第2話 依頼
「はぁ~、昨日はびっくりしたぁ」
昨日の授業は全く頭に入って来なかった。何せ太陽のプリンス事、ケリン王子が私の直ぐ後ろに座って授業を受けていたのだ。集中できるはずがない。
しかし不思議だ?
何で魔法学院の授業を、王子が受けていたんだろう?
王族は専用の教育機関で授業を受けている筈なんだけど……ま、考えてもしょうがないか。
私は学内にある掲示板へと向かう。目的は昨日に引き続き、お小遣い稼ぎだ。私は学院中央に備え付けられた掲示板に広告を張り付けて、大々的に仕事を募っている。掲示板に張り付けてあった自分用の魔法板のロックを外してを手に取り、内容を確認してみた。
魔法板は魔力を使って文字を自由に書き込める 魔法具だ。しかもデータのやり取りも出来る凄い機能まで付いている。その多機能ぶりから結構高額な物となるのだが、なんと学生は申請すると無償で学院から借り受ける事が出来た。太っ腹極まりない。お陰で私の仕事募集がスムーズに周って大助かりだ。
因みに魔法板には追跡用の魔法も掛かっている為、盗んで売り払ったりするのはまず無理だと付け加えておく。
「どれどれ…………え!?」
書き込まれた内容を検めて、私は思わず固まってしまう。何故なら仕事の依頼主の名前の欄に、有り得ない名前が描かれていたからだ。
ケリン・カルオン。
内容は直接会って、応相談と記されている。
悪戯ではない。掲示板でのやり取りは悪戯が多い。だからそれを避ける為、学生に配られている魔法証のデータを写す事で、その身分を証明できる様に魔法板は出来ていた。確認すると、正真正銘王子の魔法章からのデータだと表示される。
……これは一体何の冗談?
ていうか、何で王子が魔法証を持ってんのよ?
昨日は授業後、挨拶だけして飛び出してきたため王子の事情はよく分からない。だが魔法証のデータがあるという事は、どうやら王子は正式に学院に入学しているという事になる。てっきりお遊びの視察か何かと思っていたのだが、どうやら違った様だ。
「どうしよう……」
王子からの依頼を無視するわけには行かない。だが正直行きたくないのが本音だ。吹けば飛ぶような男爵家如きが、王子と接触するのはあまり宜しくない。周りの子息令嬢から嫉妬を買うのは目に見えているからだ。
「でも行くしかないかぁ……」
私は大きく溜息を吐き、重い気持ちで待ち合わせに指定されていたテラスへと向かう。
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まだ午前中だというのに、テラス内はいつにも増して混雑していた。当然原因は王子だ。彼の周りを何重にも人が連ねている。確認はしていないが、恐らく全員高位貴族の子息令嬢だろう。
あの中に割って入らなければならないのかと思うと、軽く眩暈がしてくる。だが尻込んでいても仕方ないので、私は意を決して人垣をかき分けて中に入り込んだ。
「お待たせしました、王子。レア・ホームズでございます」
刺すような周りの視線が痛い。罰ゲームにも程がある。
「やぁ、待っていたよ。しかしまさか君が噂の名探偵だったなんてね」
「名探偵だなんてそんな。恐れ多い事です」
実際冗談抜きで、名探偵などと言う呼び名は大げさだ。私のやっている事は、超能力を使っての小遣い稼ぎでしかない。それがいつの間にか噂が独り歩きし、気づけば名探偵呼ばわり。まあそのお陰で毎日仕事が舞い込んで来てくれるので、少し恥ずかしかったがその称号も悪くは無かった。
今日までは――だが。
「ははは、謙遜だなぁ。まあいい、込み入った話がしたいから場所を移そう」
そう言うと王子は席を立つ。その立ち居振る舞いは洗練されていて、流石王族としか言いようがなかった。その美貌と相まって、それを見た取り巻きの女性達から溜息が漏れる。流石3年連続2位だ。
「悪いけど皆、道を開けてくれないか?」
王子はやおら私の手を握ると、そのまま引っ張っていく。
なんで手握ってんのこの人!?
「おおおお、王子!?」
「人が多いみたいだからね。はぐれたら大変だろ」
さわやかな笑顔で言い放つ。そういう風に言われると、此方も手を振り払えなくなってしまう。
テラスから出ると、強い日の光が王子を照らす。光を受けて金の髪がキラキラと輝き、その横顔は眩しいぐらいに綺麗だった。
ああ、こりゃ確かに太陽のプリンスだわ。そう納得し。彼の姿に見とれてしまう。不覚にも私はこの手をそのままずっと握って、何処までも連れていて欲しい等と考えてしまった。イケメン恐るべしだ。
まあ、後々その事が死ぬ程噂に成ったり。それが原因で嫌がらせを受けたりする訳だけど。今の私にそんな先の事を考える余裕はなかった。