第67話 公爵令嬢は食べたくない
◇
部屋に戻ると、おじい様のメイド達がお風呂の準備をしてくれていた。ルルも準備をしている。
「おかえりなさいませ、お嬢様。お風呂の準備はできております」
「ありがとう。さっそく入るわ」
力を抜き、湯船に入る。こんなに気持ち良いと感じるお風呂はいつぶりだろうか。
「お風呂の後は、食事の準備がでてきております」
「食欲がないわ」
正直かなり気持ち悪い。何も食べたくない気分だ。
「なりません。訓練中は必ず食べさせるよう仰せつかっております」
食べたくないと言っても、無理に食べさせられそうだ。とりあえず食堂へ行き、一口食べよう。おじい様も晩酌を楽しみにしているだろう。
◇
食堂に並べられた料理は肉料理が中心だった。グノムとミノムには野菜のお皿が用意されている。精霊達を呼び出し、おじい様と食事を囲む。
「訓練はかなり堪えたようじゃな」
「えぇ、とても疲れましたわ」
「疲れた顔がエドアルドにそっくりじゃ」
「お兄様も訓練をされていたのですね」
お兄様の強いオーラはここから出ていたのか。あんな鬼教官にしごかれたら、皆強キャラになりそうだ。
肉に合うワインがグラスに注がれる。ステムを持って顔に近づけ、香りを楽しむ。
あぁ、これは風の国のお酒だ。風の国との国境沿いにある祖父の家では、いつもどこかからか黒い果実の匂いがした。過去の記憶が呼び覚まされ、森や土を連想させるような複雑な香りが時間の経過とともに現れる。
グラスに注がれた澄んだ赤い液体を、一口だけ口に含む。程よい甘さにシルクのような口当たり、酸味が味わい全体のバランスを引き締めており、余韻まで心地よく伸びていく。
「おじい様、おいしゅうございます」
「おお!味が分かるか。どんどん飲んでよいぞ」
サラマンディアが右手をあげ、ワインをどんどん注がせている。
◇
「ヒックッ、ヒック」
「お嬢様、失礼します」
「俵かつぎ、ヤァーー!!」
ルルが肩の上に持ち上げたが、暴れて嫌がった。
「かしこまりました」
お姫様抱っこに切り替え、私を運ぶ。
「ルル、王子様みたーい。私はお姫様~!」
「お嬢様は姫様ですよ」
「ルルー、スキー」
お姫様扱いをされ、調子にのりルルを強く抱きしめる。
「部屋にお戻りになられましたら、明日の訓練の為に、全身をほぐします。針も使いますので暴れないでください」
「痛いのヤー!」
「痛くありません。ご安心を」
部屋に戻り、ベッドの上に置かれる。
ルルがマッサージの準備のため、ベッドから離れる。
「ヤー!行かないで!怖いルルが来る」
「怖いルルは来ませんよ。しかたありませんね、先にもみほぐしから行いましょう」
背中や足を適切な強さでほぐされていく。泣いていた筋肉達が泣きながら喜んでいるみたいだ。
「針、刺しますよ」
「や、らめ」
さすがにビビって避けてしまった。普通に怖い。
「痛くありませんから、ほら」
ルルが自分の手に刺して実演する。痛そうです……
「しかたありませんね。しばらく大人しくしててもらいます」
目にも止まらぬ早業で、両手両足を拘束されてしまった。両手は頭の上で縛られ、ルルの左手で抑えつけられ、足が動かないようルルが腰の上にまたがる。
「んー!んー!」
うるさいからか、口の中に布が詰め込まれた。もしくは痛みを緩和するためか。どちらにせよもっと針が怖くなる。
「お静かに、お嬢様。力をいれては効果が半減します。まずはリラックスして、力を抜いてください」
ルルの声に力が抜け、少しずつリラックスする。
刺そうと思えばいつでもさせるのだ、抵抗するだけ無駄だ。なら身を任せたほうが痛みも少ないかもしれない。
グサッ
い、痛いいいい
「申し訳ございません。間違えました」
あの、わざとでしょうか。
「ん-!ん-!」
言葉にならない声で訴えるが、伝わらない。
「お嬢様が少しでもリラックスして眠れるように、部屋の灯りは消しますね」
「ん-!んんー!んんんー!ん-!(そんなことしたら、針刺すとき、見えなくて間違えるでしょうが!!)」
「ふっ」
蝋燭の火をルルが消す。
先ほどの心地よいマッサージが続いた。針は刺されている感覚はない。少しずつ眠りへ誘われた。
主人公所持金:9銀貨49銅貨




