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93.Gレイヤーイベント前夜

 宿調査から十日ほど経ち、明日から十月が始まる。

 十月が始まるということは同時にイベントも始まるのだが、僕たちラックは充分の休養を取ることが出来たということもあり体調は万全。

 精神面の方も一度イベントを経験し、一位で乗り切ったことが自信になっているのか余裕がある。

 だが、油断しているわけではない。

 そもそもBNWで油断している暇などない。

 この世界はいつも死と隣合わせと言っても過言ではないからな。


 そんなイベントを明日に控えた僕たちは現在晩飯中。

 いつの間にか常連となったあの高級寿司屋に来ている。


「相変わらず良く食べるね!」

「Gポイントがバカのように飛んでいきますよ」

「あはははは……確かに! でも、今日は特別に支払いは半額にしてあげるよ!」

「本当ですか!」

「ああ、もう客も来ないだろうし」


 これが常連に対してのサービスなのか。

 高級寿司屋で半額は大きい。

 もうこの店だけで100万ポイントは飛んでいるからな。

 どこの富裕層だよってツッコミたいレベルだ。


「わしも作りながら食べてもいいか?」

「もちろん、どうぞどうぞ!」


 店主がそんなことを聞いてきたので、すぐにそう返事する。

 常連の僕たちしかいないのだ。

 問題ないし、むしろ会話も弾みそうで良い。


「店主、マグロとハマチ、サーモンの三段盛り特大サイズで!」

「また難しいこと言うね。でも、リアちゃんの頼みだから頑張るよ」

「やったぁ!」


 リアは満面の笑みでガッツポーズ。

 来店五回目ぐらいからこんな感じで、メニューにはないオリジナル寿司ネタの注文を始めたのだが、店主は嫌な顔一つせずに作ってくれるのだから優しい。


「今日は蟹ある?」

「特別に取り寄せておいたよ」

「流石、店主! じゃあ蟹イクラ巻」

「それ好きだね。もうこの店のメニューに入れようか考えているよ」

「入れて入れて。二倍の値段でも売れる」

「サラちゃん、それ本当かな? まぁ検討しておくよ」


 次にサラがオリジナル寿司ネタを注文。

 これは最初にサラが無理言って作らせた寿司ネタ。

 シャリの部分をほぐした蟹の身で上にイクラが乗っているというまた変わったものだ。

 しかし、僕とリア、店主さえも認める寿司ネタで、今では僕たち専用の裏メニューである。


 蟹の柔らかな甘味としっかりとした歯ごたえ、イクラの感触、そしてイクラを噛んだ瞬間に出てくる濃厚な甘味。

 蟹とイクラのまた違う甘味が絡み合い、新たな甘味が口の中へ広がり、溶けるように口から消える。

 実際には消えおらず、呑み込んでいるのだが、そう感じさせないほど自然に喉を通るのだ。

 後味も悪くなく、最後に醬油の香りが鼻孔をくすぐる。

 味覚と嗅覚、触覚で楽しめる最高の一品。


「二人ともお待ち! で、ゼロ君は何にする?」

「シンプルにハマチ、いや、やっぱりここは海老三点セットで」

「出た出た! 海老王子」

「その呼び方止めてくださいよ」

「だって、海老ばっかり食べるじゃんか」

「まぁそうなんですけどね」


 返す言葉もなく、その言葉を最後に黙り込む僕。

 僕が海老王子と言われる所以は海老ばかり食べているから。

 ただそれだけ。

 完全に海老というものにハマってしまったのだから仕方がない。

 寿司ネタで唯一色んな味を表現できる海老に魅力を感じてしまったのだ。


「はい、海老王子!」

「て、店主……」

「あははははっ!」

「いただきますね」

「はいよ!」


 僕は三種の海老を見てまず悩む。

 一つはよくある茹でられた海老。

 もう一つは甘エビ。

 最後に炙り海老だ。

 ここは一番後味がない甘エビから食べよう。

 僕のこだわりは甘エビには醬油なしだ。


「うっ、美味いっ! これいつものと――」

「そうなんだよ! ちょっと良い海老をな!」

「ありがとうございます!」


 僕の感謝の言葉に照れる店主。


 それにしても、この甘エビはいつものものとは別格だ。

 とろりとした舌触り、濃い甘味、柔らかさの中に弾力を感じさせる歯ごたえ。

 全て一級品。

 ずっと舌の上で転がしておきたいぐらいだ。


 次に茹でられた一般的な海老を食べる。

 醬油を軽く付け、口へ運ぶ。


「うん、いつも通りの味!」


 安心感のある相変わらずの味。

 もちろん甘エビほど衝撃はないが、シャリとの相性は抜群で口の中で旨味が広がっていくのが分かる。

 呑み込む瞬間まで噛むと旨味が出てくるのが特徴的だ。


 最後に炙り海老だが、これがまた美味い。

 海老好きの僕に店主が考えたオリジナル海老ネタだ。

 他にも作ってくれたが、これが一番美味いということで、僕の海老三点セットという特別メニューに入った一品。


「ふわぁ~」

「炙り具合どうだい?」

「完璧です」


 二種類の海老ネタとは全く違う歯ごたえと味。

 深く濃い味が特徴で、炙っているから歯ごたえもしっかりとある。

 加えて香りも良く、更に食欲をそそられる。


「店主! 同じのお願いいたします!」

「私は特大マグロのシャリ巻ね!」

「あたしはイクラ増しまし、蟹増しまし丼」


 それぞれ追加注文。


「はいよ! 今日は赤字になりそうだわ!」


 そう言い、店主は苦笑いを浮かべて寿司ネタを作り始めるのであった。


        ⚀



 食事を終え、僕たち三人と店主はテーブル席に座り、軽く雑談中。


「今回のイベントで会えなくなると思うと寂しいね」

「そうですね。店主の寿司が恋しくなりそうです」

「嬉しいこと言ってくれるね、ゼロ君」


 そう言い、笑いながら肩を叩いてくる店主。

 僕の言葉が相当嬉しかったようだ。


「あ、店主に聞きたいことがあったんですけどいいですか?」

「イベントことかい?」

「よくお分かりで」

「明日からイベントだしね」

「はい。それでGレイヤーのイベントについて聞きたくて」

「いいよ! でもね、Gレイヤーのイベントってかなり厄介だから参考にならんかもな」


 渋そうな表情でそう言い、お茶で喉を鳴らす店主。

 その姿を見てから僕は口を開く。


「それはどう意味ですか?」

「Gレイヤーには大きく二種類のイベントがある。

 一つは簡単な本当に遊びのようなイベント。

 もう一つは死が目の前にあるぐらい鬼畜なイベント。

 基本は前者が多いのだが、年に一度の頻度で後者が行われる」


 その話に僕たちは顔色を変え、しっかり内容の把握を始める。

 で、僕は質問を続ける。


「その鬼畜イベントの詳細は分かりますか?」

「いーや、毎回違うから詳細なんて分からないね。けど、毎回大勢の人が死ぬことは間違いないよ」


 店主は何かを思い出すように悲しく呟く。

 多くの人の死を目の前で見て来たのだろう。


 それにしても、詳細が分からないとは困ったものだな。

 もし、その鬼畜イベントが来たとしても対策がとれない。

 もちろん来ない場合もあるだろう。

 けど、恐らく店主の話を聞く限り今年はまだ来ていない。

 そう考えると、来る確率は100%に近いと言える。

 十月のイベントが今年ラストだからな。


 それにしても、このイベントの意図が分からない。

 毎回、鬼畜イベントならイベントの意図や意味も見えてくる。

 だが、そうではないとなると何も見えてこない。

 まるで、気まぐれで行っているようなイベントだ。


「絶対に生き残る方法はありますか?」

「それはあるともないとも言えないね。わしが生きているのもたまたまさ。でも、ペンギンを倒した三人なら大丈夫じゃないかな?」

「いやいや、そんなことないですよ」

「だが、ペンギンはGレイヤー最強とまで言われたグループだったぞ?」

「「「え?」」」


 思わず僕たちの口から変な声が出た。


 ペンギンがGレイヤー最強のグループだと?

 恐らくマーキュリーという存在がいないことを前提にだと思うが衝撃的だ。

 でも、ペンギンにそれほどの手応えはなかった。

 あの毒殺が無くても、勝っていたことは間違いない。

 印象として残っているのもカジキしかスキルを使ってこなかったということだけ。


「それは本当ですか?」

「本当本当! あのカジキっていう子のスキルが反則級とか聞いたな」

「り、リバースですか?」

「あー、それだよそれ! 噂によれば、グループ戦の勝敗すら『リバース』してしまうとか。正直、そんな相手に三人がどうやって勝った知りたいぐらいだよ」


 その言葉に僕は苦笑してお茶で喉を潤す。


 今の話を聞いて変な汗が体中から出て来ているのを感じる。

 だって、あの時カジキが毒殺されていなかったら、僕たちは負けていたのだから。

 カジキの狂った姿は全て演技で、最後の最後で僕たちの勝敗をリバースして勝つつもりだったに違いない。


 そう思うと寒気がする。

 恐らくマーキュリーの奴らは個人イベントを終わらすために、カジキを毒殺したと思うが、今思えば毒殺してくれて有難かったと言える。

 別に公開グループ戦は偽グループ戦だったから死ぬことはなかったが、もし僕たちが負けていればGレイヤーの人々は何も納得しなかっただろう。

 それどころか、個人イベントが終わったとしても、Gレイヤーの人々はラックとペンギンのグループ戦を煽り、再戦する羽目になっていたに違いない。

 もちろんその場合は負けが確定し、今頃死んでいたはずだ。

 ある意味、救われたな。


「僕たちはそろそろ帰ります」

「まぁグループ戦が昼からとはいえ、睡眠は大切だからね。明日からのイベント頑張ろうな!」

「はい、頑張りましょう」


 僕はそう言い、会計をする。

 今日は半額だと言うのに30万ポイント。

 恐ろしい値段だ。


「じゃあ、またいつか」

「はい、ごちそうさまでした」

「店主またね!」

「店主、バイバイ!」


 僕たちは店主に別れの挨拶を告げ、暗い夜道を歩き宿に戻るのであった。

93話を読まれた方へ。


まずはここまで読んでいただきありがとうございます。


94話以降がない方は読んでください↓↓↓


これからについて話させてもらいます。

大変申し訳ないのですが、この続きである『Gレイヤーイベント』の更新は無期限の延期とさせていただきます。

更新再開後は不定期更新を予定しております。


読者の皆さん、本当に申し訳ございません。

更新再開した際にはまた読んでもらえると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] サクサク読めて、奥深い! 一族のこととや、そのほか私が気付いてなさそうな伏線あるんだろな。。 [一言] 更新、ブックマークしてお待ちしてます。
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