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公爵令嬢は転生したい  作者: 中兎 伊都紗
第一章 公爵令嬢は転生したい(第4部:土の国)
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第52話 公爵令嬢は検証したい

ー翌日

 窓の外から聞こえてくる音で目を覚ます。どうやら表で賑わっているようだ。

 ベッドから起き上がり、窓から外の様子を伺うと、歩いている人々の視線が宿屋へ向いていた。


「何かあったのかしら?」


 ルルに聞こうと思ったが、見当たらない。

 冒険者用の服装に着替えて、外に出て確認する。


砂漠の薔薇(デザートローズ)を探しています。

見つけた方には銀貨5枚差し上げます」


 宿屋の屋根上で、刺客達を柱とした横断幕が張られていた。


「砂漠のローズって何かしら?」

「違うわよ、デザートローズよ」

「ギルドじゃなくて屋根の上で募集するなんて斬新ねぇ~」


 通りの人々は、横断幕の内容について話していたようだ。

 ルルが情報を集めるために、横断幕を張ったのだろう。


 人々の反応で気になることが一つ。


「タマ、砂漠の薔薇は土の国で祭られている鉱石だったと言ってなかった?」


 光の精霊に確認する。


「誰がタマじゃ!たしか数百年前はそうだったはずじゃがのお。今は違うようじゃな」


 数百年前の話をされていたとは驚きだ。情報のアップデートをしてほしいものである。


(新しい情報が正しいとは限らんからのお。もたらされた情報の精査が大事なのであって、常にアップデートして鵜呑みにすればいいというものではないのじゃ。数百年前の情報も、現在の情報もおぬしが検証し判断するべきじゃ。情報をもたらした人のせいにするでない)


 光の精霊が心の声に対して盛大に対抗してくる。そして光の精霊の言う通り、情報の精査を怠った私が悪い。

 ルルは情報の検証を行うべく、横断幕という手段を使ったのだろう。



 部屋に戻り、ルルを呼び出す。


「ルル、いいかしら?」


「お呼びでしょうか。お嬢様」


 部屋の扉からではなく、窓からルルが入ってきた気がした。正確に言うと、現れる瞬間がよく分からなかった。アンソワ家の執事といい、メイドといい、呼び出されたら瞬間移動のような速さで現れる者達ばかりだ。戦いに身を投じるようになってから執事やメイドの戦闘力の高さを感じ、驚くばかりだ。


「屋根の上の件について、聞かせていただけるかしら」


「承知しました。

 現時点で集めた情報によると、砂漠の薔薇は、以前は土の国で祭られていた鉱石だったようです。

 煎じて飲むと全ての病を治す力があるらしく、百年前までは採掘され、土の国の民の薬として使われてきたようです。

 しかし、採掘されすぎた砂漠の薔薇は、資源が枯渇し今はもうどこにも無いそうです。今となっては砂漠の薔薇を知る者も少なくなり、砂漠の薔薇の信仰は潰えたそうです」


「あの横断幕からよくここまで情報を集めたわね」


「横断幕に反応した人達から少々話をお聞きしただけです」


 ルルの腰にある鞄から長めの針が突き抜け、妖しい光を放っていた。

 情報を聞き出すために荒事を起こしていなければいいけれど。少し心配になったが、兄の命を狙う不届き者が情報を聞きつけ紛れている可能性を考えると、自衛のためにも必要なことのように感じた。


「ありがとう。情報収集が終わったら横断幕は片づけておいてね。

さて、そろそろご飯にしましょうか。おかみさんに依頼して部屋まで運んでもらっていいかしら」


 ルルに銀貨1枚を渡し、座って待つことにした。


「アンディーン、ドリアド、サラマンディア。昨夜、刺客を狙おうとする怪しい人達はいなかったかしら?」


「誰もいなかったわね。ルルが屋根の上で殺気を出しながら寝ていたから、誰も近づけなかった。が正解かしらねぇ」


 ドリアドが答える。殺気を出しながら寝るとはどんな状況なのか……。


「お嬢様、お待たせしました」


 食事が運ばれてきたため、ドリアド、アンディーンと一緒に食卓を囲む。


「ルルも食べていいのよ?」


「はい。皆様が食べ終わりましたら、1階の食事スペースで頂きます」


 目上の者と食べるのは気まずいだろうと思い、それ以上は言わなかった。


「ルル、食後はこの茶葉を淹れてちょーだい」


 ドリアドは茶葉と紫色の実をルルに渡し、紅茶を淹れるように指示をする。机の上には3つの木コップが並ぶ。

 昨夜のハーブティーも収穫したばかりの紫色の実を使っていたようだ。果実が出来た要因を考えるとちょっと複雑な気持ちになるが、美味しいティーに罪はない。


 食後のティータイムを楽しんでいると、昨夜の刺客達がロープにぶら下がりながら窓をノックしてきた。

 ルルが窓を開け、部屋に招き入れる。


「ルル様、お待たせいたしました」


 ルルを様付けで呼んでいる。調教は済んでいるようだ。他国の使者を従わせるとは恐ろしい子。


「早速、情報交換いたしましょう」


「はい。フィーナ様のお兄様の行方については、学園から姿を消した後、情報が入っておりません。また砂漠の薔薇についてはフォトーのみでどのような目的で回収しようとしているかは知らされておりません。私達の目的は砂漠の薔薇の回収で、フィーナ様のお兄様を害する目的はございません」


 フォトーに写った物を確認する。

 赤と茶が混ざった色だが、透明度が高く、光沢がある。花びらが幾重にも重なり、二輪の薔薇が咲いていた。

 情報はほとんどないが、写真を見ることが出来たこと、兄の命が目的ではないことが分かっただけでも協力関係を結ぶことが出来て良かったと言えるだろう。


「あまり情報は伝えられていないようですね」


「はい。任務に必要がない情報は基本的に渡されません。また探ることは禁止されております」


「こちらで収集した情報も伝えましょう。

 砂漠の薔薇には、どんな病でも治す力があるようです。この力を必要とする者に心当たりはありますか」


ルルが刺客のリーダーと会話を進めていく。


「申し訳ございません。雇い主の情報についてはお教えできかねます」


そうは言ったものの、土の国の紋が入った短剣と統制のとれた小隊を指揮している時点で、騎士団を持っている貴族や王族だろう。しかも暗殺部隊を所有してる者となればすぐに調べがつきそうだ。


「分かりましたわ。雇い主に関する質問は控えます」


物分かりの良い返事をしておく。


「ところで屋根の上にある横断幕は回収してもよろしいでしょうか。一応我々は、隠密部隊。あまり目立つことは控えたいのですが」


先ほど2階の窓から入ってきたのも十分目立っていたような気がするが、言葉を飲みこみ気にしないことにした。


「えぇ、結構です」


 ルルが回収の許可を出す。

 刺客のリーダーは窓の外にいた部下に手と目線で指示を出し、回収にあたる。


「お嬢様、どのようにご子息様をお探ししましょうか」


 ルルが私に問いかける。

 砂漠の薔薇の在り処も、お兄様の所在も情報は集められていない。お兄様の居場所を探すには学院で情報を集める方がいいだろう。

 

「そうねぇ、、、。学院の反応が引っ掛かるわ。お兄様の名前を出すだけで目をそらし関わらないようにしていたことを考えると、誰かしら情報を持っていると考えられるわ」


「そうですね。学院での聞き込みはルルにお任せください」


「わかったわ。お願いするわね」


「承知しました。準備致します」


 ルルは片足を浅く後ろに引き、両手もしくは片手でスカートの一部をつまんで軽く持ち上げて会釈する。


「私共は、引き続き、聞き込みを行います。本日の夕方、昨日お会いした路地裏で集合し、情報を交換いたしましょう」


 そう言って、刺客のリーダーとルルは姿を消した。

 学院への聞き込みはルルがしてくれるというので、土の国を歩き、見物することにした。観光ではなく、あくまで情報収集を目的とした偵察である。

主人公所持金:16銀貨28銅貨(▲ルルに渡した銀貨1枚)

※ルルの諜報活動にも費用が必要なので、朝食のお釣りは受け取ってません。

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