第77話 公爵令嬢は見たくない
開いた窓から冷たい風が吹き込む。
「ひゃぁああああああああ」
触ってもいないのに、窓が開いた為、すごく驚いてしまった。
「申し訳ございません、お嬢様。先ほどの段差で激しく揺れ、窓が開いてしまったようです」
オバケでもなんでもなかった。激しく鳴る心臓を落ち着かせるため、目を瞑り背もたれに寄りかかる。心臓の音が落ち着いてきたころ、ゆっくりと目を開け、窓から森の景色を眺める。月の光が差し込む美しい夏夜の木々達は南風と戯れ、静かに遊んでいた。
木々達の間に白い影が現れる。その白い棒のようなモヤは、動くわけではなくまっすぐとたっている。動いていないはずなのに、馬車がどんなに通りすぎても真横に現れる。
「お、おばけなんてないさ!おばけなんて嘘さ!寝ぼけた人があああああああ」
歌ってごまかそうと思ったが、目を背けようと前を向くと、白いモヤが馬車に近づいて来た。目を離すと近づくようだ。怖い気持ちを我慢して白いモヤを見続ける。
「おぬし、ビビりすぎじゃのお。プークスクス」
光の精霊が笑っている。同じ実体が無い物同士、怖くないのだろう。光の精霊を身代わりにどうにかあの白いモヤをまきたい。
「光よ、癒す力となれ。光治癒」
あえて瞳孔をガン開きにして、光治癒の魔法を唱える。明るくなることで、白いのモヤが見えなくなるはずだ。目の錯覚だったことにして事なきを得たい。
眩しい光が目に入り、白いモヤは見えなくなった。森の奥まで見えるからこのようなことになったのだ。そう、森には最初から何もいなかった。
不安を紛らわすため、精霊達を全員呼ぶ。4人用の席だが、グノムとミノムは小さいので大丈夫だろう。
「ドリアド、アンディーン、サラマンディア、グノム、ミノム」
「フィーナちゃん、見てたわよぉ~。お化けが今だに怖いだなんて意外だわぁ」
「怖いわけじゃなくて信じてないだけよ」
私の隣に座ったドリアドが頬をツンツンしてくる。ドリアドの手を払い、怖いながらも精霊達を呼んだため、強気な気持ちで窓の外に目を向ける。
白い髪、かぎりなく白に近い目の色をしたお化けがいた。宙に浮かび、こちらを見ている。地面に足がついてない時点で絶対お化けだ。こ、怖すぎて声が出ない。
馬車に並走して、白い髪の男のなのか女の子なのかわからない人影はついてくる。
「はいは~い!」
ドリアドが窓の外のお化けと親しげに手を振る。
「し、し、しりあい?昔のエルフの方?」
ヤドナシ達も白い髪だった。お仲間なのだろうか。馬車にひっつくのをやめていただきたい。
「ちがうわよぉ~!え?なに?もしかしてお化けって思っちゃってる?(笑)」
ドリアドはもったいぶって、誰なのかをすぐ教えてくれない。
「フィーナをそうからかうな」
そう言ったアンディーンの表情はものすごくにやけていた。教官に教わった剣で突くという技をやりたくなる顔だ。
「ふふ、あれは風の精霊よ」
「な、なんだ。風の精霊か」
お化けではなかったようなので一安心だが、並走をやめてほしい。
「風の精霊さん、一緒に馬車へ乗りますか?」
横で並走されるのも怖いので、馬車の中へ誘う。精霊の姿が見えなくなり、少し強めの風が吹く。アンディーンの膝の上に風の精霊が座っていた。
風の精霊の姿は白い髪は肩にちょうどつくくらいのボブヘアだ。白いシャツと白い半ズボンの上にワンピースのような羽織を羽織っている。男の子を模しているのか女の子を模しているのか分かりにくい姿だった。
「名前を聞いてもいいですか?」
「こやつの名前は風じゃ」
光の精霊が答える。
「ち、ちがう!フウの名前は神・天大暴烈嵐強風」
たしか風の精霊は、風の種類だけあると執事長が言っていたような気がする。春風、そよ風、神風、台風とかならわかるが神・天大暴烈嵐強風とは聞いたことがない風の種類だ。
「まだそんなダサい名前名乗ってるの~風」
「風じゃない!フウ!」
「この子はね、一応風を統べる大精霊なのに、神風とか暴風とかカッコいい名前じゃないから、そこらへんの強そうな風の名前を寄せ集めして名乗ってるのよ~」
なるほど。たしかに風の大精霊がただの風という名前だと、他の神風や烈風などの精霊達の方が強そうだ。
「フィーナがただの風だと大精霊に見えないって言っておるぞお」
「言ってないわよ!!」
「フウは、フウは大精霊だもん!!」
風の精霊は少しいじけたような表情で言う。
「神・天大暴烈嵐強風くん、、ちゃん?はどうして窓の外にいたの?」
「それは……。フウを呼んだ人間がどんな人間か気になって……」
「フィナリーヌ、風はコンサートの時もずっといたぞ?」
アンディーンは何を言っているんだ?という顔を向ける。いやいや知らない知らない。
「そうよ~!円陣を組んだ時も一緒に『おー』って言っていたわよね~!ちゃんと「」も7つあったじゃない」
ドリアドが当然かのように言う。そんなところ絶対誰も気づかない。
念のため右手の紋を確認してみたが、とくに風の紋は増えてなかった。
「フィーナは風と契約したいようじゃぞ」
光の精霊が風の精霊に言う。
「皆契約してるからフウも契約しよ~かな。ただフウは誰かに強制されたりするの嫌だから基本的にずっと外にいるからね!風と一つになってないと暴れたくなっちゃうから!」
正直、精霊は皆自由なので、全然問題ない。
「大丈夫。紋の中にいる時も、光の精霊に言ってくれれば私にも聞こえるから」
「うん!じゃあ契約成立ね!」
右手に新しい紋が刻まれる。風の精霊を含め、7人もいる馬車はかなり騒がしかった。夜も更け、その騒音が心地よい音となり、眠りを誘う。いつの間にか馬車で眠っていた。
黒く塗られた馬車は漆黒の闇へと消えていく。
主人公所持金:7銀貨59銅貨




