79.公開グループ戦【5】
予想通りカジキの口から吐かれたのは無理難題な命令。
だがしかし、それは僕が想像の範囲内。
いや、それはちょっと違うな。
正しく言うならこの命令は僕の想像の範囲内ではなく、僕がこの瞬間に一番求めていた命令。
即ち正解と言うべき命令だ。
と言っても、カジキが導き出した命令ではない。
これは僕によって導き出された命令である。
つまり、カジキが口にしたこの命令は、僕に誘導されて言わされた命令と言うこと。
だから、僕はその命令に対して躊躇することなく、こう答える。
「ああ、もちろん」
「なっ!?」
僕の即答に表情を一変させ、目玉が飛び出るぐらい驚きを見せるカジキ。
まぁそらそうだろうな。
だって、カジキの作戦はこの命令を成功させないことなのだから。
だから、遠回しに「自殺しろ」と言うような命令をしてきたのだ。
でも、それは失敗だったと言えるだろう。
「サラ、拳銃を」
「うん」
僕は拳銃をサラから受け取り、自分の心臓に銃口を向ける。
「おい、冗談だろ?」
「一体何を焦っているんだ? これはカジキ自身が僕に命令したことだぞ?」
「そう、だけど……違う! それよりも、な、何でお前は本当に撃とうと――」
――バンッ!
カジキの言葉を遮るように、僕は引き金を引き、街中に銃声を響かせる。
銃口から出たものが僕の心臓付近に当たり、僕は椅子から崩れ落ちた。
「う、嘘だろ……お前。何で普通に撃ってんだよ……」
僕は朦朧とする意識をしっかり保ちながら、長机に体重をかけてゆっくりと立ち上がる。
そしてカジキの質問に答えてやった。
「そんなの死なないと分かっていたからに決まっているだろ」
僕のその一言に時が止まったように静まり返り、目の前にいるカジキは口をポカーンっと開けて硬直していた。
表情を見る限り、絶賛混乱中といったところか。
目の前で起こった衝撃的な光景、僕が放った言葉。
そう簡単に理解できることではない。
それから待つこと数秒、水滴が地面の水に落ちる音によって止まっていた時が動き出す。
「は? それはどういうことだよ!」
「この拳銃はな、空気拳銃って言うんだ。知っているか?」
僕が空気拳銃をクルクルと回しながらそう言うと、カジキは眼球が飛び出るかと思うぐらい目を大きく開き、ゆっくりと口を開く。
「そ、そんなものが何故ここに……」
「さぁーな。まぁそんなことよりもこれで僕たちラックは三点目。そういうわけで公開グループ戦はこれにて終了だ」
「……」
僕から敗北を告げられ、カジキは無言で頭を抱える。
横の二人は何が起こっているのか分からないような感じ。
最後までカジキ一人に任せておいて、よくもそんな反応が出来たものだ。
それだけカジキを信用していたのか。
それとも元々あまり仲が良くないのか。
どちらにしても、一人で勝てるほどこの世界は甘くない。
『<情報>公開グループ戦終了。
グループ名――ラックの勝利。
これにより――』
――ヒュ……バーンッ!
公開グループ戦の終わりを告げる声が街中に響き渡る中。
それを遮るかのように、急に青色の空に花火が上がる。
それも一発ではない。
何発も何十発もだ。
「うわぁ~、花火じゃん!」
「おっ! 花火いいね!」
「昼の花火とか珍しい~!」
公開グループが終わったことにより周りが騒がしくなり、皆の視線が青空に咲く花火に集中する。
数分後、その花火はクライマックスに入り、青い空一面に七色の花を咲かせる共に凄い音を鳴らしながら終わりを迎えた。
「ペンギンが勝てないってことはもう誰も勝てないな」
「そうね。帰ろうっと!」
「だね。帰ろ帰ろ!」
「面白いもの見れたし、満足満足!」
そう言いながら、集まっていた人々が怖いぐらいあっさりと去って行く。
「ぜ、ゼロ、これどうなってるのよ!」
「いや、僕に聞かれても困る」
リアとそんな会話をしていると、背中をトントンと叩かれる。
振り向くてサラが無言でカジキの方を指差していた。
何かあるんだと思い、すぐにサラの指差すを方へ視線を移動させる。
すると、そこにはあり得ない光景が広がっていた。
「どう……なっているんだ」
僕の口からふとそんな言葉がもれる。
遅れてリアの口からも似た言葉がもれた。
リアは続けて僕に話しかけてくる。
「何で、何で……三人が死んでいるの!」
「分からない」
「この公開グループ戦は偽のグループ戦で誰も死なないって言ったじゃない!」
リアの言う通りこの公開グループ戦は偽のグループ戦。
そう、偽装グループ戦だ。
公開グループ戦開始と公開グループ終了の声は昨晩、サラに生成してもらった録音機に録音したリアの声。
それをサラが生成したミニスピーカーでタイミング良く流していただけ。
公開グループにしたのは、皆にグループ戦を見てもらって僕たちラックには勝てないと判断してもらい、グループ戦の申し出を来なくするため。
だから、公開グループ戦で人が死ぬことはあり得ないことであり、あり得たらいけないことなのだ。
「ゼロ、ちょっと来て!」
サラが手招きしながら、カジキの方へ僕を呼ぶ。
すぐにサラが呼ぶカジキのもとへ。
「これは……毒銃弾」
「毒銃弾?」
僕に続き近寄って来たリアが聞きなれない言葉だったのかオウム返しをしてくる。
「ああ、その名の通り毒が入った銃弾だ」
「ゼロ、これ普通の毒銃弾じゃない。貫通性が弱いもの」
「そうか、そういうことか。恐らくカジキは何者かにこの毒銃弾を撃たれて殺された」
僕が二人にそう言うと、リアは口に手を当て最悪と言った顔し、サラは「だろうね」と言わんばかりの顔をしていた。
これは完全にやられたな。
僕は「何者かにこの毒銃弾を撃たれて殺された」と言ったが、ほぼ間違いなくマーキュリーかマーキュリーの関係者によって撃たれて殺されたと考えるべきだろう。
タイミングとしては花火が打ち上がっている時に違いない。
あのタイミングなら銃声が聞こえなくなる上に、皆の視線が花火にいっていたので、誰かにカジキを撃つところを見られることもないからな。
そうなると、あの花火もマーキュリーの仕業と考えるべきか。
何とも派手にやってくれたものだ。
しかも、このカジキの殺害によって、公開グループ戦のもう一つの目的であった『個人イベントが存在しないことをGレイヤーの人々に知らしめる』ことが出来なくなってしまった。
本当はカジキたちペンギンが生きて終わり、公開グループが偽ということを皆に知らして、公開グループが偽=個人イベントも偽と知らしめるつもりだった。
もし、この作戦が成功していれば、恐らく皆を説得することができ、マーキュリーという存在を信じないように出来たかもしれない。
だというのに、マーキュリーにその作戦を逆に使われてしまった。
「クソがっ!」
「ゼロ……ごめんなさい」
「ゼロ、ごめん」
「あー、いや、二人は謝らなくていい。これは僕の失態。謝るのは僕の方だ。こんな作戦を提案した上に失敗してしまって悪かったな」
完全に僕の失態だ。
今回、マーキュリーかマーキュリーの関係者がカジキを殺害したことによって、ペンギンがまるで公開グループ戦で死んだようになってしまった。
それはつまり、公開グループが本物だとGレイヤーの人々に信用させてしまったことになる。
加えて、個人イベントも本物だと信用させることなってしまい、更にマーキュリーという存在を信用させる結果になってしまった。
これは最悪な結果だと言える。
それは置いておいて、あっさりと人々が去ってしまったことには少し驚いた。
だが、これに関しては思い当たる節がある。
それが合っているかは不明だが、マーキュリーの仕業であることは間違いない。
ただこの仕業によって一つ言えることがあるとするなら、もうグループ戦を受けることは恐らくないということ。
それは安心できる毎日が戻って来たという良いことでもあり、もうGレイヤーからイベント以外で逃げることは出来なくなったということでもある。
ポジティブに捉えるか、ネガティブに捉えるか。
どちらにしても、マーキュリーとの戦い第一歩目は失敗で終わったと言えるだろう。
「作戦で使ったものを片付けて、昼食にでもしようか」
「ゼロ、この三人はどうするの?」
「僕が処理する。他はリアとサラにお願いする」
「分かったわ」
「うん、分かった」
それだけ伝え、僕は三人の処理。
二人は作戦で使った道具を片付け始めるのであった。




