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公爵令嬢は転生したい  作者: 中兎 伊都紗
第一章 公爵令嬢は転生したい(第6部 水の国)
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第79話 公爵令嬢は婚約したくない

「婚約破棄し平民となる罰を与えた我らが、フィナリーヌにお願いしてよい内容ではないのはわかっている。3大公爵を確実に黙らせるには王族の血と王族の次に位が高いアンソワ家の名前が必要なのだ。この通り頼む」


王が頭を下げた。


「顔をお上げください。婚約破棄も爵位はく奪も第1王子シエラール様の暴走だったと心得ております。我が君が頭を下げる必要はありませんわ」


「こういう時でないと謝罪もろくに出来ない身分になってしまった。だからこそ今謝らせてほしい」


「謝罪はその辺でいいでしょう。王。私は許すつもりはありませんので安心してください」


お父様が王へとんでもないことを言い放つ。旧知の仲なのは知っているが冷や冷やしてしまう。王の謝罪を止めたお父様は更に言葉を続ける。


「すぐに結婚をしてほしい理由について話しておく。

水の国では水の大精霊を呼び出した英雄として、火の国では火竜の暴走を止めた戦乙女として、

木の国では神樹ドリアド様と最後に通じた聖女として、風の国からアリス王女と共に民の心を癒す歌姫として、土の国からは特に何も来てないが、各国からの名声が上がっている。

もちろん光の国内でも噂として広まり、聖女として祭りあげられている。

国民を安心させる為にも、悪名が広まった聖女に代わる乙女としてフィーナことフィナリーヌを次期后妃として発表したい」


貴族の結婚は政略結婚や家柄で婚約するものだ。平民になったとはいえ何かあったときは政略結婚させられることは覚悟していた。王宮や貴族の世界から離れられると思ったが公爵の娘として生まれた以上、義務は果たさなければ。


「私が次期后妃となることで、民に安心を与え、国が安定するのなら喜んでお引き受け致します」


「エドの娘は本当に出来た娘だな」


「ふん。貴様に言われなくてもわかっておる」


お父様と愛称で呼び合うほど仲が良いとは……。


「今日の午後にはエーミールをアンソワ領へ呼ぶから、その時顔合わせをしよう」


王の言葉に頷きながら質問する。


「かしこまりました。先にエーミール様について教えていただけませんか」


第1王子シエラールに弟がいるとは聞いたことがない。婚約をしていたのに影武者(兄弟)について教えてもらえてないのは心外だ。教えては影武者の意味がないけれど。


「「……」」


王と父の間に妙な間が出来る。


「そうだったな。エーミール様について知らせていなかったな。エーミール様とは、平民の女性と王様の間にできた子どもだ。見た目はシエラール様と似ている。人柄は物腰柔らかな人間だ。心配するようなことは何も問題はない」


「そうなんですね。お会いするのが楽しみです」


嘘だ。本当は結婚なんてしたくない。バレないように下唇を噛みしめ、俯きスカートの裾をつかみながら会釈をする。


「第2王子エーミール様との謁見準備をするため、一度失礼させて頂きます」


「あぁ、エーミールとぜひ仲良くしてくれ」


客間を出た後、早歩きで自室へ戻る。

第1王子と似ている人と結婚するなんてすごく嫌だ。幼少期に恋した淡い記憶と学生の時に嫉妬に駆られた醜い記憶が、第2王子との関係を築くのに必ず邪魔になる。愛憎の気持ちは貴族社会から数か月離れたからといって癒えるものではない。


全く似ていない人だったら良かった?

いや関係ない、王族というだけできっと第1王子と重ねてしまう。


幼少期の思い出を引きずっているから、受け入れられないのでは?

シエルに支えて貰えなければ、今の私はいなかった。幼少期の思い出を否定することはできない。


貴族との結婚は政略結婚だと割り切っていたのでは?

数か月前までは、心を寄せている人との婚約だった。頭で政略結婚が正しいとわかっていても感情が追いつかない。


 自室に戻り、湯浴みをする。香りの良い石鹸で身を清めて準備をしなければ。

 顔が水に濡れた時、頬に熱い水がつたう。


「お嬢様、ドレスや髪型はどのように仕上げますか」


ルルが分かり切った質問をしてくる。いつもなら楽しく服装や髪型、装飾品を決める。少しでも気分が明るくなるように聞いてくれたのだろう。


「ふふふ、決まってるじゃない。お父様も王様も第2王子もドン引きするような服装と髪型にしてやりましょう。レディーがどんな姿でも褒める事が出来るか試して差し上げますわ」


「それでこそお嬢様です。ルルにお任せください」


通常であれば王と王子がいる手前、先ほどの服と同じような豪華で上品な服を選ぶが、やめた!婚約破棄、爵位はく奪に比べれば服装がちょっと失礼だとしても許されるだろう。無礼だと怒られても爵位はく奪以上のことはされないだろう。


 ドレスは平民になった初日に買った水色のスカートを着た。装飾品は一切つけず、寝間着そのもままだ。髪の毛は肩にかけるようにゆったりとした三つ編みに結ぶ。これも寝る時の髪型だ。三つ編みの隙間にカスミソウを散らし、薔薇の香りをつける。良い香りにしたのは自分の為だ。不快な感情も良い香りに集中すれば和らぐ。

 普段は濃い化粧をしないが、今回は化粧もすることにした。コンサートの時の化粧だ。遠くから見る時は濃い化粧の方が映えるが、お茶会やパーティーの時には似つかわしくない。濃い紅を唇に塗り、目の周りに黒と水色のラインを描く。


 なんともチグハグな恰好になった。髪型は上品なのか豪華なのか分からない仕上がりに。顔は派手に。服装はものすごく質素というアンバランス極まりない。


「ものすごく良い仕上がりになりましたわね」


 鏡を覗き込み、ルルを褒める。


「さぁ、お嬢様。食堂へ参りましょう」


 ちょうどノックの音が聞こえ、第2王子エーミールが到着したと連絡が入った。王子が席に着いた後、入室する方が良いだろう。折角なので全身を見てもらわなければ。


 少し時間を置いてから、食堂へ向かう。

 執事が扉を押し、食堂へ入室する。


「はじめまして、エーミール・ロベール王子。この度は身分に余る光栄な申し出を頂き、誠にありがとうございます」


 お父様、お母様、王様、第2王子が着席している机に向かって、スカートの裾を広げて膝を曲げ会釈をする。お、お兄様もいた。

 お父様と王様はぽかんと口を開けている。仲の良い友人だからか表情がとても似ている。お兄様の表情はとてもにこやかだが、目に怒りの火を灯している。土の国の食事を思い出す。お母様の目が誰よりも怖い。今にも怒鳴られそうだ。


「ひさし、いえ。初めまして、フィナリーヌ・アンソワ様。本日はとても素敵なドレスですね」


 まるで何事もなかったかのように男性がエスコートをする女性に決まり文句で言うセリフと同じ言葉を言う。表情も話に聞いていたように本当に穏やかだ。第1王子シエラールと顔がうり二つで不意に胸が苦しくなる。違うのは髪型が少しクリンクリンなところくらいだ。


「ありがとうございます。これから夫婦になる王子には着飾った姿より普段の姿をお見せしようと迷いに迷って選びましたの」


「それはそれはとても光栄です。夜のパーティーを開くときは、今後フィナリーヌ様と同じようなドレスを着るように義務付けるのもいいかもしれませんね。令嬢達の婚約率も上がりそうです」


 その服装は男を誘うのに良い服だと煽られている。煽られるくらいなら寝間着ではないものにした方が良かったかもしれない。


「フィ~ナ~リ~ヌ~」


 お母様のドスの聞いた低い声が響く。


「は、はい。お母様」


「少々、お花を摘みに行きましょう?ね?フィナリーヌ?」


有無を言わせない雰囲気だ。


「いいえ、大丈夫ですよ。フィーネリア様。本当に素敵なドレスだと思います。今は昼ですが夜会のドレスにはとても良いと思いますよ。婚約に焦る令嬢が血迷ったドレスを着るのはたまにあることですから」


 この王子、煽りが酷い。誰だ!穏やかな性格だと言ったのは!


「エーミール様がそう仰られるのであれば」


 かくして穏やかな雰囲気とは真逆の雰囲気で顔合わせが始まった。

 全員が席に着き、王が声を掛ける。


「オン コマンス(いただきます)」


 グラスにワインを注ぎ、一品ずつ取り分けられた料理が運ばれてくる。フルコースを短時間で準備させたようだ。メイドも大変だっただろうに。


「フィナリーヌ嬢は普段、どのようなことをされているのですか?」


エーミール王子から質問される。


「そうですわね、私は……」


学校を卒業してからは平民になって、なんだか色々あったけど、『普段』とはかけ離れている気がして言葉に詰まってしまった。


「失敬、卒業されてからは色々な偉業を成されていたのですよね。学生の頃は、休みの日にどのようなことをされていたのですか。趣味はありますか」


 魔法学院へ通う学生が休日にやることなんて、王都への買い物、勉強、魔法練習くらいだ。私は次期后妃として恥ずかしくないよう用事がない限りは勉強、魔法練習を主にしていた。定期的に開かなければならないお茶会も準備していたが、趣味ではない。


「わ、わたくしは甘いお菓子が好きなので、時折王都へ買い物に行ってましたわ」


「そうなんですね。今もシュクルリのケーキはお好きですか?」


「ええ!そうなんです!シュクルリの季節ごとのケーキはどれも絶品で、フレーズケーキ、アプリコットタルト、スリーズムース、桃ゼリー、ブルーベリーチーズケーキどれも思い出すだけで舌鼓してしまいそうです」


思わずお菓子の話題を振られて饒舌になってしまった。


「良かったです。シュクルリのケーキを買ってきました。この後一緒に食べましょう」


 ふむ。婚約相手の好みを事前に調べ、買ってくるのは良い心掛けだ。少し腹黒そうなところはあるが良い王子かも知れない。


「ええ。ぜひいただきますわ」



 この後も王子の巧みな話術により、凍った場の雰囲気の中で静まり返るようなことはなく談笑が続き、昼食を終えた。



「シュクルリのケーキは、アンソワ家の庭で頂いてもいいでしょうか。お茶会のように紅茶と一緒に食べることが出来たらと思います」


 昼食後に王子がお父様とお母様へ問いかける。


「えぇ。もちろん構いませんわ。執事に準備をさせておきます。客間でお待ちくださいませ」


 お母様が王の質問に答える。


「ありがとうございます」


 王と王子は客間へ行った。


「フィナリーヌはお茶会用の衣装を準備しにいってらっしゃい」


 お母様の声は明るいが目が怖い。お兄様に関しては、食堂へ入室してから、食べ終わるまで表情が変わっていない。一番怖い。


「は、はい!お母様!いってまいりまする!!」


 早歩きで自室へ戻った。


主人公所持金:3銀貨79銅貨

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