第76話 公爵令嬢は信じない
馬車に乗り、城へ戻る。夜も更け、蝉が泣いている。
城に着いた途端、執事長は捕まえた手先から情報を聞き出し、誰の差し金か突き止める必要があるといなくなってしまった。
客間へ行き、用意された湯船につかる。湯浴みをした後は、王女達と晩餐だ。コンサートの成功を記念して良いお酒も用意してくれるらしい。楽しみだ。
「お嬢様、楽しそうですね」
「そうね。色々あったけど、最後は皆とても明るい楽しそうな表情だったからかしら」
最初は暗い表情だった観客達が、さよならする時には皆目に光が灯っていた。武力ではない方法で人を助ける感動は今後、一生味わえないだろう。手伝いたいと言えば、出来るだろうか。ただ王女様を見に来ている国民に対して、心を癒やす力がない私では意味がないかもしれない。
湯浴みをして、室内用の服に着替えた後、食堂へ行く。
既に王女は座っていた。精霊達を呼び出し、アンディーン、サラマンディア、ドリアドが席に着く。グノムとミノムは手乗りサイズに戻っており、机の上に座った。
風の国では精霊と契約している人が珍しくないので、自由にできるのはありがたい。
「この度は、本当にありがとうございました。今宵は心ゆくまでお楽しみください」
縦長い高級感のある机の上には、豪華な料理はあまり並んでいなかった。復興にお金を使っているからだろうか。ワイングラスにルビー色に輝く液体が注ぎこまれる。甘美な香りが鼻を通る。
サラマンディアはとても美味しそうに飲んでいた。アンディーン達もいつものように楽しくご飯を食べる。
「お食事中に申し訳ございません」
執事長が慌てた様子でノックもせず、食堂へ無作法に入室する。
「無礼ですよ、執事長」
その行動を王女が諫める。
「アリス王女、フィナリーヌ様、光の国の速報です。
『聖女ポインセチアが第1王子シエラールを殺害。その後水の国へ逃走』とのこと。
真偽のほどは分かりませんが、光の国では後継者問題が起きると予想されます。王族に最も近いフィナリーヌ様やエドアルド様も巻き込まれることになるでしょう。アンソワ家へ、急ぎお帰りください」
「シエラール王子が……聖女に殺されたなんてありえない……」
執事長の言葉がうまく理解できない。私と婚約破棄をしてまで選んだ相手に殺されるなんて。そして聖女がだれかを殺すなんて考えられない。
座ったまま茫然とする。
「夜目の利く馬を用意しましょう。執事長、準備してください」
王女がなぜか馬車を用意すると言っている。なぜだろう。
「準備できております」
アリス王女の言葉に執事長が頭を下げながら答える。
「「僕達、まだあ(モゴ)ご飯たべてないよ」」
口をぱんぱんにしながらグノムとミノムが帰りたくなさそうに言う。
「フィーナ。しっかりして。まずはシエラール王子が本当に殺害されたのか確認するためにもアンソワ家へ帰らないとでしょ?」
ドリアドの言うとおりだ。確認するためにも早く帰らなくては。そして王位後継の問題で派閥争いが過熱す前に対策をしなくては。
「そうね。ありがとうドリアド。皆、急いで光の国へ帰るよ。紋に戻って」
食事中のグノムやミノム、サラマンディア達を紋に戻す。
「何が出来るかは分かりませんが、風の国の力が必要になったときはいつでもご連絡ください。出来る範囲でお力添えすると約束致しましょう」
アリス王女は立ち上がり、スカートの裾をつかみながら会釈をする。同じように会釈をして食堂を後にした。
◇
ルルが御者をするらしく、馬の手綱を握っている。執事長の手を取り、黒く塗られた箱型四輪馬車に乗り込み、腰を掛ける。
「御者を用意できず申し訳ございません。お気をつけて」
執事長は頭を下げた後、車箱の扉を締める。
「ヤー!!」
ルルは執事長が扉を閉めたのを確認すると大きな声を出し、馬を手綱で叩いて走らせる。
ヒヒーン!
「そろそろ出てきたらどうかのお」
光の精霊が出てきて、謎の発言をする。どうした?急に?
「コンサートの後半からずっとそちの後ろにおるやつのことを言ってるんだ」
ひ、ひえええ。夜の森でなんて怖いことを言うんだ。首の後ろに生温い風が吹き込む。おそるおそる誰もいないはずの後ろを振り返るが誰もおらず、赤い布地があるだけだった。
「誰もいないじゃない」
「そちも本当に鈍感じゃのお」
「し、視覚で確認できる情報しか信じないわよ。神は信じるけどそれ以外は信じないんだからっ!!」
「誰もお化けの話なんぞはしておらん」
夏の夜といえばオバケのイメージしか湧かない。他に何がいるというのだろうか。
ガタン!
いきなり馬車の窓が開く。
主人公所持金:7銀貨59銅貨




