第56話 公爵令嬢はあしらいたい
◇
目が覚めるとハイエナのボスに俵担ぎされていた。
森の中を走り抜けている。周りにいた刺客達は、ハイエナのボスの速さに追いつけなかったのか、見当たらない。そして戦闘中も思ったが、この男かなり動きが速い。
「起きたか、ちょうど到着したところだ」
どこかの貴族の屋敷についた。
「逃げないから、降ろしなさい」
「人質とは思えない態度だな。まぁいいや」
正面の扉を開けるため、ハイエナのボスがドアノブを握る。
「砂漠の薔薇が手に入ったとは本当か!?」
扉を勢いよく押しながら、三流貴族が出てきた。この人はたしか……。魔法陣で難癖付けてた3流貴族だ。
「あ、あなた様は……」
「わたくしは、アンソワ家の長女。フィナリーヌ・アンソワと申します」
他国の貴族なので、念のためスカートの裾を掴み会釈をして、敬意を表す。
「ぞ、存じております。会釈など必要ありません。
わたくしは、ロレンス家の次男、ジョウダ・ロレンス子爵です。
ほんと申し訳ございません。手違いで手荒な真似をしてしまいました。何卒ご容赦ください」
子爵は深々と頭を下げる。丸いお腹と空っぽそうな頭がくっつきそうだ。
ロレンス家……。たしか土の国と光の国の国境沿いにある光の国の貴族だ。無駄に頭を下げてしまった。
「どうぞ中へお入りください。精一杯のおもてなしをさせて頂きます」
◇
「この度は、ご迷惑をおかけしてしまい申し訳ございません」
金色の刺繍が入った豪華なソファーに子爵と向かい合うように腰を掛ける。
机の上には紅茶とお菓子セットが用意された。
「いいえ。こちらも聞きたいことがありましたので、お気になさらず」
かなり冷たい声で言い放った。正直、3流貴族の手駒にやられたのも癪で半分八つ当たりだ。
「お兄様の行方をご存知ありませんか」
「砂漠の薔薇を持って行方をくらましたという情報のみで、居場所までは……」
「アンソワ家と知って、奪うおつもりだったのでしょうか」
「いいえ!違います!女性が持っていると聞いたので、現物を持ってくるよう指示をしたら、ならず者は奪うと勘違いしてしまったのです。料金はきちんと支払うつもりでした」
「いくら料金を積まれても、売るつもりはありません」
「そ、そんなぁ……。わたじのむ゛すめに死ねっていう゛んですか」
大の大人が急に泣き出した。ちょちょちょっと困るるるる。
「ドリアド、泣き止ませて」
「オッサンは無理」
「う゛、う゛う゛う゛あああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛。神様、もう悪いことはしません。お願いします。どうか娘を治してください」
3流貴族にプライドは無いようだ。藁にも縋る勢いで神頼みをし始めた。
「治せるかは分からんがのぉ、娘を見るだけみてようじゃないか」
光の精霊が出てきた。
「ぜいれい゛様~!!ありがとうございます」
もし治せなかった場合、ちょっと逆恨みされそうで怖い。
◇
「娘の部屋はここです」
案内された娘の部屋は薄暗く、生温い空気が外からの侵入を阻むように重かった。
ベッドに目線を配らせるが、人の気配がしない。部屋ではなく、娘のいる場所に案内してほしいものだ。
「アンディーンを呼んでおけ」
光の精霊に言われた通り、アンディーンを呼び出す。
「ガルルルルル」
獣の唸るような声がする。
声のする方へ視線を向けると、娘と思われる人物が部屋の隅で両手を伸ばし威嚇してきた。
目は血走っているのか赤く、部屋の闇に赤い瞳だけが異様に浮き出ていた。
本当に人間なのだろうか。
部屋へ一足踏み入れると急に襲い掛かってきた。
「ウガアアアアアアア」
「ヒイィィィ」
子爵は部屋の外で尻もちをついている。
「風よ、我が守りとなれ。風壁」
娘を風壁で受け止め、攻撃を阻止する。
「水よ、仇なす者を捉え、我が守りとなれ。水檻」
娘を水檻に入れる。
「ウ゛ア゛ァァ!ウ゛ア゛ァァ!」
放せと叫ぶように唸り声を出す。
「フィ、フィナリーヌ様、わたしは、こここれで失礼します。あとは、この者が説明しますので」
子爵は怯えながら、娘の部屋から去る。
子爵の代わりに現れたのが、執事のような格好をしたハイエナのボスだった。
「嬢ちゃん、こいつの面倒押し付けられるなんて一難去ってまた一難だねぇ」
言葉遣いも、礼服の着こなしもまるでなっていない。一時的な雇われ執事なのだろう。
「娘に何があったのかしら?」
「聞いた話によると、少しずつ壊れていったのさ。幼い頃は普通の娘だったんだぜ」
壊れた理由は何も分かってないようだ。
「こやつ、闇魔法にあてられておる」
光の精霊が水檻の外から観察し、答える。
「なるほどねぇ、それで嬢ちゃん達に治す充てはあるのか?」
「闇魔法だけなら可能じゃ」
「そいつは心強い。試してくれ」
娘にゆっくり近づく。近づくにつれ、唸り声が大きくなっていく。
「光よ、癒やす力となれ。光治癒 」
手をかざし、光魔法をかけると大きな叫び声をあげた。
「ウガアアアアアアア」
部屋中に獣の声が響き渡る。
娘の殺気立った雰囲気が落ち着いていき、目の充血も引き、それはそれは美しい娘の姿に変わっていった。あのおっさん子爵の娘とは思えない美貌である。
「おい、まじか。奇跡も魔法もあるのかよ」
ハイエナのボスはこめかみを抑えている。泣くのを我慢しているような声だ。
「いや、まだじゃのぉ。みてみ、瞳孔が赤いままじゃろ」
充血は引いたが、眼球は赤いままだった。
この世界で目が赤い生き物は、、、魔物だけだ。
「光治癒をかけるのが遅すぎた。魔法をかけられてから、色々な恨み辛みを向けられてきたか、自身に辛いことがあったのだろうな。そうでなければこうはならん」
「光治癒で治せないの?」
「闇魔法は消えたが、魔人化を消せるのは、聖女の力だけじゃ」
「このままだと、こいつどうなるんだ?」
ハイエナのボスが光の精霊に質問する。
「同じ生活をしていたら、再び魔人化するやもしれん。魔人化とは、闇魔法の成れの果てじゃからな。魔人化を防ぐには、恨まれるようなことはせず、自身も負の感情を抱かないように生きていくことじゃ」
「そうか、そうなのか!分かった。俺がこいつに負の感情なんか抱かせないようにさせてやる」
ハイエナのボスは握りこぶしを固め、決意を固める。目に光が差し込み、未来を照らしているようだった。
二人の関係性はよく分からないが、子爵の娘をとても気にかけているのが伝わった。
子爵にも闇魔法のことを伝え、聖女の力なら助けられると教えなければ。
主人公所持金:15銀貨14銅貨




