第65話 公爵令嬢は日常を楽しみたい4
◇
1か月半ぶりの帰宅だ。埃が積もっているだろうか。ルルにお願いして一緒に掃除をしてもらわなくては。
ドアを開け、部屋に入る。
部屋はとても綺麗な状態でキープされていた。部屋も暖かく、快適な空間となっている。
「久しぶり、我が家!」
勢いよくソファーに座る。
「お嬢様の部屋らしいですね」
ルルが部屋の感想を言う。
「そうでしょ!実家と同じような色合いにしたのよ。掃除しなきゃって思ってたけど、管理人の方がしてくれていたのかしら」
ゴゴゴゴゴゴゴ
壁がいきなり大きな音を立てた。壁に埋め込まれている魔道具が動いているようだ。
「この魔道具が部屋の状態を保っていたと思われます」
ルルが冷静に分析する。
壁の音は静かになり、温かい風が魔石から出てきた気がした。魔道具エアコンは温度調整だけでなく、部屋の綺麗さも保ってくれるとは素晴らしい。
「ありがとう。エアコン」
魔道具に軽く触れる。一瞬で上級魔法1回分がごっそり持っていかれた。ずっと触っていると力尽きてしまいそうだ。
グゥゥゥ
お腹の音が鳴り響く。昼ご飯を抜いたのでお腹がなってもおかしくない。
グゥゥゥ
ルルもお腹がなったのかと思い、振り向くとベッドでディアちゃんが寝ていた。一日馬に乗っていたのが疲れたのだろうか。それとも苦手な雨から避難できて安心したのだろうか。
「ルル、この部屋の隣に料理屋があるから、お持ち帰りしてきて」
25銅貨を渡し、買い物をお願いする。
「かしこまりました」
◇
買い出しに行ったルルの帰りが遅い。
料理屋は隣にあるのに、こんなに時間がかかるものだろうか。雨が降っているので少しずつ心配になってくる。
「お待たせいたしました。お嬢様」
やっと帰ってきたルルの手には、ご飯と土のついた野菜が入っていた。グノムとミノムの為に、野菜をとってきたのだろうか?
「アンソワ領の料理屋ですと、野菜メニューがありませんので、たまたま通りかかった農家の方の手伝いをして、人参と水の国のお酒を頂きました」
「雨の中、ありがとう。きっとグノムとミノムも喜ぶわ。お酒は皆で飲みましょう」
水の国は、水資源が豊富で米が特産だ。お酒は米から出来た水の国でしか作れないお酒だ。
ルルが野菜を洗っている間に、机の上にご飯を並べる。
精霊達を呼んで一緒に食卓を囲った。
「んー、ちーち飲みたい」
服の裾を引っ張りながらディアちゃんが何かを要求してきた。正直何が飲みたいのか分からない。
「んー!サラマンディアはお乳が飲みたいのかな?お姉さんからは出ないから、フィーナちゃんから出してもらおうね!」
「私も出ないわよ!!」
ドリアドがふざけたことを言う。
しゃがみ込み、ディアちゃんと目線を合わせて質問する。
「ちーちってなあに?」
「きょれ!」
指差したのは水の国のお酒だった。
「ごめんね。。お酒は大人になってからだから。。。」
「やー!飲みたぁい!」
「えっと……」
同じ精霊であるサラマンディアとドリアドに目で助けを求めたが二人とも素知らぬ顔でご飯を食べる。
「のみゅたい!のみたぁい!のみゅたい!」
「見た目は子どもだけど、サラマンディアは実質子どもじゃないからいいんじゃない?」
たしかに、ドリアドの言う通りだ。精霊は力があれば見た目も自由に変えられる。お酒をあげても大丈夫な気がしてきた。
「一杯だけよ?いい」
無言でこくりと頷く。頷き方がサラマンディアと同じで可愛い。なんだかサラマンディアの娘みたいだ。
木コップにお酒を注ぐ。アンディーンとドリアドの分も注いだ。
注ぎ口から甘い香りが漂い鼻孔をくすぐる。飲むつもりは無かったが、木コップの半分だけ私も飲むことにした。
「やだぁこれぇ、すごく美味しいわ」
「これは良いお酒だな」
ドリアドとアンディーンが絶賛している。飲んで正解のお酒のようだ。
お酒を口に含める。
桜の花のような穏やかで上品な香りが鼻を通り、口に含むと梨のような瑞々しい甘みと桃のようなふくよかな旨味が舌の上で転がる。雑味をいっさい感じない圧倒的な透明感としっとりと長く続く余韻に思わず感嘆の声が出る
「生きててよかったぁ」
生きているのを心底喜びたくなるくらい美味しいお酒だった。
も、もうちょっとだけ飲んで、やめておこう。瓶を持ち上げ、木コップに注ぐ。
「え?もう無い!?」
ドリアドとアンディーンがサラマンディアがに顔を向ける。
サラマンディアが全部飲んでしまったようだ。
「ディアちゃ~ん。一杯だけって言ったのに……」
無いものは仕方ない。
食後はシャワーを浴びて寝る準備を整える。
「ルルの宿代、渡しておくね?」
「ありがとうございます。お嬢様もゆっくりお休みください」
30銅貨を渡そうとしたが、念のため1銀貨を渡す。
「ルルはお辞儀をして、部屋から出た」
「ディアちゃんも寝よっか。紋に戻れ」
唱えてみたが、紋に戻る気配はなかった。
「まらねむくにゃい」
瞼をこすりながら、寝たくないと駄々をこねる。さっきまで寝てたのに、また眠そうだとっても可愛い。お酒をたくさん飲んだから眠くなったのだろうか。
「寝なくていいから一緒にお布団入ろうっか」
ディアちゃんはベッドに入ると速攻で爆睡していた。
お酒が少し入っているからか、私も瞼が重い。温かいディアちゃんを抱きしめながら寝た。
ー翌日。
「それ以上、言ってはダメー!!」
ベッドから飛び起きる。夢をみていたという感覚はあるのに、どんな夢か全く思い出せない。寝る時用のワンピースも少し濡れている。
隣では元の大きさに戻ったサラマンディアが寝ていた。
「おはよ、フィナぁ」
眠たそうな顔だ。寝起きはあまりよくないらしい。
「紋に戻れ」
試しに唱えてみたら、すぐに紋に戻った。通常運転のサラマンディアに戻ったようだ。幼女の時の記憶があるのか、いつか聞いてみよう。もし記憶があるなら幼女サラマンディアの真似をしていじりたおす。
小さな決意を胸に秘め、洗濯するためにも冒険者用の服に着替える。
コンコン
ドアをノックする音が聞こえる。おそらくルルだろう。
「入っていいわ」
いつもの感覚で答えてしまったが、ドアには鍵がかかっている。開けなきゃ!と思った時には、ルルは入ってきていた。ルルの前では鍵は無意味なようだ。
「おはようございます。お嬢様」
「おはよう、ルル」
ルルの手には朝ごはんが用意されていた。昨夜の残りで、ご飯と馬車の手配をしてくれたようだ。
「本日は、絶好の帰宅日和ですね」
「おほほほ、そうですわね」
今日は絶対に帰りますよという圧を感じた。も、もちろん帰りますとも。
主人公所持金:9銀貨49銅貨(▲25銅貨(夜ごはん)▲1銀貨(ルルの宿代と朝ごはんとレンタル馬車代))




