表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
公爵令嬢は転生したい  作者: 中兎 伊都紗
第一章 公爵令嬢は転生したい(第6部 水の国)
89/93

第80話 公爵令嬢は想起したくない

 『後は若いお二人で』といわれ、お茶会はエーミール王子と二人で行うことになった。ローズガーデンへ着替えて向かう。


 ローズガーデンの中心には、円錐の形をした屋根がついている建物があり、アカンサス模様のアンティーク椅子と机が並べられ、お茶会をする準備がされていた。

 薔薇は返り咲きしている白い薔薇や真っ赤なルージュの薔薇、薄ピンクの薔薇が咲き乱れていた。手入れが行き届いているのが伝わる庭園だ。


 魔法学院にも似た庭園がある。庭園の中心にアンティークの机と椅子が用意されており、その時在学しているもっとも位の高い身分の者が自由に出入りできる場所だ。

 本来は誰でも利用できるのだが、身分が高い者が優先という暗黙のルール上、在学している学生の中で高位な者だけが出入りしていた。

 入学した最初の頃は、シエラール王子やそのご学友とお茶会や昼食をそのローズガーデンでよくしていた。いつからか王子の足が遠のき、そして来なくなってしまった。理由はもちろん分かっている。気づかないふりをして、ずっと王子を待ち続けていたが、どこかのタイミングで待つのをやめてしまった。

 それ以降、実家のローズガーデンにもあまり行かなくなってしまった。薔薇を見るたびに、脳裏に雨の日でも待ち続けた自分を思い出してしまうからだ。もとより雨の日は庭園で食べないと話していたのに。


「お待たせいたしました。エーミール王子」


 寝間着から豪勢なドレスに着替え、挨拶をする。


「そちらのドレスも素敵ですね。ローズガーデンを背景にすると高値で売られている1枚の美しいフォトーのようだ」


 笑った顔が聖女ポインセチアに見せていた第1王子シエラールの笑顔と似ている。他の人を重ねるのはだめだ。失礼すぎる。

 目を瞑り、幻影を頭の中から消し去り、表情を笑顔にするべく、口角をあげて答える。


「ありがとうございます」


 シエラール王子は私に対してこのようなことは言ってくれなかった。お世辞だと分かっていても少し嬉しい。


「あ、あの!エーミール王子は急に婚約とか結婚とか言われて、嫌ではありませんか」


 思考が冷静さを欠いているのか、間違えて急に思っていることを質問してしまった。


「ふふ。そんなことありませんよ。その質問をされるということは、フィナリーヌ殿は嫌ということでしょうか」


「い、、いえ。そういう意味ではなくてですね、爵位はく奪と婚約破棄をされた平民は嫌ではありませんかって聞こうとしましたの。なのに大事なところが抜けてしまいましたわ」


 慌てて震え声で訂正する。


「本心で話して大丈夫ですよ。実は僕にも好きな人がいたんです。お互い様ですね」


 私の心中を察して、話を合わせてくれたのだろうか。優しさが沁みる。


「ありがとうございます。そういっていただけると助かります。その方はどのようなお方だったのでしょうか」


「そうですね。破天荒な令嬢でした。普段の行動もそうなんですが、何かを成し遂げる時に思いもよらない方法でやり遂げる力を持っている女性です」


「素敵な女性ですね。その方は今どちらに?」


 平民の女性ならば愛人で済むのであまり関係ないが、貴族の女性ならば妾として離宮に招き、共に内政の執務を行う可能性がある。仲良くなれるといいな。


「……いなくなってしまったんだ」


エーミール王子の表情が急に暗くなる。まさか亡くなっているとは思わなかった。


「申し訳ありません。辛いことを聞いてしまいました」


「いや、いいんだ。仕方がなかった、僕がいけなかったんだ」


「そうなんですね」


王子から突き放したのだろうか。身分違いの恋は大体叶わないものだ。反対を押し切って結婚をしても相手の家族から歓迎されず別居、離縁になることが多いと聞く。


「ですが今はよかったと思っています。こうしてフィナリーヌ嬢と婚約できることになったのですから」


お世辞が過ぎます、王子。


「おほほほ。その期待に応えられるよう精進致しますわ」 


「そこで1つ提案があるのですが、形からでも夫婦となれるようにお互いに愛称で呼びませんか。僕は家族からエミルという愛称で呼ばれるのですが、その令嬢からは昔、エルと呼ばれていたのです。フィナリーヌ嬢からはエルと呼ばれたいです」


好きな令嬢との特別な愛称を教えるなんて……。その令嬢に悪い気がする。しかし王子なりに私と真摯に向き合おうとしているのかもしれない。その気持ちにはなるべく応えなくては。


「そ、その実は私も子どもの頃、家族から呼ばれるフィナという愛称とは別に、特別な愛称がありましたわ。シエラール王子はいつしか呼ばれなくなってしまったのですが、フィーと以前は呼ばれていたんです」


 子どもの頃、王子と遊んでいる時はたしかにフィーと呼ばれていた。いつから呼ばれなくなったのだろうか。とても大事な記憶のはずなのに、思い出そうとすると霞がかかっている。不思議だ。


 「ではお互いに、フィーとエルと呼び合いませんか。もちろん二人きりの時だけ」


王子が人差し指を立てて口の前に持ってくる。皆には内緒だよというそのポーズと無邪気な笑顔が可愛いらしく思えた。


「ええ、分かりましたわ。愛称で呼んだり、国政のことでもいいから話す時間を作って少しずつでもお互いに距離を詰められるといいですわね」


王子の言葉に笑顔で答える。


 ローズガーデンでのティータイムは切ない記憶を思い出しながらも王子との距離を少しだけ縮められた気がした。エーミール王子も悪い人ではなさそうで良かった。


主人公所持金:3銀貨79銅貨

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ