第75話 公爵令嬢は歌えない
会場が騒然とし始めた。そんな会場の困惑を無視して、次の曲、私が作詞した曲が流れてきた。ウィッグがとれ、王女でないことがバレた状況で歌えるわけがない。終わった後に袋叩きにされそうだ。
曲の始まりとともに、強大な魔道具フォトーの方に光が集まる。
光の先には、本物の王女がいた。王女はゆっくりと宙に浮かび、歌い始める。その声は遥か遠くまで透き通るような綺麗な歌声で、人々の心を優しく照らす月のようだ。
空を自由に飛ぶ王女を、光が追う。軽やかに舞いながら私の元へと降り立つ。
「さぁ、あなたも一緒に」
王女に差し出された手を掴み、王女と二人で空を舞う。自由に飛べる空がこんなにも心弾むものとは知らなかった。人々の歓声が遠くなる。
3曲目が終わり、一つのアナウンスが入る。
「準備をしています。しばらくお待ちください」
モニターの裏に降り立つと、ルルと執事長が待っていた。
「ご挨拶が遅れて、すみません。わたくしはアリス・ヴィントと申します。風の国の王女をしております。ミドルネームは恋人だけの秘密です」
王女はスカートの裾を掴み、正しい礼儀で会釈する。上品な動作と反して、言っている内容はおちゃめだ。
「わたくしは、フィナリーヌ・アンソワと申します。あのいつお目覚めになられたのですか」
「それは……」
王女の言葉遮るように一人の精霊が話しかけてきた。
「わたくちが、あなたを たちゅけたんでちゅのよ!(助けたんですのよ)」
白い髪に水色の目をした手乗りサイズの精霊が出てきた。
「あ、ありがとう!お名前は?」
「わたくちは、かみかぜぇ!とってもちゅよい せぇいれい なのでちゅよ!」
神風という名前からしてかなり強そうだ。可愛い女の子のような見た目をしているが、強風とか起こせそうだ。少々横柄な態度だが、体が小さいため、その態度も可愛く見える。
「初めまして、神風。これからよろしくね」
ついに風の精霊と契約してしまったのかと思い、左手を大きく開き、自分の顔面に翳し、右腕を後ろにひいて、ポーズを決める。
左手は翳したまま、腕を耳の横につけ待っすく伸ばした後、ゆっくりとおろして右手の紋を見る。
右手には新しい紋が刻まれて……なかった。
「おぉ、あいたたたたたた。痛いのぉ」
光の精霊が憐みの目を向ける。ぐぬう。
「神風、フィナリーヌ様を助けてくれてありがとう」
神風は王女様の肩に座り、どや顔をしている。可愛い。
「だれかをたちゅけるのは せいれいとちて とーぜんでちゅわ」
「ふふ、本当に良い子ね。神風」
王女様は威厳のある雰囲気を保ったまま、優しく神風を撫でる。
「フィナリーヌ様、申し訳ございません」
執事長がいきなり謝ってきた。深々と頭を下げられる。そこまで謝れるようなことはされていないと思うが、王女が目覚めていたのなら教えてほしかった。
「そこまで頭を下げられるようなことはされていませんわ。顔をあげてください」
「お嬢様、許してはなりません。この者がお嬢様を落下させたナイフを投げたのです」
ルルが執事長に対し、虫を見るような目で見ていた。とっても怒っている表情だ。
「なぜそのようなことを……」
執事へ呟くように尋ねる。
「それはわたくしがお願いしたからですわ。貴族派閥の残党を狩った後、交代する必要がありましたの」
王女が答える。
「交代してと言って頂ければ、ちゃんと交代しましたわ」
「申し訳ありません。あなたを偽物とし、新たに王女が登場することで本物であることを印象付けたかったのです。そして一刻も早く、民達の心の憂いを晴らすためにもすぐ交代して頂きたかったのです」
「なるほどのお」
光の精霊が納得している。いや全然分かりませんが!?
「そちは、あほよのぉ。要するに、風の上位精霊には契約者が歌うと病んだ心を癒やす力があるのじゃ。その力を最初から使うと、敵も姫を攻撃する気持ちが無くなってしまい、攻撃しなくなってしまうのじゃ。そうすると捕虜として捕らえることが出来ず、誰が敵なのか分からずじまいのままになってしまう。じゃからそちを囮にしたのじゃ。分かったかのぉ?」
ふむふむ。先に知らせてくれても良かったのでは?
「そちに先に知らせたら、歌も踊りもここまで頑張らなかったじゃろ」
「そ、そんなことはありませんわ。。。多分」
たしかに誰かのためになると思っていたからこそ頑張っていたのは否めない。
最初から私は囮で、王女も最初から目覚めていたのだろう。だからこそ状況を探ろうとしたルルを執事が見張っていたのかもしれない。
「さて、そろそろ行かなくては。コンサートが終わりましたらお城でゆっくりお話ししましょう」
「ええ、わかりましたわ。いってらっしゃいませ」
「あなた達8人も一緒にですよ」
王女に手をひかれ、王女と私と精霊達でステージ立ち、全ての曲と踊りをやりきった。
主人公所持金:7銀貨59銅貨




