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7.三人の時間

「おっ! この服いいかも! この服も似合うはずです!」

「ちょ、あたしが選ぶからいいって!」


 現在、時刻は午後五時。

 僕たち三人は服屋にサラの服を買いに来ていた。

 理由はサラの服は上下ともにボロボロだから。流石にこの格好はこの世界には合わない。


 そして今、服を選んでいるのだが、見ての通りリアがサラの服を選んでいる。


「まあまあ、騙されたと思っていいじゃないですか」

「騙されたくないのだが……」

「晩ご飯、奢るんだから……ねっ?」

「はぁ……」

「さあさあ、試着室に入って」


 リアは何着か服を手に持ち、強引にサラと一緒に試着室に入る。

 そして聞こえてくるサラの声。


「いやぁ! ちょ、そこ触らないで!」

「狭いから仕方ないでしょ!」

「仕方なくない。この巨乳が邪魔! ってい、いやぁ!」


 中で何が起こっているのだろうか?

 先ほどからサラの艶やかな声が店内に響き渡る。

 そのせいで、店内にいる僕を含めた客や店員は試着室に注目し、その声が耳を通る度に少し体を反応させ、頬を赤らめている。


「よしっ! これは購入決定ね!」

「勝手に決めるなっ! って、無理矢理脱がすな!」


 店内が徐々にピンク色の雰囲気になっていく。

 って、ダメだ、ダメ。

 僕は雰囲気に呑まれないように、自分の服を選ぶことに。

 まぁ今着ている服しか持っていなかったから丁度いい機会だ。

 寝巻や予備の服を数着は確保することにする。


 そうして女子二人とは違い、僕は試着もせず、気に入った服とズボン二着、寝巻を一着、それと下着を三枚、靴下二足をレジに持って行った。


「お客様、合計で5万ポイントになります」

「は? 5万ポイント? 桁間違えてないか?」

「いえ、5万ポイントでございます」


 確かに僕が値段を見ずにレジに持って行ったのもおかしいが、流石にこの値段はおかしいと言わざるを得ない。

 だって、最初のGポイントの半分だぞ?

 しかも、ここはBNWの最下層のIレイヤーの普通の服屋だ。


「お客様、購入されますか?」


 店員にそう聞かれ、仕方なく僕はポイントを払おうとする。


「ん?」

「どうかされましたか?」

「あ、いや。何でもない」


 僕はそう店員に一言返し、5万ポイントを払った。

 そんな僕に対し、あの女子二人はというと……


「この三着がいいですね!」

「もう何でもいい」


 リアはサラの服選びに満足したのか満面の笑みで、汗を拭っている。

 サラの方はゲッソリして完全に疲れていた。

 恐らく着せ替え人形にでもされたのだろう。可哀想に。


「ゼロどうですか? サラの服いいでしょ?」


 上は白のロングTシャツ。下はデニムの短パン。

 実にジンプルだが、スレンダーなサラには似合っている。


「あー、ああ、確かにいいな。似合ってるよ」


 あまりこういう質問に慣れていない僕は一応、褒めておくことにした。

 その言葉になぜかサラは恥ずかしそうに頬を染め、「しね、クソゼロ」と呟いた。

 僕は何か悪いこと言いましたか?


「それにしても、サラってば下着も着てないんですよ。ノーブラ、ノーパンは流石に驚きました」


 僕はそれを大声で言うリアに驚きました。

 ほら、客と店員の視線がサラにいったじゃないか。


「だって、動きにくいんだもん」

「はぁ……どう思います? ゼロ」


 僕に振らないください。本当に止めてください。お願いします。


「もう着てるんだろ? ならいいじゃないか」

「いや、着てません。流石に買ってない下着は着ませんよ」

「じゃあ、まだサラは……」

「はい! ノーブラ! ノーパン! です!」


 だから、大声で言うな!

 変態か? 変態だよな! この女!

 思わず五七五でまとめちゃったよ!


「サラ、購入して今すぐ試着室を借りて着ろ!」

「後からでも――」

「却下だ! 着ろ!」

「分かった、分かった。着ればいいんでしょ」


 はぁ……全く、ノーブラノーパンの女と一緒に歩くとか変態といるみたいで晩飯どころじゃないわ。


「はぁ……全く、ノーブラノーパンの女と一緒に歩くとか興奮して晩飯どころじゃないぜ!」

「僕の心の声を勝手に読み取って、勝手に変態っぽくするな! リア!」

「はいはーい! じゃあ、私も服を買いますね!」


 そう言って、先に選らんでいたのか。

 パパッと服や下着などを数着選び、レジに持って行く。


「この服、ここで着て帰っていいですか?」

「はい、もちろんです。試着室にてお着替えください」

「ありがとうございます」


 店員の言葉に感謝し、リアはサラのいない方の試着室に入っていった。


 数分後、サラとリアがほぼ同時に試着室から出て来た。

 サラの方は先ほどと変わってはいない。下着は見えないからな。

 それに対し、リアは購入した服を着て、嬉しそうに笑っていた。


「ゼロどうですか?」

「似合ってる、似合ってる」

「棒読みですね。サラの時は褒めたのに!」


 なぜかむぅーと頬を膨らませるリア。

 そんなに褒めて欲しかったのだろうか?

 女とはそんなものなのか?


 でも、棒読みだっただけで、褒めてなかったわけじゃない。

 リアが着ている薄い水色のワンピースは清潔感があって、リアにとてもあっている。

 まぁ、相変わらず胸の主張は強いがな。


「そろそろご飯にしよう」

「あたし、服が破れるぐらい食べる」

「奢りだからって……まぁいいですけど」


 そういうことで僕たちは晩飯を食べに向かった。


          ⚀


「ふぅ~、食べた食べた!」


 満足そうにお腹を触りながら、そう言うのはサラだ。

 肉から魚、野菜、スープまでしっかりと食べ、その後に「デザートは別腹」と言って、意味不明なほどデザートを食べていた。


 その光景に僕とリアは少し引きながら、サラが見せる初めての笑顔にほっこりし、適度な量の食事をとった。


「二人は少食?」

「サラが食べ過ぎなんだ」

「普通」


 これが普通って、サラは大食い選手か何かなのか?

 それともサラのアバターだけ胃袋のプログラムがバグっているのか?

 どちらにしても食べすぎだ。


「まぁ今日だけだし、いいですけどね」

「明日はこれじゃないの?」

「流石にGポイントが尽きる」


 呆れたように僕がそう言うとサラは少し肩を落とす。

 そして何か思いついたのか、瞳を輝かせて口を開いた。


「あ、そうだ! じゃあ、グループ戦に勝利した時とかそういう記念の日はこれぐらい食べていい?」

「それなら構わないが」

「そうね、それならいいですよ」


 確かにグループ戦に勝利したり、イベントで好成績だとGポイントが一気にたくさん貰えるからな。

 そういう日だけはこんな食事もいいだろう。


「じゃあ、そろそろお風呂にするか?」

「そうですね、もう時間も時間ですし」

「お風呂って温かい?」

「ええ、行けば分かるわ。じゃあ、Gポイント払ってくるわね」


 そう言い、リアは席を立ち上がり、レジの方に歩いて行った。


「僕たちは先に店から出ようか」

「分かった……って、体重い」

「はぁ……ほら肩貸すよ」

「あ、ありがとう」


 サラは下を向きながらそう言い、僕の肩を使うことはなく、腕に腕を絡ませてくる。

 身長差もあるし、肩貸す方がしんどかったかもな。

 まぁ腕でもいいか。少しでも楽になるなら。


 数分後、リアと合流。


「3万ポイントもしたぁ~……って、私がいない間に何があったのですか?」

「ああ、これはだな――」

「ゼロが『腕貸すよ』って」

「へっ!」


 おいおい、サラ。僕は「肩を貸す」と言ったんだ。

 腕を貸すとは一言も言っていない。そしてその発言は誤解を招く。

 ほら、サラも聞いたこともないような声が出ちゃってるし。


「ゼ、ゼロは巨乳より貧乳派だったのね」

「おい、変なこと言うな。それにこれは誤解だ。サラが食べ過ぎて立てなかったから『肩を貸す』と僕が言ったら、なぜかサラが腕を掴んできた」

「本当かなぁ~?」

「ああ」

「じゃあ、私も食べ過ぎて立てないし、腕を貸してもらうことにするわ」


 いや、今まで普通に一人で立ってたじゃん。

 てか、どうしてこうなった?

 まぁ、お風呂がある銭湯にいけば、男女別だし自然に離れるだろう。


          ⚀


「誰もいないとは意外だな」


 午後九時。銭湯に着き、両腕にいた二人を剥がし、僕は湯船に浸かっていた。

 周りには人が一人もいないということもあり、貸切状態。

 恐らく入浴料が800ポイントもするのが理由だろう。


「気持ちいいぃ~」


 個人的にはこの気持ち良さなら800ポイントなんて安いものだ。

 今日は色々あったからな。

 と言っても、この世界に来てまだ半日も経っていない。

 この世界に来て最初にマップを確認した時、メニューバーにある時計は午後十二時過ぎだったからな。


 そんなことはどうでも良くて、今はこの一人の空間を堪能しよう。

 あの二人といると疲れるからな。


          ⚀


 ゼロが男風呂で一人を堪能している一方、女風呂ではリアとサラがタオルで体を隠すことなく、体を洗っていた。


「試着の時も思っていましたけど、サラって服の下の肌は真っ白ですね」

「あー、それはあたしが病気だから」

「病気?」

「産まれつき、体の色素が薄いらしい」

「へー」


 頭を洗いながらリアは軽く答える。


「じゃあ、黒い肌の部分は焼けたってことですか?」

「そう。あまり良くないらしいけど、あたしだけ働かないわけにはいかなかったから」


 サラはそうポツリと呟き、シャワーで体に付いた泡を流し、湯船へ向かう。

 それに続くようにリアも湯船へ。


「働くって何をしてたんですか?」

「内戦。まぁ夜だけだけど。昼は病気のせいか、太陽の光があるとあまり視界が良くないから」

「確かに、瞳も真っ白ではないけど、かなり薄いですね」

「って、ちかっ!」


 リアが覗き込むようにサラの瞳を見ると、慌ててサラはリアの肩を押す。

 すると、リアはそのまま勢い良く湯船に倒れ込んだ。


「あ、リア。ご、ごめん。あまり自分の瞳を見られるの好きじゃなくて」

「ゲホゲホ、そ、そうだったのですね。私こそごめんなさい」


 二人は少し照れくさそうに視線を逸らす。

 そして一分、二分と沈黙が続く。

 数分後、その空気に耐えられなくなったのか、リアが口を開く。


「な、内戦ってことは人を殺していたんですか?」

「うん、当たり前」

「そうなんですね。私には分からない世界です」

「リアはどこにいたの?」

「カジノです」


 サラは「カジノ?」と言いながら、不思議そうに首を傾げている。


「簡単に言えば、お金をかける場所です」

「そこで人は死ぬ?」

「死にませんが、そこで人生が終わる人間は大量にいます。そんな人に対し、人生が一変するほど幸せになる人間もいます」

「なんか戦場と似てる」

「勝者と敗者が生まれる点は同じかもしれませんね」


 その言葉を最後に二人は湯船で喋ることはなかった。

 しかし、十分後。


「ふわぁ~」

「ちょ、サラ!? か、完全に湯あたりしているわ」


 そう言って、ため息を一つし、リアはサラを抱えて更衣室まで運び、冷たい床で寝かせるのであった。

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