第66話 公爵令嬢は訓練したい
「おかえりなさいませ。お嬢様」
ちょうどお昼ごろに邸宅に着いた。屋敷のメイド達に出迎えられる。
「旦那様より、伝言です。『着替えたら、執務室に着なさい』とのこと」
すごーく行きたくない。
「わかったわ。着替えたらすぐ行くわ」
◇
自室で、複数のメイド達に貴族用の服を着せられる。
金の刺繍が施された裾広がりのドレス。足先まで隠れる丈の長いドレスのところどころに宝石がちりばめられている。豪華な装飾は貴族の証だ。
着替えた後、執務室へ向かう。
コンコン
メイドがドアをノックする。
「入りなさい」
お父様の声だ。メイドが扉を開き、執務室へ入る。お父様は机の上で、仕事をし,お母様は作業机の前にあるソファーに腰掛け、報告書を確認していた。報告書を机の上に置き、ピリついた顔をこちら向ける。
ソファーに座り、お母様と向かい合う。
「エドと相談して決めました。あなたは私の実家の領地で謹慎して頂きます」
お母様が冷静な声で、言い放つ。謹慎はともかくなぜお母様の領地で!?
「その、なぜお母様の領地なのでしょうか」
「あなたは自ら危険な方へ行く傾向があります。母は心配でたまりません。護身術を身に着けているとはいえ、基本的には襲われた時のいなし方のみ。いなし方ではなく、逃げ方、戦い方も教えた方が良いと判断しました」
自ら危険な方へ行ったつもりはないが、母にはそう見えるらしい。今回はルルが同行していたので、ハイエナのボスにあっさりとやられ誘拐されてしまったことが伝わったのだろうか……。
「わかりました。お母様」
「アンソワ家の騎士団より強いぞ、デフィエンド領の者は。そしてなにより女性でも強い剣となれる素晴らしい技を持っている。とにかく動きが素早いのだ」
お父様の言葉に驚く。アンソワ家の騎士より強いなんて。。。
「騎士団長よりもお母様が強いのでしょうか」
「そうねぇ、今はもう現役じゃないから分からないわ」
「フィーネリア、そんな謙遜しないでくれ。私は誰よりも美しく強いそなたに一目ぼれしたのだ」
勝手に身分の低いお母様がアタックしてお父様をゲットしたと思っていたが、逆だったようだ。そういえば両親のなれそめを聞いたことがない。
「もうっ!あの時の話はやめて。あの時の私は淑女の欠片も無かったわ。今思うと恥ずかしいんだから」
お母様が照れて、お父様の肩を叩く。お父様は飛ばされ、壁に打ちつけられた。
「い、今のフィナリーヌとあの時のフィーネはよく似ているな。さすが親子だ」
お父様は何事もなかったかのように立ち上がり、言う。
誰が淑女の欠片もないだ。お父様にそんな口答えは出来ないので、心の中で呟く。
「フィナリーヌ、今はゆっくり休みなさい。明日にはデフィエンド領へ行ってもらいますよ。デフィエンド領からは抜け出したり出来ませんから」
こうして光の国と風の国の県境、デフィエンド領へ向かうことになった。
◇
馬車に乗ること3日。祖父の家へ到着する。学生になってから着ていなかったので3年ぶりの訪問だ。
「ようこそお越しくださいました。フィナリーヌ様」
「ふぃーーーーーなーーーーー。よく来たぁぁ。おじいちゃん嬉しいよぉ」
デフォルメ化したおじい様が抱きついてきた。
「お、おひさしぶりです。おじい様」
「のんのん、おじいちゃんって呼んでぇ」
おじい様は普段威厳のあるとてもイケおじなのだが、私の前だとデフォルメ化し、威厳が全くなくなってしまう。嬉しいような、残念なような複雑な気持ちになる。
「おじいちゃん、一週間ほどお世話になります」
「え!!フィーネリアからは謹慎期間は6か月って聞いてるけど」
!?半年は長すぎる。いやたしかに貴族の義務から解放されて平民扱いだから暇だし予定があるわけではないけれど、祖父母の家にずっといるのはちょっと休めない。自室が既に恋しい。
事前に謹慎期間を確認しておくべきだった。
「てっきり一週間程度かと……」
「そうなのかぁ。おじいちゃん寂しい」
デフォルメ化したおじい様をひっぺはがし、床に置く。ふと玄関ホールを見渡すと以前よりも豪華絢爛になった気がする。
「さて、先に休むかい?それとも食事にするかい?」
急にイケおじモードになり、聞き取りやすい低めの声で話す。
「少し休んでから、食事にします。食事についてなのですが、野菜料理を二皿、通常の食事を3人前、夜はお酒も用意して頂けると助かります」
「そうか。もうお酒を飲める年になったのか。今晩は一緒に晩酌しよう」
「えぇ。お酒をおつぎしますわ」
寝室に荷物を置き、食事をおじい様と一緒に取る。
「食事の1時間後、着替えて屋敷の裏にある訓練場へ来るように。教育係を紹介しよう」
食事を終えた後、おじい様に言われた通り訓練場へ向かう。
◇
「来たか、この者がフィーナの教育係だ。ここでは教官と呼びなさい」
「はい、おじい様」
紹介された鎧を着た教官が、兜を外し挨拶をする。
「今日から私が、貴様の教官だ。
今から半年間、貴様には価値がない。餌を食い、寝ては起きる、ただの豚だ。そんなしょうもない豚を私が人間様にしてやる。
誇りに思え!!!!!」
「……」
ルルが何かを言っている。
「返事はどうした!?」
こ、こわい。
「はいっ」
「違う!返事はサー、イエッサーだろうがぁ!!!」
「サー、イエッサー」
「声が小さい!!!」
「サー、イエッサー!」
「よろしい。では訓練に入る。これから貴様には1か月間、ただ走り続けてもらう。まずは基礎訓練からだ」
「い、いっかげつ?」
「豚が喋るなあああああ」
思いっきりビンタされた。痛い。この人、ルルと同じ顔してるのに違う人だぁ。痛いよぉ。
「喋っていいのは人間だけだ。貴様が口から垂れ流す糞は全て『サー、イエッサー』だ!」
「サー、イエッサー!」
「もう一回!」
「サー、イエッサー!」
「よし、走れ!!」
「サー、イエッサー!」
訓練場を何週しただろうか。体力は限界を迎え、足先に感覚がない。ただスピードを落とすと、後ろから教官がムチで体を叩く。レディーにしていい訓練じゃない。
「今日はここまで!!夜ご飯は死んでも食べろ!専属侍女にはマッサージをしてもらえ。でなければ明日の訓練で死ぬぞ」
もうすでに死にそうです。
「サー、イエッサー!」
教官が見えなくなった後、地面に倒れ込み光治癒を自分にかける。
殴られた頬の傷は治ったが、体力は回復してくれなかった。
「ドリアド」
「は~い、フィーナちゃんどうしたの?」
「う、動けないから、部屋まで運んで」
「え~!アンディーンかサラマンディアに頼みなさいよぉ」
「男性の見た目をしている精霊に抱っこされるのはレディの端くれとしてちょっと……」
おじい様に見られたら怒られそうだ。
「もーしかたないわねぇ」
ドリアドにお姫様抱っこをされる。大きな胸に包まれホッとする。このまま眠ってしまいそうだ。
主人公所持金:9銀貨49銅貨




