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公爵令嬢は転生したい  作者: 中兎 伊都紗
第一章 公爵令嬢は転生したい(第4部:土の国)
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第56話 公爵令嬢はあしらいたい

 ◇


 目が覚めるとハイエナのボスに俵担ぎされていた。

 森の中を走り抜けている。周りにいた刺客達は、ハイエナのボスの速さに追いつけなかったのか、見当たらない。そして戦闘中も思ったが、この男かなり動きが速い。


「起きたか、ちょうど到着したところだ」


 どこかの貴族の屋敷についた。


「逃げないから、降ろしなさい」


「人質とは思えない態度だな。まぁいいや」


 正面の扉を開けるため、ハイエナのボスがドアノブを握る。


「砂漠の薔薇デザートローズが手に入ったとは本当か!?」


 扉を勢いよく押しながら、三流貴族が出てきた。この人はたしか……。魔法陣で難癖付けてた3流貴族だ。


「あ、あなた様は……」


「わたくしは、アンソワ家の長女。フィナリーヌ・アンソワと申します」


 他国の貴族なので、念のためスカートの裾を掴み会釈をして、敬意を表す。


「ぞ、存じております。会釈など必要ありません。

わたくしは、ロレンス家の次男、ジョウダ・ロレンス子爵です。

ほんと申し訳ございません。手違いで手荒な真似をしてしまいました。何卒ご容赦ください」


子爵は深々と頭を下げる。丸いお腹と空っぽそうな頭がくっつきそうだ。

ロレンス家……。たしか土の国と光の国の国境沿いにある光の国の貴族だ。無駄に頭を下げてしまった。


「どうぞ中へお入りください。精一杯のおもてなしをさせて頂きます」



「この度は、ご迷惑をおかけしてしまい申し訳ございません」


金色の刺繍が入った豪華なソファーに子爵と向かい合うように腰を掛ける。

机の上には紅茶とお菓子セットが用意された。


「いいえ。こちらも聞きたいことがありましたので、お気になさらず」


 かなり冷たい声で言い放った。正直、3流貴族の手駒にやられたのも癪で半分八つ当たりだ。


「お兄様の行方をご存知ありませんか」


「砂漠の薔薇を持って行方をくらましたという情報のみで、居場所までは……」


「アンソワ家と知って、奪うおつもりだったのでしょうか」


「いいえ!違います!女性が持っていると聞いたので、現物を持ってくるよう指示をしたら、ならず者は奪うと勘違いしてしまったのです。料金はきちんと支払うつもりでした」


「いくら料金を積まれても、売るつもりはありません」


「そ、そんなぁ……。わたじのむ゛すめに死ねっていう゛んですか」


大の大人が急に泣き出した。ちょちょちょっと困るるるる。


「ドリアド、泣き止ませて」


「オッサンは無理」


「う゛、う゛う゛う゛あああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛。神様、もう悪いことはしません。お願いします。どうか娘を治してください」


3流貴族にプライドは無いようだ。藁にも縋る勢いで神頼みをし始めた。


「治せるかは分からんがのぉ、娘を見るだけみてようじゃないか」


光の精霊が出てきた。


 「ぜいれい゛様~!!ありがとうございます」


もし治せなかった場合、ちょっと逆恨みされそうで怖い。



「娘の部屋はここです」


 案内された娘の部屋は薄暗く、生温い空気が外からの侵入を阻むように重かった。

 ベッドに目線を配らせるが、人の気配がしない。部屋ではなく、娘のいる場所に案内してほしいものだ。


「アンディーンを呼んでおけ」


 光の精霊に言われた通り、アンディーンを呼び出す。


「ガルルルルル」


 獣の唸るような声がする。

 声のする方へ視線を向けると、娘と思われる人物が部屋の隅で両手を伸ばし威嚇してきた。

 目は血走っているのか赤く、部屋の闇に赤い瞳だけが異様に浮き出ていた。

 本当に人間なのだろうか。

 

 部屋へ一足踏み入れると急に襲い掛かってきた。


「ウガアアアアアアア」


「ヒイィィィ」


 子爵は部屋の外で尻もちをついている。


「風よ、我が守りとなれ。風壁ウィンドウォール


 娘を風壁で受け止め、攻撃を阻止する。


「水よ、仇なす者を捉え、我が守りとなれ。水檻ウォータージェイル


 娘を水檻に入れる。


「ウ゛ア゛ァァ!ウ゛ア゛ァァ!」


 放せと叫ぶように唸り声を出す。


「フィ、フィナリーヌ様、わたしは、こここれで失礼します。あとは、この者が説明しますので」


 子爵は怯えながら、娘の部屋から去る。

 子爵の代わりに現れたのが、執事のような格好をしたハイエナのボスだった。


「嬢ちゃん、こいつの面倒押し付けられるなんて一難去ってまた一難だねぇ」


 言葉遣いも、礼服の着こなしもまるでなっていない。一時的な雇われ執事なのだろう。


「娘に何があったのかしら?」


「聞いた話によると、少しずつ壊れていったのさ。幼い頃は普通の娘だったんだぜ」


 壊れた理由は何も分かってないようだ。


「こやつ、闇魔法にあてられておる」


 光の精霊が水檻の外から観察し、答える。


「なるほどねぇ、それで嬢ちゃん達に治す充てはあるのか?」


「闇魔法だけなら可能じゃ」


「そいつは心強い。試してくれ」


 娘にゆっくり近づく。近づくにつれ、唸り声が大きくなっていく。


「光よ、癒やす力となれ。光治癒ライトヒーリング 」


 手をかざし、光魔法をかけると大きな叫び声をあげた。


「ウガアアアアアアア」


 部屋中に獣の声が響き渡る。


 娘の殺気立った雰囲気が落ち着いていき、目の充血も引き、それはそれは美しい娘の姿に変わっていった。あのおっさん子爵の娘とは思えない美貌である。


 「おい、まじか。奇跡も魔法もあるのかよ」


 ハイエナのボスはこめかみを抑えている。泣くのを我慢しているような声だ。


「いや、まだじゃのぉ。みてみ、瞳孔が赤いままじゃろ」


充血は引いたが、眼球は赤いままだった。

 この世界で目が赤い生き物は、、、魔物だけだ。


「光治癒をかけるのが遅すぎた。魔法をかけられてから、色々な恨み辛みを向けられてきたか、自身に辛いことがあったのだろうな。そうでなければこうはならん」


「光治癒で治せないの?」


「闇魔法は消えたが、魔人化を消せるのは、聖女の力だけじゃ」


「このままだと、こいつどうなるんだ?」


ハイエナのボスが光の精霊に質問する。


「同じ生活をしていたら、再び魔人化するやもしれん。魔人化とは、闇魔法の成れの果てじゃからな。魔人化を防ぐには、恨まれるようなことはせず、自身も負の感情を抱かないように生きていくことじゃ」


「そうか、そうなのか!分かった。俺がこいつに負の感情なんか抱かせないようにさせてやる」


 ハイエナのボスは握りこぶしを固め、決意を固める。目に光が差し込み、未来を照らしているようだった。

 二人の関係性はよく分からないが、子爵の娘をとても気にかけているのが伝わった。

 子爵にも闇魔法のことを伝え、聖女の力なら助けられると教えなければ。




主人公所持金:15銀貨14銅貨

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