第39話 慰めなんて
「それで何を話しにきたんですか?」
「ああ、まあその…なんだな。」
万野先生が言い淀むような事なんて、心当たりは1つしかない。
「…昨日の件。ですよね?」
「…まあ、有り体に言ってしまうとそうだな。」
「とりあえず、昨日はお手柄だった、武曽には上から手を出さないように圧をかけられ、煮え湯を飲まされていたからな。…なんていうのは君にとってはどうでも良い話だな。」
「はあ。」
話の明細が見えてこないので曖昧な返事をする。それに構わず話が続けられる。
「君は山名さんを助けたのだろう?なのにどうしてそんなに浮かない顔をしているんだ?」
成る程、万野先生はそれを気にかけて話をしに来たのか。
…なら万野先生はそもそもの前提を間違えている。
「俺が山名さんを助けたなんて事実はありません。」
「…そうなのか?」
「はい。」
「なら、昨日何があったんだ。あれだけの事をしたんだ。それなりに理由があるのだろう?」
そう問われ答えに窮する。しかし口を噤んだままいるわけにもいかず、仕方なくゆっくりと口を開いた。
「…俺は、山名さんを利用していたに過ぎません、彼女達と同じ加害者です。その事実に向き合った結果であって窘められる事はあれ、褒められるようなことは何も。」
「…そうだとしても、君が山名さんを救った事には変わりないだろう?」
「加害者同士がぶつかり合った結果、助かったとして誰が加害者に感謝するんですか?」
そういって俺は立ち上がる。慰めが必要なのは俺ではない、これ以上話しても無意味だろう。万野先生は俺が部屋を出る最後まで何も言ってこなかった。
「先に失礼します。」
それを最後に俺は教室に戻った。




