第27話 公爵令嬢は治療したい
カクヨム続きあります。
ー翌日。
鳥の囀る音が、小窓を揺らす。もう朝かと思い、少し重たい体を起こす。窓の外では鳥が地面に落ちた食殻を取り合っていた。餌をあげたくなる微笑ましい光景だ。リオスを見るとまだぐぅぅぅぅと大きな音で寝息をたてていた。子どもといえど炎竜にふさわしい寝息だ。起こさないように身支度を整える。
「アンディーン、朝ご飯いる?」
小声でアンディーンに問いかける。
「人の世界のご飯は美味しいからな。いただこう」
「しーっ。リオスが起きちゃうから静かに」
そっと部屋を出て、おかみさんに3人分のご飯を注文する。15銅貨を支払い、出来たご飯を部屋へ運ぶ。
「リオス、起きて!ご飯だよ」
ご飯と聞くとすぐに起きた。人の姿になり一緒にご飯を食べる。
「ご飯の後は、ケーキを買いに行くのか」
アンディーンが目を輝かせ質問してくる。
「ケーキが1つ30銅貨で3人分注文すると90銅貨なのよね。今手持ちのお金が43銅貨だから、先にお金を稼がないと」
「ケーキは午後までお預けか」
「アンディーンはどうしてそんなにご飯が好きなの?」
「精霊は本来食事の必要は無いんだが、味覚があるので味を覚えると娯楽として食べたくなるのだ。人のご飯は人と契約している間しか食べられないから、今のうちに食べたいのだ。昨日の食事は数百年ぶりの人のご飯だったからとても美味しかった」
食事について語る水の精霊は歓喜の表情を浮かべていた。
食事を終え、食器をおかみさんに渡す。ごちそうさまと言って、リオスと宿屋を出る。
朝の屋台通りはまだ屋台が並んでおらず、人がまばらに散っていた。
冒険者ギルドへ到着し、Dランクの依頼を確認する。まとめると下記の3種類だ。
【依頼】
・狂魔木採取……約50銅貨
・属性薬草5束……約40銅貨
・魔猪1匹……約40銅貨
依頼の詳細に生息地域が書いてあるが、火の国の地理に詳しくないため、狂魔木の場所と木薬草の場所しか分からない。稼ぐためには薬草が大量に生えているところで採取する方が早い。
「うーん、どうしよう」
声に出して悩んでいると、リオスが背中の鞄を引っ張ってきた。
「僕、この草がたくさんあるところ知ってるよ」
リオスが指したのは火薬草だった。
「どのくらい沢山あるかな?」
「たーくさん!このお部屋いっぱい」
この部屋の広さであればかなり多そうだ。今日は火薬草の採取に向かおう。
目星がついたので、冒険者ギルドの扉をあけ屋台通りに出る。ギルドを出てすぐ男性とぶつかった。お互いに尻もちをつく。
「『あいたたたた』」
「すみません。大丈夫ですか。お怪我ありませんか」
すぐに起き上がり、尻もちをついている男性に手を差し出す。男性は頭や腕に包帯を巻いていた。
(どうみてもケガだらけじゃのお)
「こちらこそ、すみません。ありがとうございます」
手を掴まれたので、手を引っ張り男性を起こす。
「あのそのお怪我、、、」
「これはちょっと色々ありまして、、、ぶつかったケガとは無関係なのでご安心を。急いでいるのでこれで」
男性はギルドへ入るため、扉を触る。
「ちょっと待ってください」
急いでいる男性の包帯が巻かれていない肩をつかみ呼び止める。
「いたあああああ」
「あ、すみません。ケガしているところを避けたのですが……」
「い、いえ。ダイジョウブデス」
涙目でカタコトになっていた。痛かったのだろう。
「治療してもいいですか」
「え、いやそんな悪いですよ」
光の国で、光の精霊は有名だが、火の国では炎竜を神として祭っているから大丈夫だろうと思い、光治癒を使う。
「光よ、癒す力となれ。光治癒」
男性の体を白い光がつつみ、骨折や腕の傷を治していく。
「す、すごいです!建国神話の聖女様みたいです!!」
「いえいえ、聖女の力はありません。光魔法で治しただけです」
「光魔法が使える人なんて聞いたことありません。ありがとうございます。お名前を聞いてもいいですか」
「フィーナです」
「フィーナさんですね!この御恩は必ずお返しします!今は火急の用事があるので失礼します」
そう言って、怪我だらけだった男性は冒険者ギルドへ駆け込んだ。辺りを見渡すと通りでは屋台の準備が始まっていた。
「リオス、火薬草の場所まで案内してくれる?」
「あっち」
指を刺した方向はマウナロア火山方面だった。
「マウナロア火山まで向かうの?」
具体的な位置を聞いてみる。
「ううん。火山と町の真ん中くらい」
あまり遠くなさそうだ。依頼にあった場所の地図も火山方面で概ね合っていた。昨日噴火していたので、あまり近づかないほうがいいかもしれないが、アンディーンに守って貰えば大丈夫だと思ったので向かうことにした。
町を出る関所近くにお弁当屋さんがあった。ここでお店を出すとは商売上手に違いない。3人分のお弁当を買い、15銅貨を支払う。残金が28銅貨になった。関所を出て、リオスについていく。
道中は途中から登山になった。川の流れに沿って整備もされていない道なき道を進む。リオスは竜の姿に戻り飛びながら移動していた。私も風球をつかって移動する。
走るよりは遅いスピードだが、登山するよりは早いスピードだ。
上流の方へ行くと水が勢いよく流れ、水中に入っていく音がした。どうやら滝があるようだ。
緑に囲まれた一本の滝は、水面の上に着くと、小さな水しぶきをあげていた。鳥のさえずりと調和した水音が登山で疲れた体を癒やす。滝つぼからは湯気が出ており、水に少し触れてみると温かく肌ざわりが滑らかだった。
これは温泉と呼ばれる代物に違いない。よく小説で出てくる、山の上にある温かい湯そのものだ。どうやら登山をしている途中で異世界に迷い込んでしまったようだ。
見たことがない形をした動植物に、見たことがない川、これは紛れもなく異世界である証拠だ。私も知らないうちに転生していたようだ。
「妄想は終わったかのお。早く行かないと、リオスに置いて行かれるぞ」
小さな翼をバタバタさせ、滝の上に続く川沿いに進んでいた。
「待ってえ」
滝から少し上流へいったところに、赤い草原が広がっていた。依頼にあった火薬草と同じ見た目だ。
「ここはとと様も知らない秘密の場所なんだ」
リオスは無邪気に草原の上で寝ころび、ころころと体を動かしている。
私も少し休憩しようと、草原の上に座り込む。地面は熱を帯びていた。素手で触ると少し熱いが、衣服の上からだとちょうどいい温度だった。
草原はまるで小説の中に出てくる岩盤浴のようなところだ。
「ご飯にしようっか」
アンディーンを呼んで、お弁当を取り出す。一面に広がる赤い草達は小風と遊び、楽しそうに揺らめいている。そんな草原の中で食べるご飯はいつもの3割増で美味しかった。
主人公所持金:28銅貨(▲朝ご飯15銅貨、弁当15銅貨)




