第82話 公爵令嬢は精霊達を自由にしたい
ー翌日。
メイドに起こされる前に目が覚める。立ち上がり、カーテンを開ける。
東の空が薄紅色に染まり、荘厳な朝焼けが広がっていた。帰宅後すぐに結婚や引っ越しが決まり心がまだ騒ついたままだからか、早めに目が覚めてしまったようだ。王宮へ行くと落ち着くまでは自由に出来る時間がかなり減るだろう。今日は息抜きと準備を兼ねて中心街へ買い物へ行こう。
「おはようございます、お嬢様」
いつの間にかルルが部屋の中に入ってきていた。
「おはよう、ルル」
ルルの方へ振り向いて話す。
「お着替えされますか」
「いいえ、まだいいわ。朝食はお父様やお兄様が食べた後に、精霊達と食べるから料理人にもそう伝えておいて。食後は中心街へ行くわ」
「承知しました。手配致します」
気持ちよく目覚めた朝だったが、再度ベッドに入り二度寝した。
◇
「こーんやー、まーちーをみにいこ~う♪」
光の精霊の馬鹿でかい歌で目が覚める。まだ寝れるのに。
「精霊達が早くご飯を食べたいとうるさいのじゃ。はよおきろ」
「お嬢様、食事の準備は整っております」
ルルの声に仕方なく起き上がり着替える。豪華なドレスではなく、街中に行くための動きやすい服装を選んだ。スイートハートのネックラインに、ロングフラッパードレスだ。ドレスに柄は無く、胴回りは白色で、スカートの裾に向けて徐々に紺色になるグラデーションのデザインがされた服だ。
黒真珠のネックレスをつけて、上品にしめる。耳には夏を感じさせるホタルブクロのイヤリングをつけた。窓から風が吹くと、イヤリングが揺れてより夏らしさを感じた。
前からみると、膝丈のスカートに見えるが、後ろから見ると落ち着いたロングスカートに見える。風通しが良いので夏に着るのにちょうどよいドレスだ。
◇
「「「「「いただきまーす」」」」
食堂で精霊達と食事をする。机の上には野菜、肉、魚とサラマンディアの為にお酒とつまみも用意されていた。さすがルル、抜かりが無い。
「ねぇ、グノムとミノムは風の国に行ったときみたいに大きくなれないの?椅子に座ってご飯を食べたほうがいいと思うんだけど……」
「大きくなれるけど、小さい自分に慣れちゃったからあんまり大きくなりたくなーい」
ミノムが答える。
「僕は大きくなってあがてもいいぞ!座っても食べられるからなっ!」
グノムは大きくなってもよいと言う。双子のうち一人だけがサイズが違うのは違和感がありそうだが、逆に見てみたいのでお願いすることにした。
「ありがと。グノムは座って食べてみよっか」
グノムは私の肩の上に乗り、『フィーナの為にやるわけじゃないからな!』と言う。近くて声が大きい。
グノムは目の前で限りなく透明に近い大きな結晶に変化し、その結晶体の中から人型となり現れる。パリパリパリと剥がれた結晶達は光に反射しながら塵となり消えていった。
膝の上にグノムが座っている状態になる。
「グノムって鉱石だから仕方ないけどちょっと重みがあるのね」
「お兄ちゃん膝の上に座って食べさせられる子どもみたーい!ちゃんと椅子に座らないと」
ミノムがグノムに言う。
「い、言われなくてもちゃんと椅子に座るもん!」
プンプンしながら椅子に座る。怒っている姿が可愛い。ミノムがいじりたくなるのも分かる。
「フー、これ食べたーい」
風の精霊フウがサラマンディアの隣に現れる。
「……」
フウはつまみとして用意されたクリームチーズをつまんで食べる。サラマンディアは何も言っていないが、お酒を飲まれたわけではないので、気にしていない様子だった。
「おいしー!ほっぺが落ちるー!」
フウは両手を頬に当て、頬を持ち上げる。本当にほっぺが落ちると思っているのか、頬を持ち上げている姿が可愛いらしい。風の国からの帰り道では白い食べ物を思いつかなかったが、クリームチーズや牛乳なら美味しそうに食べそうだ。
◇
アンソワ領の中心街へ馬車で向かう。御者は専属侍女のルルだ。馬車と並走して風の精霊フウが木々の隙間を通り抜ける。木が騒めき、箱馬車の中にも草と土の香りが混ざった空気が入り込む。
中心街へ行く途中でフウも風と一緒に窓から入り、馬車の椅子に座った。
「どうかしたの?」
フウが一つの場所でじっとしているのは珍しいことなので尋ねてみた。
「ん~、今日はね~、ちょっと風が重い~!」
風が湿っているという意味だろうか……。それとも空気の気圧(重み)を感じているのだろうか。
「ミノム達が紋から出たいと言っておるぞぉ」
光の精霊に言われて、二人を呼び出す。
「「風ばっかりずるい!僕達も自由に飛び回りたい!」」
ミノムとグノムが口を揃えて言う。
「どうぞー!」
窓の外へ二人を促す。中心街につくまでは自由にしていても問題はない。
「「ちがうよ!僕達も紋に戻らず、フウのように自由にしていたいってこと!」」
「え、それはちょっと……。人前だと難しいかな。人のふりが出来るアンディーンやドリアドならいいけど、二人は精霊!って感じの精霊だから……」
「人前では大きくなるからいいでしょ? ね?」
ミノムが顔の前に両手を合わせてお願いをしてきた。片目をあけて『ね?』とお願いしているのが少し可愛い。
「人に失礼なこととかしたらすぐに紋へ戻すからね!」
「「はーい」」
二人が声を揃えて返事をする。
「ドリアド達も紋から出たいと言っておるぞおー」
光の精霊がやる気のなさそうな声で言う。他の精霊達も呼び出し、原則紋へは戻らないという約束を取り付けることになった。皆自由に行動しているフウに影響されてしまったようだ。困った……。一人だけ贔屓するのも気が引けたので、フウと同じルールになってしまった。
主人公所持金:3銀貨79銅貨




