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公爵令嬢は転生したい  作者: 中兎 伊都紗
第一章 公爵令嬢は転生したい(第1部:光の国)
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第1話 公爵令嬢は転生したい

カクヨムに続きを掲載しています。

https://kakuyomu.jp/works/16817330652213581388



 公爵令嬢フィナリーヌはうつむいていた。公爵家の娘を俯かせることができる身分はただひとつ、王族の者だけだ。


「フィナリーヌは、国の宝である聖女ポインセチアに非情な仕打ちをしてきた。魔道具フォトーをもって罪を暴き、国の未来を考え婚約破棄を言い渡す」


 柔らかなカールがかった金髪とは正反対の王族らしい威風堂々とした態度だ。透き通るような濃い藍色の目には意思の強さが映っている。王子の言葉に間違いがあったとしても誰もが信じるに違いない。


 婚約者である第1王子のシエラール・ロベールが写真の魔道具フォトーを1枚ずつ公開し、どのような仕打ちがあったのか説明していく。王宮のパーティーホールで大きく映し出されたフォトーには、たしかに聖女がいじめられていた。

 その写真(フォトー)を見た卒業パーティーの参加者達がわなわなと震えている。

 塔の下にいる聖女に当たるようレンガを落としている写真、聖女を囲い魔法の練習台にしている写真、聖女の昼食に虫や毒草をかけている写真、聖女が階段から落ちた後、高らかに笑っている写真などが映し出されていく。

 

 その写真の中にフィナリーヌは写っていなかった。しかしフィナリーヌが無実だと叫んだところで、聞く耳を持つ者は誰もはいないだろう。友人と思っていた者にまで白い目で見られているこの状況で何が出来ようか。

 入学した当初は平穏に過ごせていたのに、いつからこうなってしまったのか。


 俯いたままのフィナリーヌに第1王子の声は届いていなかった。



 婚約破棄の衝撃で思い出す。

 そう、ここは本の中の世界で、私はその世界の悪役令嬢!来世の記憶と本のストーリーに沿った未来の記憶をもってして、目の前にいる第1王子と聖女をぎゃふん!と言わせる。今からそんな物語を紡いでいくわ!



……。だがしかし、何も起こらない。来世の記憶も未来の記憶も何も思い浮かばない。



公爵令嬢は転生したい!!がそう都合よくはいかない。




「以上の行いに対して、何か反論はあるか?」


婚約者であるシエラール・ロベールに問いかけられ、はっと我に返る。

妄想していても何も起こらない。このいわれのない罪から逃れる方法を考えなくては・・・。思考を巡らせていると予想もしない人物から、声が上がる。


「私はフィナリーヌ様に何かをされたわけではありません。魔道具の写真もフィナリーヌ様が映っているものはありません。フィナリーヌ様は何も悪いことをしていないと思います。そうですよね?フィナリーヌ様」


 聖女ポインセチアの突拍子もない問いかけに言葉が出ず、顔を上げポインセチアと見つめあう。ポインセチアの漆黒の目には、自身の唖然とした表情が映り込んでいた。


「「フィナリーヌ様に指示されたのです。私たちがやりたくてやったわけではありません」」


 ポインセチアの言葉に動揺した実行犯の令嬢達が騒ぎ始める。


「嫌がらせの中には、聖女の命を落としかねない行いもあった。魔物が勢力を増しているこの状況で、もし聖女を失ってしまったら、貴殿らの命では贖いきれないであろう。よって主犯の公爵令嬢フィナリーヌと実行犯の令嬢達には貴族社会からの追放を言い渡す」


第1王子の声が会場全体に響く。


「公爵令嬢が平民になるなんて…」


 周りの喧騒とは逆に落ち着きを取り戻し、状況の整理をする。今の状況は私と王子の婚約を破断することで得する者達に仕組まれたこと。ここで狼狽えた姿を見せれば、企てた者達がいい気になるだけだ。

 王子の言葉に対して冷静に堂々と答える。


「私は聖女様の言う通り、指示はもちろん命令もしておりませんが、私の派閥の者が実行したという事実は変わりません。上に立つ者として責任は取らせていただきます」


「フィナリーヌ様は何もしていないのに、どうして……」


黒い髪をなびかせながらポインセチアが呟く。


「待ってください。フィナリーヌ様は何もしておりません。どうか再考してください。シエラール・ロベール王子」


「なぜそなたが庇うのだ……。聖女セチアよ。我はそなたのために言っているのだぞ」


「私はこんなこと望んでおりません」


 既に愛称で呼び合う関係になっていたなんて……。幼い頃から慕い、ともに切磋琢磨したシエルとの関係が壊れてしまった。王妃となるべく行ってきたすべての努力が無駄のように思え、ひどい虚無感に襲われる。

 悲しい気持ちを抑えながら、ポインセチアに言う。


「あなたとは話すのは初めてなのに、どうして庇おうとしてくれるのかしら。この状況はあなたが望んだことではなくって?」


「そ、そんなこと……」


こんな状況になった元凶に何を言われてもみじめにしかならない。

一刻も早くこの場から立ち去りたい。


「本日は、これで失礼させていただきます」


 ドレスの裾を掴み、王子へ軽い会釈する。本来、自身よりも高位な者には膝を曲げて会釈をするべきだが、今の第1王子にはしたくなかった。

 そのまま逃げるように卒業パーティーを後にした。



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