第62話 公爵令嬢は日常を楽しみたい1
ー翌日。
土の国の王、后妃、王子、お兄様、私、精霊達というなんとも不思議なメンバーで朝の食卓を囲んだ。
朝からお酒は出ないため、アンディーンはいないが、ドリアド、アンディーン、グノム・ミノム達とも一緒に食事をする。
グノムとミノムは手乗りサイズの大きさなので、椅子に座るのではなく、机の上に座って食べている。子ども用のスプーンをちょっと重そうに持っているのが可愛い。
「僕、これいらない!」
グノムが柔らかくてジューシーな高級肉を皿の端に避ける。
「好き嫌いしてると大きくなれないよ!お兄ちゃん!僕の分もあげるから大きくなって」
ミノムがグノムのお皿に肉を全部移す。ミノムもお肉が嫌いなようだ。
その様子を見ていた土の国の后妃は、下品な食事に腕をプルプルと震わせている。お気に召さないようだ。
「ほ、ほら二人ともアンディーンみたいにちゃんと食べないと、もう一緒に食べれなくなっちゃうよ」
アンディーンは上級貴族と同じ教育を受けてきたと思えるくらい上品なマナーで食事をしている。
「「えー!アンディーンみたいには出来ない!」」
后妃様がいつ怒るかわからないからとりあえず静かにしてほしいが、精霊達が人間の事情を顧みることはない。
「アンディーン、やるよ」
グノムがアンディーンの皿に二人分の肉を乗せる。
「仕方がない、食べてやろう」
嬉しそうに二人のお肉もアンディーンが食べる。
「その代わり、これ貰うね!」
アンディーンのお肉に備え付けられていた、人参をミノムが食べる。土の精霊は野菜が好きらしい。
食事の交換というマナー違反の行動を頻繁にしたせいか、ついに后妃が席を立ち、部屋から出て行ってしまった。
やってしまった。。。。あとで謝らなければ。。。
「も、申し訳ございません。后妃様の気分を悪くしてしまいましたわ」
「いえいえ!かまいませんよ!人型の大精霊と食事が出来るだけで光栄ですから!」
兄の目は静かに怒っている。お兄様、怖い。
「あなた達、フィーナちゃんをあんまり困らせたらだめよぉ~」
ドリアドお姉ちゃんもっと言って!
バンッ!!
扉を勢いよく開き、出ていった后妃がカゴを持って帰ってきた。カゴの中には野菜が山盛りだ。
無言でカゴを机の上に置き、后妃の席に座る。
罰として、野菜を生のまま食べなさいという暗示だろうか。場の空気が少し凍り付く。
「わぁ!これ、食べていいの?」
冷たい空気を全く気にせず、ミノムが目を輝かせながら后妃様へ聞く。
后妃は扇子を取り出し、口元を隠す。后妃の隣にいた執事が后妃の代わりに話す。
「かまわないそうです。どうぞお食べください」
生野菜をあげるって逆に嫌がらせでは?と思ってしまったが、ミノムはとても嬉しそうだ。
「じゃあ僕も……」
「グノムはダメだよ。僕は食べていいって許可もらったけど、グノムは言ってないでしょ!ちゃんとお願いしないと」
グノムの手をはたいて、ミノムがカゴの野菜を独り占めする。
「人間!野菜を食べてやってもいいぞ」
ちょちょちょ!后妃に対して無礼すぎる!紋にも戻すべき?話し中に消えるほうが失礼?アワアワしてしまい何をすればいいか分からなくなる。
「そんなんじゃダメだよ!ね?フィーナ?」
ミノムが同意を求めてきた。
「そ、そうですわね。きちんとお願いした方がよくってよ?」
グノムは人にお願いするのが嫌なのか、もじもじしている。
「ミ、ミノムの馬鹿ぁ!!」
そう言い残して、グノムは紋へ戻っていった。
ミノムは美味しそうに野菜のカゴを平らげている。本当に独り占めするとは……。
「馬鹿ぁいただきました」
后妃様はその一言だけを呟いて机に顔を突っ伏していた。
土の精霊たちのために生だけど野菜を持ってきてくれたから、きっと怒ってないんだよ?ね?全然喋らないから分からないけれど。
食事を終えたら、土の国を出立すると伝え、そそくさと朝ごはんを食べて部屋から出る。荷物を取りに寝室へ戻ると、ルルが部屋の中で待っていた。
「お戻りですね、お嬢様。出立の準備は出来ております」
さすがルルだ。何も言わずとも準備が出来ている。
変装用のウィッグを被り、小さな鞄と短剣を腰にまきつけ、身支度を整える。
コンコン
ノックの音が聞こえたので、ルルが扉を開ける。
お兄様が部屋の外で暗黒微笑を浮かべて立っていた。怖い。
「フィナ。お父様とお母様からフィナにテレフォンバード届いたよ。王様が連絡してくれたそうだ」
ヒ、ヒイィ。土の国の王、なんてことをしてくれるんだ。
戦慄している私を無視して、録音された音声をお兄様が流す。
「エドアルドが会いたくて、会いたくて震えてるとか意味不明なことを言って、無断で家を出てはいけないと何度も教えてきたのに、まだ教育が足りなかったかしら?卒業してからのフィナリーヌの行動は目に余ります!母は怒りの頂点です!
まぁ落ち着いて。
フィナリーヌ、卒業し、淑女の一歩を踏み出したからと言っても婚約もしていない未婚の子女を一人で他国に行かせるのはとても心配なのだ。分かるな?帰ってからはしばらく謹慎だ」
お母様はとっても怒っていたがお父様は思ったよりも怒ってなさそうだった。帰ったら謹慎と言われたら、なんだか帰りたくなくなってしまう。
「会いたくて~会いたくて~ふる~え~る」
お兄様が急に体を震わせながら歌い出した。
「あにを~おもうほど~つっぱし~て。 ヘケッ」
兄の歌に合わせて続きを歌う。
「フィナー!(怒)お父様とお母様には伝えないよう言ったのに!家を出る時にもっとまともな言い訳を用意出来たよね?」
「ご、ごめんなさいい」
「学園に入ってから大人しくなったと思ったのに、やっぱり本来の性格はなかなか変わるものじゃないか。本当にフィナは昔から家を飛び出したり、いなくなったりして……。
とりあえずお母様とお父様には『今日帰らせるから2~3日で戻る』と伝えておくからね。寄り道せず帰るんだよ?いいね?」
「お兄様は一緒に帰りませんの?」
「土の国でやらなきゃいけないことがあるからまだ暫くは帰れそうにないな。まぁ夏までには一度帰るから、あまり寂しがらなくていいよ」
「べ、べつ寂しいとかそういうわけでは!」
「はいはい。とりあえずレンタル馬車を用意したら、また呼びに来るから準備して待ってて」
兄は馬車の手配をしに行った。
「ご子息様、なんだか機嫌が良かったですね」
ルルが謎なことを言う。どこをどう見てそう思ったんだ?最初から暗黒雰囲気が漂っていたような。
「たしかに、思ったよりは怒られていない気がするわね」
他国で感情を思いっきり露わにする貴族はそういない。あまり怒られなかったほうが当然だ。その分帰ってからが怖い。
「準備も終わってますから、紅茶でもいれましょうか?」
「お願いするわ。食後だからあっさりしたもので」
「かしこまりました」
土の国特有のマイセン陶磁器に紅茶を注ぐ。木コップとは違い、磁器にいれた紅茶はより高尚な味になった気がした。
主人公所持金:15銀貨14銅貨




