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異世界召喚された俺がハーレムを築けないわけ

作者: 高坂ナツキ


「だから、こんな状況ありえねぇんだって」

 俺は同じテーブルに付いてる連中に罵声を浴びせると同時に手に持っていたジョッキをテーブルへと叩きつける。

 ガラスジョッキでこんなことをすればジョッキは砕け、テーブルの上に載った料理も叩きつけた俺自身も目茶苦茶になるだろうがこの世界のジョッキは木製のため中に少しだけ残っていたエールがジョッキの中で跳ねるに留まった。

 

 目の前には統一感はないが嫌でも目を引くイケメンが三人。

 一人目は急所は守りつつも動きやすさを重視したブレストプレートを着込んだ偉丈夫、鍛えられた肉体はむしろ防具よりも防御力が高そうだ。

 二人目は身長ほどの杖と動きやすさを重視した布製の衣服を纏った中性的な顔立ちの青年、本人曰く杖と衣服にはこれでもかと守りの魔法陣を埋め込んであるので物理攻撃はおろか魔法攻撃でさえもほとんど通さないらしい。

 三人目は指揮棒程度の短杖と首にかけたロザリオ、こちらも二人目と同じ守りの魔法陣を埋め込んだ布製の衣服を纏った落ち着いた雰囲気の青年、本人曰く使う魔術によって相性の良い触媒が違うので短杖とロザリオが必要らしい。


 対して俺は中肉中背の普通の平民、顔も特別イケメンでもなければブサイクでもない中途半端さ。身につけているのも布の服に上半身だけのレザーアーマーでぶっちゃけそこいらの狩人と言われてもおかしくない感じだ。

 それもそのはず、俺はこの世界に異世界召喚された人間だからだ。元の国で平々凡々と暮らしていた俺はある日、駅にいた通り魔に襲われて逃げ出した拍子にホームから転落、電車に轢かれて死んだ。

 そして目覚めたら神々しいまでに光り輝く一組の男女の目の前にいた。

 その男女は自分たちのことを神と名乗り、俺が死んだのは神の目線から言えば不慮の事故、通り魔に刺されて死ぬはずがまさか逃げ出した挙句電車に轢かれるとは神にも予測できなかったらしい。

 そのせいで様々な予定が狂ってしまい、俺に功績を積むようにと言ってきた。

 どうもただ通り魔に刺されただけならかわいそうな被害者で済んだものが、電車に轢かれたことで大勢の人間に迷惑をかけた上に凶悪犯罪者として裁かれる予定の人間の罪を軽くしてしまったらしい。

 通り魔は俺が電車に轢かれたことによりその場で茫然自失となってしまい、そのまま誰も殺すこともなく警察に逮捕されそこそこの罪で裁かれたらしい。

 で、俺のほうはというとかわいそうな被害者として輪廻転生の輪に入れられるところが、多数の人間に迷惑をかけた加害者として死んでしまい神の予定が狂いに狂った、ということらしい。

 神様たちが言うには俺には異世界で功績を残し、それを以ってもともとの予定との帳尻を合わせたい、と。そのために俺に加護をかけて異世界で魔王と呼ばれる存在を退治させたいとのことだった。

 退治、なんて穏やかな言葉を使ったが要は殺せ、ということだ。

 もちろん平凡な人生を送ってきた人間が元の世界と理が異なる世界に飛ばされた挙句、人間なのかそうでないのかよくわからないが何者かを殺せ、と言われてもそれは不可能だ。

 だから俺は必死の思いで断り続けたのだが、神様たちにとってもこれ以上予定を狂わされるのは困るということで勇者にふさわしい”勇気”と”剣技”と”雷魔法”を与えられ異世界の王国の玉座の前に無理やり異世界召喚されてしまった。

 神様たちは国王に対しても神託を下していたようで勇者としての俺は元の世界で読んでいたような小説とは違いすんなりと受け入れられた。

 与えられた加護も相当なもので、クラスで陽キャが大声を上げただけでびくびくしていたのが、目の前に剣が振られてもその軌跡を観察する余裕がある。いや、それだけではなく剣に鎧にと完全装備した人間相手でも戦わずに逃げる選択肢を取らずに立ち向かっていけるだけの精神状態になっていた。

 剣技、雷魔法もすさまじいもので、剣技は王国の騎士団員を圧倒するもので雷魔法も威力発動スピード共に王国の魔術師団の人間が見たこともないほどのものだった。

 しかも、雷魔法は特別なものでこの世界の人間は基本的に扱えないものらしい。

 勇者、と呼ばれるその世代にただ一人の人間にだけ扱うことが許される神から贈られた魔法、それが雷魔法というものだそうだ。

 俺は神に直接呼ばれこの世界に飛ばされたが、この世界の人間も一時的に神のいる空間に呼び出され雷魔法を与えられ、またこの世界に送り返されるらしい。

 この雷魔法が特別なのは神から与えられる、という点だけではなく、人間世界を蹂躙しようとする魔王を唯一、打倒する方法が雷魔法だと言われているからだ。

 通常の剣や魔法でも魔王を傷つけることは可能だ。だが、最後の一撃、つまり魔王を殺せるのは雷魔法だけ。

 そのほかの方法で傷つけた魔王の身体は次第に修復されていくらしい。


 そんなこんなで俺の境遇を長々と語ってしまったが、正直これは本題とはあまり関係がない。

 要するに俺はこの世界で人間社会を救える唯一の人間で、魔王を倒せる正真正銘の勇者だということだ。

 勇者、そう元の世界でも異世界転生した勇者が活躍するような物語は散々読みつくした。

 勇者は少数精鋭の仲間とともに悪を討ち取る。黄金ストーリー、王道だ。

 だが、そんな王道な話の中で王国が俺につけた仲間が今、目の前にいるイケメン三人組だ。


「まずおかしいのは、あんただよっ」

 俺はそう言って鎧を着ている偉丈夫を指さした。正直見れば見るほどイケメンで腹が立つ。

「勇者殿は先ほどからありえないだの、おかしいだのとおっしゃておるがこちらには何のことやらてんでわからない。きちんと説明していただけないだろうか?」

 年齢的には一回りも変わらないはずだが、まるで子供を見るような目で俺を見てくる。

「まずなあ、勇者についてくる騎士っていえば女騎士に決まっているだろうがっ!」

 勇者につけられる騎士は女騎士と相場が決まっている。俺が読んでいた小説でもそのほとんどが女騎士、実は王女だったり粗野でありながらも肉感的であったりする美女が女騎士として勇者とともに行動を共にするっていうのが王道だ。

「いいか? 勇者と行動を共にするんだ、美女が付き従い恋に落ちるのがお約束だろうがっ」

 目の前のイケメン三人組がぽかんとしているが、俺にとってはどうでもいい。俺にとって重要なのは女騎士は金髪で強気、でも実は陰で戦いに恐怖を覚えていてついつい普段の行動では必要以上にツンケンしてしまう、でも一度心を通わせればそれまでの態度が嘘だったかのように甘えてくる、そんなのが理想だ。

 だというのに、……だというのにだ。現実はどうだ?身長が二メートル近い大男、筋骨隆々でいかにも笑顔が似合いますって感じの偉丈夫だ。

「あー、勇者殿は自分が女性騎士でないことに対して憤りを感じている、と。そういうことでよろしいか?」

「あたぼうよ、騎士と言えば女騎士。大体、王様のそばにも女騎士が護衛についていたんだから騎士が男だけじゃないってことだろ? だったら、勇者のお供には女騎士を選出するのが筋ってもんだ」

 俺だって馬鹿じゃないし常識がないわけでもない。騎士が男にしかなれないような国だったら、お付きの騎士が男でも文句は言わなかったさ。

 でもな、王族の護衛には女騎士が半数近くいたんだ。だったら、その中の誰かが付いてくるって考えたっておかしくもなんともないだろ?

「勇者殿は勘違いをなされているようだ。王族の方々に付き従っていたのは第一騎士隊の女性騎士、第一騎士隊は王宮内部の警護あるいは王族の護衛騎士で構成されている」

「要するに、職務の範囲が王宮内部だから俺には同行できないってことか?」

「主な職務の範囲が王宮内部というだけで、外交の際には王族に付き従うから外に出られないわけでない。ただ、護衛騎士という職務の性質上こういった攻めの任務には向かないということだ」

「魔王を倒す旅は誰かを守るよりも敵を打ち倒すことに主眼を置いているから護衛騎士には向かないってことか?」

「護衛騎士は敵を殺すことよりも王族を守るのが任務です。こと、守るという分野においては騎士団の中でも屈指の実力はありますが敵を殺す能力は第一騎士隊よりも第二、第三騎士隊のほうが上です」

 言いたいことはわかる。護衛が主任務、要するに前の世界のSPみたいに要人を守るのが仕事。もちろん怪しい人物を排除する必要があるから戦闘能力が全くないというわけではないにしろ、軍人なんかの敵を排除することが主任務の人間とでは戦闘能力の質が違うのは当然だ。

「それに女性をこの旅に同行させるというのは無理がありすぎます」

「は? どういうことだ?」

「我々は魔王を打倒すべく普通の冒険者を装い旅を続けています。宿をとっても水浴びもできない、それどころか宿が取れるかどうかさえ不確定。道中で暗くなれば野宿するしかないし食料も干し肉や乾燥野菜などの携帯食料の世話になることがほとんどです。これは普通の女性、それも護衛騎士になれるような貴族女性には耐えられるようなものではない」

 女だから不潔や貧乏飯には耐えられないなんて言ったら前の世界では女性蔑視、男尊女卑とでも言われそうだが、ここは異世界だし理由の一つに貴族女性だからというのを挙げられてしまえば納得するしかない。


「だったら次はあんただよ」

 女騎士を同行させられない明確な理由を提示されてしまえば俺が何か言うことはできない。

 だから俺は標的を次のやつに向ける。

 そう、魚を食べながら酒を飲んでいるイケメン魔法使いに。

「魔法使いには女もたくさんいただろう? だったら別にあんたでなくても他の女魔法使いがついてきたっていいだろう?」

「勇者は魔法使いのことをわかっていない。魔法使いは自身の中にある魔力を呼び水にして魔法を行使する」

「そいつがどうした? 女魔法使いがいたんだ。魔法の行使には男女の性差がないってことだろ? それとも騎士同様魔法使いも女では攻撃魔法が使えないとかか?」

「その通りだ。いや、正確には女性の魔法使いは攻撃魔法を習得しないだな。女性の魔法使いは一月の間に数日間だけ魔力が酷く落ち込む時期がある。いつ戦闘に駆り出されるかわからない攻撃魔法の使い手よりも自分の魔力が落ち着いている時期にだけ行使する生活関連の魔法を優先して習得するのは当然だろう?」

「……それは全員か? ただの一人も攻撃魔法を習得したいって女はいないのか?」

「少なくとも王国では攻撃魔法を習得している女性の魔法使いは一人としていない。王国では男性の魔法使いは戦闘に駆り出されれば攻撃魔法を行使し、それ以外では新しい魔法の研究や既存魔法の改良に心血を注いでいる。女性の魔法使いは王城や貴族の屋敷で灯りの魔法や冷蔵魔法を交代制で行使するのが普通だ」

 なんということだ。ではこの世界にはぶかぶかの帽子をかぶって普段はドジだけど戦闘となれば高火力の魔法を敵陣に打ち込むロリっ子魔法使いは存在しないということか?

「それに先ほども話に出ていたように好き好んで不便を強いられる旅に同行を願う女性はいない。男性の魔法使いは戦闘などで野宿や強行軍も経験しているから多少は耐性がついているが、たとえ攻撃魔法が使えたとしても女性の魔法使いではこの旅には耐えられないだろう」


「じゃあ……じゃあ、あんたはどうなんだよっ」

 俺は最後の希望であるイケメン修道士に水を向ける。

「聖職者と言えば女。勇者には聖女が付き従うのがセオリーだろ?」

「勇者様には王国の神殿事情も学んで欲しいですし、説明するのもやぶさかではありませんよ。そもそも、王国の神殿には聖女という役職は存在しません。治癒魔法を行使する神殿長、神殿の運営をする神官長、治癒魔法の修業をする修道士、神殿での諸行事の準備や孤児院の管理をする神官が神殿での役職の全てです。このうち、神官長、神官は女性の方もいらっしゃいますが治癒魔法を使える神殿長、修道士は男性しかおりません」

「治癒魔法を使うのに男しかいないのか? 嘘だろ?」

「勇者様の常識がどうなっているのかはわかりませんが、王国では女性に治癒魔法が発現した例は観測されていません。それと同時に医官も男性しかなれませんので治療の現場には男性しかいないのは王国では常識となっているのです」

 馬鹿な馬鹿な。今までの流れから巨乳で清楚でありながら実はむっつりでエロいことに興味津々な聖女様がいるとは思わなかったが、まさか女医やナースまで存在しないとは思わなかった。

「たとえ治療魔法を使える女性修道士が存在したとしてこの旅に同行しないであろうことは先の二人の説明でご納得いただけましたでしょう?」


 ……要するに……つまり……じゃあ、俺が王国に召喚された時点でウハウハハーレムものは不可能だったということか?

 馬鹿な……そんな馬鹿な……。

 いや、まだだ。まだ何か可能性はあるはずだ。探せ、俺の脳内ハーレムもの小説の全てで。

 …………ある。そうだ、ハーレムものには途中参加するヒロインや目的達成後に突然参戦してくるヒロインがいる。

 しかも、これは魔王討伐の旅。

 そうだ魔王がヒロインの可能性だって十二分にあるじゃあないか。

 のじゃろり魔王……そうだその可能性に賭けるんだ

「いよーしっ! やる気が出てきたぞー!」

 唐突に叫びだした俺に対してかわいそうな子でも見るような視線を送るイケメン三人組だが、俺にはそれにかまう余裕はない。

 この三人組は性別を間違えているという致命的な欠陥があるものの能力としては有能だ。こいつらと協力すれば魔王だって難なく倒せるだろう。

 そして倒した魔王を俺の嫁にするんだ。


この後も女っ気のない旅を続けた俺が苦労の末に魔王のもとにたどり着くも魔王はヒト型ですらなく倒してもただただグロイ死体が残っただけだったのはまだ先の話。

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