第55話 公爵令嬢は負けたくない
◇◇
治安の悪そうな裏路地へ入り、刺客達を誘いこむ。
「姉ちゃ~ん、いい体してんじゃ~ん」
違うハイエナが5匹釣れてしまった。
「そっちは不細工ばっかねぇ、ちょっとお断りよぉ」
ドリアドはハエを払いのけるように答える。
「ブスには興味ねぇえんだよ。黙ってろ」
ドリアドを殴るかと思ったが、なぜかアンディーンの顔面に拳が飛ぶ。
アンディーンは首を少し曲げて拳を避ける。
「すかした顔しやがって」
アンディーンの顔が気に食わないらしい。
見るからに下劣そうなハイエナは、アンディーンに避けられて舌打ちをする。
「あんた達、やっておしまい!」
ドリアドが三下の女ボスのような台詞を言う。服装も胸が強調されたベアトップの黒い服に、ヒールの高いロングブーツを履いている。まさに悪役のような服装だ。
「木よ、我が手足となり、力となれ。木肢」
「土よ、いでよ。土球」
「水よ、あだなす者を捉え、我が守りとなれ。水檻」
「ぴかー」
ドリアドの足元から手の形をした木が伸びる。ドリアドを持ち上げ、指の部分を背もたれにして座る。
私はアンディーンを殴ろうとしたハイエナに土球を放ち、腹部にあてアンディーンが出した水檻に入れる。
アンディーンは4匹のハイエナを水檻に捉える。
光の精霊はパチモンのピカッチユーのような声で鳴き、裏路地を少し照らす。
「そちも戦わんかいっ!!」
光の精霊が高みの見物を決め込んでいるドリアドにツッコミをいれる
「タマも戦ってないでしょーがっ!」
「だれがタマじゃ」
ドリアドが光の精霊に言い返す。
たしかに光の精霊も戦っていない。
「ぴかーとかふざけたこと言いやがって、俺達のボスをなめるなよ!!」
ハイエナ達がありがたいことに『ぴかー』にもツッコんでくれた。
「ドリアド、木檻でつかまえて」
「無理よ。私いまので力使い果たしちゃった。神樹としてあがめられてないから力がかなり無くなってるのよ」
「そなた、ふざけているのか?」
アンディーンがドリアドに向かって呆れたように言葉を放つ。
「いや、本当よ」
最後の力を、高みの見物を決めるための椅子に使うなんてやはり戦闘中に呼んではいけない精霊だった。
「アンディーン、水檻をもう一つ出せる?」
「同じ技を二つ同時は無理だ。違う技なら出来るが」
「分かったわ。そのまま三下達を拘束してて」
本来の目標である刺客達は、戦い終わった後の隙をつこうとしているのか、襲ってくる様子は無い。
「土よ、いでよ。土球」
両足を拘束できるよう、ハイエナのボスの足元に土球を出現させる。
「お前、馬鹿か?」
詠唱中に間合いを詰められ、ハイエナのボスが目の前に現れた。ボスの右ストレートが来る。
咄嗟に腰にある解体用の短剣を取り出し、右ストレートの横から力を加えていなし、なんとか避ける。
ハイエナのボスは後ろに下がり、間合いを取る。
公女の嗜みである護身術をきちんと習得していて良かった。
「ほう、ただのお嬢ちゃんというわけじゃないようだな」
「アンディーン、サラマンディア、死なない程度に攻撃して」
「魔法攻撃で加減など出来んぞ」
水属性の魔法は力加減ができないようだ。たしかに水強奪は即死してしまう。水雨は無害だし、大津波は範囲が広すぎて民家も巻き込まれそうだ。
「……」
サラマンディアは無言で頷き、攻撃態勢を取る。
「火よ、出でよ。火球《ファイア―ボール》」
「だからお前ら、馬鹿か?」
ハイエナのボスは再度、詠唱中にサラマンディアの間合いに入り、左ストレートを打ち込む。
サラマンディアの顔面に当たったが、アンディーンと同じく、体の一部を火に戻し避ける。
「おっと、嬢ちゃんは火の精霊とご契約か。人型とは高尚なこった。
だが残念だったな!俺は水属性の魔法を使える。本当の魔法の使い方見せてやるよ」
「兄貴ー!やっちゃってくださーい」
三下達が意気揚々と叫ぶ。
「黙れ」
アンディーンが口元を水球で塞ぐ。
いや、その技でいいんだよ。それをハイエナのボスにやるんだ。
「『水よ、出でよ。水球』」
ハイエナのボスと、詠唱が重なる。
私が出した水球はハイエナのボスを捉えることは無かった。
ハイエナのボスは、水球をグローブのようにはめて、サラマンディアへ連続攻撃する。
「で、出たー!兄貴の連続衝撃」
「だせえ技名つけてんじゃねえよ」
三下達は、水球から顔をだして、叫ぶ。
たしかにちょっとダサい。
サラマンディアは、体の半分を火に変えているが、水が当たり苦しそうな声をあげる。
「うっ……。フィナ、こいつ殺していい?手加減、難しい」
サラマンディアがとても冷たい声で聞いてくる。本当に殺しそうだ。
「だ、だめかな。死ななければ光治癒で治せるから半殺しなら……」
「……」
サラマンディアは黙り込む。
「もう馬鹿みたいに魔法は撃ってこないのか?剣使いも大楯使いもいないパーティー嬲ってもつまんねぇーからもう終わらせるぞ」
ハイエナの右手と左手に魔力が集まっている。次で決める気だ。
ハイエナのボスの動きを止めるために、風球で浮かばせたいが、土球も水球も早すぎて捉えられないため、風球も当たる気がしない。
「俺が豹変しても引かないで」
サラマンディアの髪の毛が逆立ち、体の周りに炎が揺らめく。魔力が可視化できるほどの力を放っている。
「ヒャッハー!ハロー!ワールド!ハロー!三下共!」
「!!??」
サラマンディアごめん、引いた。え?急にどうした?
「……。サラマン、、、ディア?」
「俺の今の主人は君か?なるほどねぇ」
顎をクイッってするのやめい!と思っておりますが、サラマンディアの周囲に漂っている濃い魔力に威圧され、言葉が出ない。
「やっと本気ってわけか、あんちゃん」
ハイエナのボスは、強そうな気配に目を輝かせる。戦闘狂は精神が強い。
「三下に俺が本気出すわけないだろ」
すみません。うちのサラマンディアが、煽るようなこと言って、ほんとあとで言っとくんで水の攻撃とかしないでくれると嬉しいです。
「火の精霊ごときがなめたこと言うじゃん。体の一部である服、まだボロボロのままだけど」
「あぁ?たりーなー。火よ、我が覇道の糧となれ、炎領域」
サラマンディアの足元からハイエナのボスがいる範囲で大きな炎が燃え上がる。
火の中にいるサラマンディアは、傷や服が修復され治っていく。
アンディーンの水檻からも蒸気が出て、蒸発しそうだ。
「魔法使いは、近距離攻撃には勝てない定めなんだよ」
後ろからハイエナのボスの声がした。
振り向こうとしたが、首元にナイフがある。
「全員両手をあげろ。ボスを殺すぞ」
サラマンディア、アンディーンは、魔法を解除し両手をあげる。
ドリアドは高みの見物を決めたまま、手をあげた。
光の精霊はパチモンのイシツブテのシルエットになっている。
檻の中にいた三下達も手をあげている。全員に自分たちも含まれていると思ったらしい。
「嬢ちゃん、砂漠の薔薇持ってるのはあんたか?」
ハイエナ共も砂漠の薔薇狙いだったようだ。
「当たりか。ここはハイエナ共が多いから雇い主の所まで一緒に来てもらうぞ」
うんともすんと言ってないが、気配で悟られてしまったらしい。
「おねんねしな、嬢ちゃん。水よ、出でよ。水球」
「うっごっ」
口から何かを飲まされた。吐き出そうとしたが上手くできず飲み込んでしまった。鼻から睡眠薬草の匂いが通り抜け、眠りについた。
主人公所持金:15銀貨14銅貨




