第71話 公爵令嬢は断りたい
◇◇
「おはようございます。王女様」
数人のメイドに頭を下げ、お辞儀をしている。
王子の婚約者とはなっていたが、結婚した覚えはない。よって王の娘になった記憶がない。
パンパン。
一人のメイドが2回手を叩き、言葉を放つ。
「お嬢様の身支度を整えますよ、準備してください」
ルルが他のメイドの指示をしている。他国だが既にメイド達は調教済みのようだ。一人はカーテンを開け、一人は布団を回収し干しに行く。一人は着替えを用意する。
「ルル、この豪華な部屋はどこかしら?」
「風の国のお城だそうです」
「!!??」
「お目覚めですか。手荒な真似をして申し訳ございません。事情はわたくしが話します」
路地裏にいた紳士が話しかけてきた。
「淑女が着替えます。執事長、話は後にしてください」
「これは失敬、一度失礼いたします」
紳士は城の執事長だったようだ。
執事長が出て行ったあと、すぐに胸をさらしで締め付け、王女様の服を着させられ、化粧を施される。白髪のウィッグを被り、最後にティアラを頭の上に乗せる。
「お嬢様、とても綺麗です」
姿見をメイドが運び、前に置く。
「本当に王女みたいね」
上品な銀髪ロングヘアーの上に白銀のティアラが乗っている。
風の国では「白色」が高貴な色だからか、金色の冠ではないようだ。
金色の刺繍が施された艶やかな紺青色のドレスは銀色の髪によく映える。髪色が銀だとどんな色でも似合いそうだ。
「お嬢様、仕上げです」
ルルが左手で顎を持ち上げる。細い筆に紅をつけ、唇をゆっくりとなぞる。
唇に注がれるルルの真剣な眼差しに少し心臓の音が早くなる。
ルルは筆でなぞり終わった後、小指で余分な紅を取る。冷たい指にゆっくりと触れられた唇が小さく震える。ルルにキスをされていると錯覚してしまいそうだ。
「王女様にそっくりです」
周りのメイド達が感嘆の声をあげる。王女様に似ていると言われても、見たことがないため分からない。学院で学んだ知識では、風の国の内戦を止めた英雄だったはずだ。
「入ってもよろしいでしょうか」
執事長が入室する。
「手荒な真似をして申し訳ございません。急ぎ王女の代わりを用意する必要がありました。黄色または金色の目の平民女性がなかなか見つからず、残された時間も少ないためこのような形で招いてしまいました。また事前にお願いして、周りの人々に代わりを頼まれたと噂されるのを防ぐためにも誘拐という手段を取ってしまいました」
たしかに髪の色はウィッグで変更できるが、目の色はごまかせない。金色の目やそれに近い黄色の目の者はなかなか見つからないだろう。
「ところで何の代わりでしょうか?」
「はい、1週間後に控えた王女主催のコンサートをして代わりにしていただきたいのです」
「コンサートですか?ピアノでも弾けばよいのでしょうか」
正直ピアノもバイオリンも得意ではないので、断りたい。
「いいえ、歌でございます」
「歌?ですか?」
「はい。王女様は内戦時に民衆を歌で励ましました。それに感化された民衆が立ち上がり、内戦の原因となっている貴族派を破り、内戦は終わったのです。
内戦終息後、風の国では終戦を記念して夏にアレーナ・ディ・ヴェローナでコンサートを開きます。今回が3回目のコンサートです」
「歌の力で内戦を終わらせたとは、すごいですね」
「ええ。王女様にしか出来なかったことでしょう。20年続いた内戦はかなり国力を疲弊させ、民も限界を向かえていましたから」
「わたくし、歌といえば聖歌くらいしか知りませんが大丈夫でしょうか?」
「期間はかなり短いですが、王女様が作詞した曲を使って、訓練して頂きます」
曲を1週間で覚える、、、出来るだろうか。
「そしてもう1点、王女様は毎年必ず新曲を披露されます。まだ作詞が終わっておらず、同じ高貴な女性として1つ作詞をして頂けませんか」
いやいや、作詞とか作曲とか素人にいきなり出来るわけがない。
「作詞や作曲は難しいかと……」
「ポエムと同じで良いのです」
「ぽ、ポエムなら、少しは……」
元婚約者へしたためた手紙を思い出したが、過去の記憶をすぐ消した。
「王女様が何を書こうとしていたか分かりませんが、作詞途中のものがあります。よければそのまま続きをお書きください」
渡された封の中にある、紙を取り出す。
曲名と「Wing Love」と最初の3文字しか書かれていなかった。何も参考にならない。
「王女様はよく、王女様が契約している風の精霊の恋の話をポエムにしていると仰せでした。今回も愛する気持ちを書こうとしていたと思われます」
「そうなんですね。そういえば王女様はなぜいらっしゃらないのでしょうか?」
王女がいない理由を聞いていなかったので確認する。
「実は、貴族派の残党に狙われ、外傷は治っているのですが意識が戻らない状態です。何日かすれば意識が戻ると思っていましたがなかなか戻らず……」
「それはつまり、、、代わりというかもはや身代わりでは?」
「貴族派の目を欺くためにも、お願いします。護衛には私が着きますのでご安心ください」
そこはカッコいい騎士じゃないんか!?
「そ、そうあなたが」
「ルル様がいれば十分かもしれませんが、微力ながらお力添えさせて頂きますのでよろしくお願いします」
執事長に深々と頭を下げられる。
「出来る限り協力はしましょう」
おじい様の元で訓練をするよりも、風の国で姫様の代わりのほうが楽しそうだとかは思っていない。他国の民とはいえ、人を助けるためだ。
「ありがとうございます。それでは朝食を終えた後、さっそく声の訓練をしていただきます。そしてアンソワ家とデフィエンド領の領主には話を通しておりますので、ご安心ください。」
執事長は準備をするため、部屋から出ていった。
「あの執事かなりのやり手です。行き当たりばったりで誘拐したとおっしゃってましたが、私をお嬢様から遠ざけ、領民を人質に取りお嬢様を助けに行けないようにされました。あの執事が護衛についておきながら、貴族派に王女がやられたとは考えにくいです。現在の王女の居場所を調べようとしましたが、情報を集めることが出来ませんでした。どこからともなくあの執事が現れ、邪魔されるのです」
ルルがかなり警戒した様子だ。ルルの邪魔をできるとはものすごく優秀な執事なのだろう。
主人公所持金:7銀貨59銅貨




