第51話 公爵令嬢は聞き出したい
80銅貨を支払い、二人用の部屋へ入る。通常は60銅貨だが、人を運び入れるため広い部屋を借りた。
刺客達は窓から運び入れ、逆さづりにする。
ルルが刺客のうちの一人を起こす。首に細長い針を差し、気絶させていたようだ。
「ここは……」
「さて、あなた達。私が誰か分かってて襲ったのかしら?それとも相手の素性も知りもせず襲ったのかしら?」
目覚めた刺客は、自分の状況を把握し、だんまりを決め込む。
「お言葉ですが、お嬢様それで教える阿呆はいないかと存じます」
「そうよね……。どうすればいいかしら」
「お嬢様のお手を煩わせることになりますが、死ぬかしななか程度の傷を負わせ光治癒で治すのはいかがでしょうか」
「死にかけた程度で吐いてくれるかしら」
「針を脳に刺して、自白を促す方法もあります。自白する前に虚ろとなり死亡してしまうかもしれませんが」
「情報を聞けずに、死んでしまったら意味ないでしょ」
専属侍女ルルとどのように自白させるか談義する。
「ドリアドが先ほどの件の弁明をさせてほしいと言っておるぞ。あと自白させる手段を持っておるらしい」
光の精霊が出てきた。
侍女ルルは、膝まづきかしこまる。
「ドリアド」
「フィーナちゃん、さっきはごめん!でもフィーナちゃんを傷つけるつもりは無かったのよ!後ろからずっとついてくるその子を炙り出したかったのよ」
「やはり気づいておられました。さすがです。ドリアド様」
ルルが膝まづいたまま答える。
「木の上をジャンプされてたら嫌でも気づくわよ。私以外の誰も気づいていないから余計気になっちゃって」
「だからといって、やっていいことと、悪いことがあるでしょ!これからは誰かがついてきてたら、先に口で言って!」
「わかったわ、もうしないから怒らないで」
ドリアドが私の頭を撫でてなだめる。頭を撫でられたのは何年ぶりだろうか。なんだかふわふわして変な感じだ。ちょっと絆されてしまう。
「もー!次したら許さないから」
頭を撫でられて絆された。
「それで、どうやって自白させるの?」
ドリアドに質問する。
「ちょっと私の世界に着てもらうだけよ(ハート)」
ドリアドの体の中心に魔力が集まる。
「木よ、花を咲かせ、実りを齎せ。木香」
ドリアドの足が木の幹となり、背中から樹幹が伸びる。ドリアド自身が木に包まれている状態だ。
樹幹は十字型の小さな花を沢山咲かせる。そのオレンジ色に咲いた花達はキンモクセイの香りを漂わせ、鼻を通して脳を刺激し、幸福感をもたらす。
ドリアドが吊るされている男性の紐を切断し、拘束を解く。
男性はフラフラと歩き始め、ドリアドの胸の中に飛び込んだ。
木は成長し、ドリアドと男性の姿を隠す。
オレンジの花達は、ざわめき揺れて、一つずつ紫色の実結ぶ。
「やっぱり、収穫するには美男子が一番ね」
ドリアドが男の姿に変わりスッキリとした顔で出てきた。長髪から短髪にかわったため、より男らしい。声もいつもより落ち着いている。これが俗に言う賢者モードというやつだろうか。
続いて木に取り込まれた男性が床に倒れ込む。男性はうっとりとした気持ちよさそうな顔で眠っていた。
「うっ。。この魔法は、、、」
アンディーンは何かを思い出したように、げっそりした表情で呟く。
「情報は聞き出せたのでしょうか」
夢現となっている男をルルが再度吊るし上げ、ドリアドに確認する。
「えぇ、命令で砂漠の薔薇を探しているみたい。それを持っていると思われるのが、お兄さんみたいよ。フィーナちゃんを襲ったのは、居場所について情報を持ってないか聞き出すためみたいね」
「砂漠の薔薇ってなに?」
「頭の中に流れ込んできたイメージは茶色の鉱石だったわねぇ」
鉱石の為に、お兄様が人に手に懸けるとは思えない。そして誰かを殺してでも手に入れたいものなのだろうか。
「うろ覚えじゃが、砂漠の薔薇は土の国で祭られている鉱石だったかと思うのお」
光の精霊が出てきて答える。
ご神体を盗んだり、持ち運んだりしているのであれば、追われても仕方が無い。ただお兄様がそんなことをするとは思えない。
土の国で砂漠の薔薇が祭られているなんて聞いたことがないから、お兄様は知らずに持っている可能性もある。訳も分からず襲われて逃げているのであれば不憫で仕方がない。
「お兄様はいったいどこへ……」
この場で答えられる者は誰もいない。分かっていたが呟かずにはいられなかった。
「お嬢様、この者達はどうされますか」
ルルが刺客達に目線を配りながら聞いてきた。
「そうね。兄を探すための協力関係を提案してましょう。もし断った場合は、この国を出るまで屋根の上にいてもらいましょう」
「かしこまりました。後はお任せください」
ルルは屋根の上に移動し、アンディーンが刺客達を運び出した。
「疲れた~」
ベッドの上に倒れ込む。動きたくない気分だったが、お腹が食事を取れとしつこく捲し立ててくる。
仕方なく起き上がり、宿屋のおかみさんへ夜ご飯の注文をした。
「おかみさん、夜ご飯を4人分お願いします。部屋で食べてもいいでしょうか」
「4人分かい!?元気な嬢ちゃん達だねぇ」
女2人で宿をとったのに、4人分を食べるのはなかなかだが、一人で3人分食べると思われた時より恥ずかしさはなかった。赤信号みんなで渡れば怖くない理論だ。周りに一人でも自分と同じような人がいると思われるだけで心強い。
「はい、肉料理4人分、20銅貨だよ」
20銅貨を支払い、料理を受け取る。残りの残額は銀貨17枚と銅貨28枚だ。無駄遣いをしなければ4人分のご飯を1か月は賄えるはず。
アンディーン、ドリアド、ルルの分の食事を部屋へ運ぶ。ちなみにサラマンディアはお酒が好きらしく、高級な酒がある時は呼んでほしいということだった。
部屋へ戻ると、ルルはまだ戻っておらず、アンディーンとドリアドは優雅に椅子へ腰掛け、ご飯を待っていた。
ドリアドは空っぽの木コップを持ち、紅茶を飲んでいる素振りをしている。
アンディーンは髪をかきあげ、ご飯を食べられるのは当然という顔で座っている。
「おぉ、戻ったか。早く食べよう」
アンディーンが待ちきれない感情を隠すように、余裕のある素振りで食事を促す。
「ルルが戻ったらね」
窓から顔を出し、ルルを呼ぶ。
「お待たせして申し訳ございません。もう少しかかりますので、先にお召し上がりください」
ルルが屋根の上から逆さになって出てきた。
「分かったわ。ルルの分は机の上に置いておくわよ」
「ありがとうございます。お嬢様」
椅子に腰掛け、3人で食事を取った。
◇◇
食事を終えた後は、シャワーを浴びて自室へ戻る。
ルルの分のご飯は、無くなっていた。シャワーを浴びている間に食べたようだ。
机の上には、ドリアドの木コップにハーブティーが注がれ、アンディーンとドリアドが優雅に飲んでいる。ルルが紅茶を注いでいた。
「ルルといったか?そなたの淹れるお茶は一級品だ。褒めてつかわす」
アンディーンは上品に紅茶を嗜んでいた。
「人の侍女をなぜ勝手に使ってるのよ」
「問題ありません、お嬢様。大精霊様にお使いできるのは光栄なことです」
「そういうことだ」
アンディーンは当然のように木コップのティーを飲み干す。
アンディーンやドリアド達と一緒に机を囲み、木コップを出してもらう。
「私にも淹れていただけるかしら?」
ルルにハーブティーを注いでもらう。
「さて、刺客達との話し合いはどうなったのかしら?」
「協力関係を築きたいと仰せです。しかし独断で動くことはできないため一度持ち帰り相談したいとのこと。明日の昼まで待ってほしいそうです。人質を二人置いて行かれました。屋根の上に野ざらしにしております」
「ありがとう。分かったわ。上の人質を精霊達に見張らせるからルルは安心してベッドで寝なさい。私もハーブティーを飲んだら休むわ」
「ありがとうございます。お嬢様の就寝後、休息をとらせていただきます」
香り高いハーブティーを口に含むと、今まで飲んだことがない味わいだった。甘い風味が鼻から抜け、清涼感のある若々しい味であるにも関わらず、飲み終わった後も甘い香りが残り、余韻を楽しめる一品だった。
ハーブティーをゆっくり飲み干し、ベッドに入る。
ティーによって、副交感神経系が働いたからか安心して眠ることが出来た。
主人公所持金:17銀貨28銅貨(▲宿代80銅貨、ご飯20銅貨)
広めの宿なので少し高め。
1日だけで平民の給与の1/3消費してる・・・。




