千変万化する世界の、ウサギとカメ
季節が移り変わる大地の上で、ウサギはカメに徒競走を挑んだ。
「丘の上まで競争しよう!」
ウサギはカメに言い、お気に入りのマフラーを首に巻いて颯爽と走っていった。
それを見ていた太陽と北風も、ウサギとカメの徒競走に賭けを行った。
太陽はカメを、北風はウサギを賭けることにした。
「あまりに一方的かつカメに対して不利だなぁ」
太陽はノロノロ歩くカメを見て呆れた。
元々、勝ち筋に賭けても意味がない。太陽は大地をコンガリ熱く焦がし、北風の応援するウサギを妨害する。
ウサギはやけにひどい日照りのせいで脱水症状を引き起こしそうになり、木陰に身を休める。
マフラーを脱いで顔の上にのせて、ウサギは意識をなくしていった。
「これはフェアではない、太陽の不正だ」
別のところでは北風がそう主張し、カメが歩む大地を寒風で凍らせる。
カメは冬眠しなければならないという本能が働き、雪積もる大地に身を休めた。
同じ白い大地では、ウサギがマフラーを首に巻き直して颯爽と跳び跳ねた。
丘までは遠いが、何とかなる。辿り着く頃には、カメも歩みを急がして自分の横に並ぶだろう。
ウサギはカメを評価し、正々堂々と走った。
しかし、それを面白く思わない太陽が再び世界を焦がすがごとく熱風を大地に浴びせる。
ウサギは再び倒れ、毛皮は焦げて真っ黒となった。
カメがその横を通りすぎる。白い毛皮が綺麗だったウサギしか思い出せず、横の真っ黒な毛皮をウサギと気づかなかった。
北風が再び大地を凍てつかせる。
カメが冬眠をする雪の上で、ウサギは跳び跳ね白い大地を後にした。
太陽と北風は徒競走の妨害を競い合った。
季節は夏冬を過ぎ、時間は加速した。
何十回目かの冬と夏の間。
あらゆる緑の自然は生い茂り、空すら見えない程高くなった木の上には桜が咲いていた。
ウサギとカメは偶然並び立った。
「ちょいと疲れたじゃないか」
ウサギはマフラーを自分とカメの腰に置き、木陰に身を寄せあった。
二人とも、丘の上に辿り着くという目標は同じだ。
あと何年かかるか分からない旅路の果て。
二匹は移り変わる自然のほんの一瞬の今、見えない目標をいったん置いて、儚く美しい桜の鑑賞を楽しみ合った。