第63話 公爵令嬢は日常を楽しみたい2
ー帰り道の馬車。
「グノム、ミノム」
「どうした?」
「どうしたの?」
「王様とか后妃様とかの前で、ご飯で遊んだらダメよ?」
念のため、グノムとミノムに人間の文化を伝えておく。
「僕は遊んでないよ!グノムで遊んでただけ!」
「グノムで遊ぶのもメッ!」
「はーい」
ミノムは渋々返事をする。
「グノムもだからね」
グノムは不機嫌なままそっぽを向いている。野菜食べれなかったのとミノムにいじわるされてちょっと可哀想なので、追及はしないことにした。
「私と食べる時は自由に食べていいから、ね?」
人差し指で手乗りサイズのグノムとミノムを撫でる。ミノムは身を任せ、グノムは嫌そうな顔で右に向いていた顔がぷいっと左に向く。
「そろそろロレンス領の中心街に着きますよ~」
御者の言葉に聞き、馬車の室内カーテンを開けると、外はすっかりオレンジ色だった。昼ご飯を食べずに土の国を出たのでお腹がすいてきた。
「本日はここまででよろしいでしょうか。明日、こちらまでお越しください」
「わかりましたわ。代金は受け取ってまして?」
「えぇ、いただいております」
御者と中心街の馬車降り場で別れ、近くにある宿屋へ向かう。
二人分の宿代(60銅貨)を支払い、部屋に入る。
「お食事にされますか」
「ええそうね!お願いするわ」
ルルに食事の用意をお願いする。
「えっと、アンディーン、ドリアド、グノム、ミノム、ルル、私の分だから25銅貨ね」
ルルは硬貨を受け取り、注文をしに行く。
「皆で食べるにはちょっと机が狭いかな……。ドリアド、木の魔法でなんとかならない?」
「それくらいなら大丈夫よ。木よ、我が手足となり、力となれ。木肢」
机の隣に、手の形をした机と足の形をした椅子が出来た。
「力は少し戻った?」
「一応人型を維持できるだけの力はあるのよ?ただ木香の魔法を使うとかなり力を消耗するのよ。人と意識を同調させるのは大変なのよぉ」
すっきりしたような顔で木から出てきていたので、英気を養っていると思っていたが違ったのかな?
「お待たせいたしました」
ルルが部屋に戻ってきた。
「左手に2つのトレーを置き、トレーの上に全員分のご飯が乗っていた」
「僕、手伝うよ!」
ミノムが一人分のお皿を持とうとしたが、力がなく、うまくもちあげられなかった。
「あぁ!アンディーンの分のご飯おとしてなくなっちゃった」
「なぜ私の分なのだ!!」
ミノムはアンディーンをいじっても良い人だと早速判断したらしい。その通りである。
「私がアンディーンの分のご飯食べるから、無くなっても大丈夫よ、ミノム」
ミノムと向かい合い、にこー と笑う。
「大丈夫じゃないわ!誰にもやらんぞ!私のご飯だ!」
ルルに配膳されたご飯をアンディーンは素早く手で囲み、ミノムと私を警戒する。
「ミノムとグノム様には、土の国の料理、ジャーマンポテトのポテトのみを注文してきました」
「「おいしそー」」
ミノムとグノムは、ドリアドに作ってもらった小さな木フォークでポテトを食べる。
光の国と土の国の国境付近だからか、ロレンス領には土の国の料理もあるようだ。
食事を終え、食器をルルに片づけてもらい、食後の紅茶を飲む。
「そういえば土の国でサラマンディアと買ったお酒、まだ飲んでないなぁ」
読んだわけではないが、紋が光り、サラマンディアが出てきた。力を使った後はしばらく呼ばないでと言われていたのに、休養の邪魔をしてしまっただろうか。
「あー」
出てきたサラマンディアは赤ちゃんのようになっていた。前回、炎蘇生を使ったときはミノムとグノムみたいに小さくなっていたが、赤ちゃんではなかった。
サラマンディアはびっくり箱だ。
「サラマンディアが赤ちゃんになってるの初めて見たわぁ~」
ドリアドがサラマンディアを警戒しながら話す。
「うー」
机の上にある空の木コップを転がし始めた。
ボー、パチパチパチ
木のコップを炎で燃やし、遊び始めた。火遊びは危険すぎる。
「キャッキャッ」
本人は楽しそうだ。
「小さいサラマンディアは見境なく燃やそうとするから苦手なのよねぇ。私、先に紋に戻るわ」
ドリアドとアンディーンは厄介ごとに巻き込まれたくないかのように紋へ戻っていった。
「火遊びは危ないよ」
水球を出して、火消しをする。
「うっ、うっ、うああああああ」
おもちゃを取られて、サラマ……、なぜかグノムが泣いている。
「え、ちょちょ。どうした」
「ミノムがぁ~、ミノムがぁ~」
「ミノム、何したの?」
「な、なにも、モゴモゴ、してないよ」
口いっぱいにポテトが詰め込まれていた。グノムの分のポテトも食べてしまったのだろうか。朝も野菜を独り占めされたからか、グノムはついに泣き出したみたいだ。
「うわあぁぁぁぁぁん」
「うっ、うっ、うっ」
サラマンディアまで貰い泣きしそうだ。ど、どどどうしよ。
「ルル、もう一つポテト買ってきて。ミノムはもう紋に戻りなさい」
5銅貨をルルに渡し、ミノムを紋に戻す。
「今からポテト買ってくるから泣かないで」
ズズーと鼻水をすすり、グノムが泣き止む。
サラマンディアは、机の上でお座りしてグノムをきょとんと見つめている。生後7か月くらいの赤ちゃんみたいで可愛い。
「うーうー」
サラマンディアはグノムに向かって手を伸ばし、両腕をバタバタさせている。グノムと遊びたいようだ。
グノムはそんなサラマンディアに対し、そっぽを向き、そっけない態度をとる。
「うっ、うっ」
玩具が手に入らず、サラマンディアは泣く前の嗚咽を始める。
泣かれるのは嫌なのか、グノムはサラマンディアの周りをふわふわ浮いて、なだめようとする。
ハイハイでグノムを追いかけ、無邪気に笑っている。
どうやら泣かれるのは回避したようだ。
グノムがポテトを食べ終わったので、サラマンディアと一緒に紋へ戻す。
「おやすみ、グノム・サラマンディア。紋へ戻ってね」
グノムは戻っていったが、なぜかサラマンディアが戻らない。ど、どういうこと!?
「あー、あー」
抱っこしてほしそうに、両手を上にあげている。
「光の精霊、なんで戻らないの?」
「うーん、おそらくじゃが、サラマンディアは複数の精霊の集合体だからじゃないかのお」
「一人じゃないってこと?」
「複数精霊として現れるわけではないからのお、一人といえば一人じゃな。一人じゃないと言えば一人じゃない」
分かったような。分からないような。
「あ゛ーーー」
サラマンディアを無視して話していたからか、低い声で抱っこを訴えられた。赤ちゃんを抱っこなんてしたことないからやり方は分からないが、とりあえずお尻あたりから両手で持ち上げる。赤ちゃんサラマンディアの体はすこし熱かった。
「お嬢様、抱っこは両脇の下に手をくぐらせます。抱き寄せた後、お尻当たりを持つのです。」
ルルの言われた通りに抱っこする。
「あー!うー!」
頬をペチペチ叩いてきた。ちょっと痛い。
サラマンディアは上機嫌だ。
「この子、どうしよう」
「私のベッドでお寝かせください。私は立ったままでも寝れますので」
「ルルへそんなに負担をかけられないわ」
「かまいません。私はベッドで寝れない体質ですので」
知らなかった。いつも先に寝ているので、ルルが寝ているところを見たことが無い。ベッドで寝ないならどこで寝ているのだろうか。
夜も更け、窓から雨の香りがし始める。子どもは寝る時間のため、とりあえずベッドにサラマンディアを寝かせる。
「うああああ、うああああん」
普通に泣き始めた。
外からザーという音が聞こえ、窓には大きな水の粒が絶え間なく当たる。どうやら村雨のようだ。
ルルは部屋の窓を閉め、鍵をしめる。
泣き止ませるために抱っこをすると、かなり強い力で服の裾を引っ張られた。雨が怖いらしい。離れそうにないので、しかたなく一緒に寝ることにした。
主人公所持金:14銀貨24銅貨(▲宿代60銅貨、ご飯30銅貨)




