんよ! ランダムなんですから! むしろこれまでの引きが神がかってるんですって!」
「何だ。騒がしいな」
浅黒い肌に捻れた角。
一目で魔族と分かる風貌の男が、二人の前に現れました。
「あ! 魔王様! 聞いてくださいよこのバカ王が……!」
「おい。我が友にして国の王たる者に、その呼び方はないだろう」
「は、し、失礼を……」
「親バカ王と正確に呼ぶべきだ」
「そっち!?」
「またまた、褒めすぎだぜ!」
国王は嬉しそうに髭を撫でます。
「大方こいつの事だ。十になって姫に与えられたスキルが望んだものでないとごねているのだろう」
「そうなんですよ!」
「ちなみにそのスキルは何だ?」
「家事なんですよ」
「国の舵取りと言うなら悪くないではないか」
「そうじゃなくてですね」
「火災を扱うスキルというのは初めて聞くな」
「その火事じゃなくて仕事の!」
「成程、女には過酷であろうが、鉄を打つ仕事というのもスキルがあれば」
「国王のボケを全部なぞるなぁ! あんた全部聞いてたろ!」
神官の怒りのツッコミに、魔王は手を上げてまぁまぁとなだめました。
「冗談はそこまでにして、王族としてそのスキルが問題であれば、私に預けるか?」
「え?」
「この国ではスキルに沿った仕事に就く事が半ば義務付けられている。姫もその目に晒される事だろう」
「そうなりますね……。お労わしや姫……、まだ十歳だと言うのに……」
「だが魔族の国たる我が国はスキルそのものがないからな。幾分か気安く過ごせよう」
「そんな事言ってウチの娘を幼いうちから可愛がって手篭めにするつもりだろう! そうはさせないぞこの幼児性愛者!」
国王は王冠を脱ぐと、大上段に振りかぶりました。
「落ち着け。その王冠の尖った所で何をするつもりだ」
「よく考えてください王様! 魔王様の言う通り、魔族の国ならスキルを聞かれたりする事もありません!」
「う、そ、それは……」
「それにスキルは進化もしますから、そうしたら大手を振って帰って来れるじゃないですか!」
「た、確かに……」
国王の勢いも少しずつ収まりました。
「……わかった。魔王、姫を頼む」
「あぁ、任せろ」
「ただ! 姫の柔肌に指一本でも触れてみろ! 地の果てまで追いかけてでも償わせてやるからな!」
「……腕力でも魔力でも圧倒的に上なはずなのに、何だこの悪寒は……」
「あ、王様に新しいスキル『父の愛』が宿ってますね」
こうして姫のためを思って、魔王の国に預けられる運びとなりました。
しかしこれを城の侍女が聞いていました。
盗み聞きではありません。王様が大声を出したせいです。
その話は色々な人を伝わり、姫の耳にも入りました。
その時には、
「姫のスキルが王族に相応しくない『家事』だから、魔王の元に政略結婚で送られる」
というものに変わっていました。
姫はショックを受けました。
ここで王様に泣いて訴えたら、誤解はすぐ解けたでしょう。
しかし、姫はとても真面目で、王族としての責務を自覚し始めていました。
(私が魔王に嫁げば、国のためになるのですね……)
こうして姫は悲壮な決意を固め、魔王の国に行く事を決意するのでした。
読了ありがとうございます。
この後余裕ぶってた魔王様が、姫の『家事』スキルの恐ろしさにメロメロにされる物語……、見たい? 見たくない?
楽しんでもらえたなら幸いです。