第84話 公爵令嬢は日常を楽しみたい6
◇
「お帰りなさいませ、お嬢様」
アンソワ家の邸宅へ到着し、自室の湯舟に入る。飛んだり跳ねたりしていたので、髪がごわつ砂がついているような感覚だった。
「今日は髪の毛を念入りに洗ってもらっていいかしら」
「かしこまりました」
「フウも泡泡したい」
入浴中にフウが入ってきた。シャンプーの泡が白いから興味を持ったようだ。
「これ食べ物じゃないわんよ」
メイド達の前なので、貴族の言葉と平民の時の言葉が混ざってしまい、変な言葉になった。
「分かってるよお~。フウはグノムと違って馬鹿じゃないもん!」
「僕はフウより賢いぞ!」
プンプンしながら入ってきた。フウに対抗するのではなく、私に言い聞かせている言い方だ。
「入浴中に入ってきたらダメっ!」
「お兄ちゃん、へんたーいだ!」
何も考えずに入ってきたのか、グノムは横に向けていた顔を正面に向け、目を合わせると顔が赤くしてすぐに出ていった。
「フウは良い?」
う、うーん。フウは女の子なのだろうか、男の子なのだろうか。いや精霊に性別はないが心としてどっちなのか。
「フウは、女の子?」
「フウに性別は無いよ~!」
「うーん、許すわ!」
「僕は女の子だよっ」
ミノムが女の子の陰をカーテンに映し出し、入ろうとしてきたがNGにした。
フウと一緒に湯舟に入り、泡だらけにして楽しんだ。
◇
食後、買ってきた貴腐ワインを自室で準備してもらう。ルル以外の従者は皆下がってもらった。
「ワイン飲む人ー?」
「「はい!」」
アンディーンとドリアドが返事し、サラマンディアが小さく手を挙げる。ルルにワインを注いで貰った。
「んー!最高」
ドリアドが満たされた声を出す。どんな声が出ても不思議ではないくらい甘美で色っぽい秘密の味だ。口の中が溶けてしまいそうだ。
「水の国の酒とは全然違う甘さだ。これもいける」
アンディーンもお気に召したらしい。
サラマンディアは水の国の酒を別人格の時に飲んでいるので、飲めていない。ちょっと口を尖がらせて不服そうな雰囲気を漂わせている。パッと見た感じではいつもと変わらない雰囲気だが、飲みたかったという気持ちが隠せてない。
「にゃいおあうらあ(おかわり)」
美味しすぎてハイペースで飲んでしまった。お酒が弱いとわかっていてもやめられない、止まらない。
「相変わらずお酒弱いわねぇ~」
ドリアドが頬を赤くしながら笑う。
「お嬢様にお注ぎした分でなくなりました。別のワインをご用意しますか」
「まだ二杯目なのに、もうなくなっちゃったの!」
サラマンディアとアンディーンも2杯目を既に飲んでいたようだ。大人4人で飲むとワイン1本では全然たりない。
「別のワイン……」
サラマンディアが飲みたそうな声で呟く。私が飲めなくてもサラマンディアは一人で空けるだろう。
「りゅりゅ、もーいっぽおねりゃいちゅわ。(ルル、もう1本お願いするわ)」
「かしこまりました」
「そういえばアンディーンって酔っぱらうとどうなるの」
ドリアドがアンディーンに聞く。精霊達の酔っぱらった姿は見たこと無い。いつも私が一人で酔いつぶれているだけだ。
「私は水の精霊だぞ。体内にある毒物はすぐ浄化される」
「そうだったわね~!つまんなーい!サラマンディアは?」
「酔ったこと無い」
ものすごい酒豪発言だ。
「もう!二人とも可愛げがないわ!フィーナちゃんくらい分かりやすく酔いなさいよお~!決めたわ!アンディーンは浄化禁止!サラマンディアには一番度数の強い酒を持ってきてもらいましょう。私達だけ酔っぱらうなんて不平等だもの!」
たしかに二人の酔った姿も見てみたい。私はチェイサーにお水をルルにお願いしよう。
「そなたは酔うとどうなるのだ?」
アンディーンがドリアドに聞く。
「そんなの決まってるじゃない。若返るわ(真顔)」
若返る!?そんな火の国の天火鳥草のような効果があるとは、どれほどチート要素を隠しているんだ。
「ドリュアド、じゅりゅいいい(ドリアド、ずるい!)」
「ふふ。でも本体にかけてもらわないと若返らないわよ。あと特定のお酒じゃないとダメ」
色々条件があるようだが、若返るお酒があるだけでビックリだ。
ルルがサラマンディアにテキーラ、私に水を持ってきてくれた。
「では始めるわよおぉ~!大人精霊で飲み比べ対決!ルールは簡単、酔ったら負け。何されても許すこと。サラマンディアはショット、アンディーンは解毒なしで私と同じお酒を飲むわよ」
「わたちもー!」
「お嬢様はこちらをお飲みください」
ルルに水となぜか寝る前に飲むホットミルクを渡された。もう寝なさいということだろうか。ふむ、ホットミルクおいちい。
サラマンディアは何杯飲んでも表情を変えなかったが、ドリアドはなぜか徐々に大きく成長していった。若返るというより成長している。アンディーンは水色と赤ワインの色が混ざった色になり『酔うのは楽しいのだなー!ハハハハハ』と笑い上戸になっていた。皆が酔っぱらっている中、サラマンディアだけが冷静な表情なのがつまらなかったので、ルルに梅酒水割りを持ってきてもらい、サラマンディアが酔うまで一緒に飲むことにした。
「サラマンディア!まらまら飲めるだしょー!酔うまで飲むじょー!!」
サラマンディアの前に座ると、グラスを『コンッ』とぶつけられた。余裕の笑みを浮かべている。どうにか酔わせてみたい。ロウソクの灯りに照らされたサラマンディアをじっと見つめ、ゆっくりお酒を飲む。少しずつ頬が熱くなってきた。水割りでもすぐに酔ってしまうようだ。
「シャラマンディア全然きゃわんなーい!!」
サラマンディアの頬をツンツンと突く。相変わらず冷たい肌だ。
「いや、そうでもない」
頬を突いている手首を掴まれ、胸元に引っ張られる。
「心拍は早い」
ドクッドクッという人間の心臓の音ではなく、火が激しく燃え盛る音を出していた。
「ぎょーっていってるぎょーっていってる!きゃはははは!(ゴー!って言ってる)」
アンディーンの笑い上戸がうつった。
「フィーナちゃん、そんなに近づくと燃やされちゃうわよ~」
少し巨大化したドリアドが、頭の上に胸を乗せながら話しかけてきた。胸も大きくなっている。
「きゃーー!きょわいいい」
ドリアドの言葉に脳死した言葉で反応する。
「燃えない火もある」
サラマンディアが優しい色をした炎を出す。
「ぎゃああああああ」
ドリアドは炎が心底怖いのかお化けをみたかのような反応で離れる。
「じぇんじぇん熱くなーい!」
出された火に手をかざして、サラマンディアの火で遊ぶ。
「このにゃかで寝てみたーい!もっとおおききゅー!(この中で寝てみたい、もっと大きく)」
サラマンディアが全身を火に変え、おいでというようなポーズで立つ。その火の中にアンディーンが走って向かう。
「サーカスの火の輪くぐり」
アンディーンがサラマンディアの体の中を走り抜ける。
「「キャハハハハハ!」」
部屋に笑い声が響く。精霊達は本当に自由で何をするか予想がつかない。笑ってさらに良いが回る。一度落ち着くためにも水をいれたい。
「りゅりゅ、おみじゅー」
ルルにお水を頼む。
「水ならここにあるぞ!水よ、虹を描き出でよ、水球」
初級魔法の水球を指から弧を描くように出す。口をあけると水が飲めそうだ。
「火よ、我が守りとなれ。火壁」
サラマンディアが火壁を私の前にだし、水球が届かないようにする。
「なにをするのだ!サラマンディア!」
「ふんっ!そなたの汚水を飲ませようとするからだ」
「私の水は、浄化する力を持った水だぞ。酔いも一瞬で醒ますことができる!ハッハハハハハハ!」
酔いたい時には絶対飲みたくない水だ。
「お嬢様、お水をどうぞ」
「ありがとぉ、りゅりゅ」
水を飲むと、限界がきたのか眠くなってきた。サラマンディアとアンディーンがバトルをしそうな雰囲気を漂わせているので見たかったのに……。眠気が勝ってしまった。
◇
ー翌日。
目が覚めると、一つのベッドに複数人が寝ていた。足元にドリアド、右にフウ、左の顔の近くに小さい姿のグノムとミノム。グノムとミノムの下にアンディーンとサラマンディアがなぜか重なるように寝ていた。何があってこうなったのか。
「おはようございます。お嬢様」
「おはよう、ルル。昨日あの後、何があったの」
「それはですね……。どこで寝るかで争って、揉み合っていたので私が最終的に皆さまを寝かしつけました」
うーん、ルルが寝かしつけるとはどういう状況だろうか。全く想像できない。
「昨日は迷惑かけたわね、ありがとう。ルル」
「いいえ、当然のことをしただけです」
二日酔いもなく今日も一日が始まる。
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主人公所持金:3銀貨79銅貨




