もう少女なんて歳じゃないんですけど!?
5時30分に起床。軽めの朝食を済ませたあと身だしなみを整え、6時42分発の電車に乗る。8時ぴったりに会社に到着。デスクにつくと同時にパソコンの電源をいれた。メールのチェックと今日の仕事の整理をして、本格的に仕事モードに入る。
午前中の仕事を終わらせた正午すぎ、同じ部署の女性たちの甲高い話し声をBGMに1人寂しく昼食をとった。たいして好きでもない野菜を孤独に食べてる自分が馬鹿らしくて、たまに笑えてきてしまう。
昼休憩が終わる13時、各々のデスクに戻って仕事をはじめるのもつかの間、本日数回目の上司の怒鳴り声が聞こえた。相手は誰だったか、名前は覚えていないが新しく入ってきた男の人だと思う。最近は上司の怒鳴り声なんかより誰かが謝ってる声の方が聞いていてずっと辛い。
19時30分やっと上司が帰宅する。私はサービスという名の残業をして、ようやく退社できた今は21時を回ったところだった。
疲労で動きたくもないけれど、今日が金曜日だって事実が私の重い足を動かしてくれている。明日が休みってだけでここまでハイになれるのが幸せなのか、そこまで追い込まれている時点で不幸せなのかなんて考えながら、私は帰宅途中にあるコンビニで酒を4缶分買った。
家まではあと少しなんだけど、飲みたくて仕方がない。歩くたびシャカシャカなるレジ袋のなかには冷えたストロングゼロが入っている。
フライングすることに若干の罪悪感を感じたが歩きながら酒を飲んでしまった。うまい。
ここまで来ると家に帰る気もなくなってきてしまって、むしろ近くの公園で星空でも肴にエモーショナルな気分で飲む酒もかなり粋だと思えてきた。思い立ったが吉日、私は住んでるアパートを通り過ぎて2つ目の交差点を右に曲った先、人気のない公園で1杯やることにした。
まともな遊具が存在しない名前だけの公園だが、酒を飲むには星空さえあれば十分だった。想像より空は綺麗だし酒も美味しくて、気付けば4本目に手をかけようとしていた。完全に酔いが回ってきている実感がある。まだ飲み足りないが4本目を開けるか悩みながら冷静にあたりを見ると足元に猫ちゃんが来ていた。
かわいい。
「ちょっと変わった猫ちゃんだね〜。かわいいね〜。このお酒一緒に飲む?お鮭じゃないけど…なんつって」
繰り返しになるが完全に酔っていた。
さすがにこれは自分でもきついと思う。
「僕が見えるんだ。」
「こんな人間に見えるってのも癪だが君にも魔法少女の適性があるみたいだ。」
魔法少女?だめだ。完全に頭が働いていない。
そろそろ酔いや疲れがピークに来ているはずだ。
なるほど、人間の限界を見た気がする。
「これもなにかの運命さ。なんでも1つだけ願いを叶えてあげる。僕に誓って魔法少女になってよ。ねぇ、君の願いは?」
あー、もう頭がガンガンしてきた。
「今すぐ家に帰って寝たい。」
私の意識はここまでだった。
5時30分に起床。軽い朝食を済ませたあと身だしなみを整えるために洗面台に行く。
鏡に写っていたのは、フリフリの衣装に身を包み、腰まで届きそうな桃色の髪を二つ結びにした、まるで魔法少女のような姿をした私だった。
あれ…まじなやつじゃん。
にしてもだ。
いやいや…
「もう少女なんて歳じゃないんですけど!?」