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76.公開グループ戦【2】

「で、公開グループ戦では何をするんだ?」

「絶対コイントスというものをする」

「絶対コイントス?」


 カジキは不思議に首を傾げて僕の言葉をオウム返しする。


「詳しい話は後だ。先に公開グループ戦の会場を作らせてもらう。リア、サラ頼む」


 僕の指示に頷き、二人はココの宿から予め許可を取っておいた長机と椅子を六脚持ってくる。

 そして道のど真ん中に長机を置き、グループ同士が対面になるように椅子を三脚ずつ分けて置いた。


「まずは座ってくれ」


 僕がそう言いと、カジキが「おう」と一言返事して真ん中の席に腰を下ろす。

 続けて僕から見て右にクリオネ、左にジンベイが無言で席に座る。

 それを見てから僕はカジキの目の前の席に。

 サラは僕の右、リアは僕の左にゆっくりと腰を下ろした。


「説明する前に少しいいか?」

「もちろんいいぜ」


 僕はそれだけカジキに聞き、周りで騒ぎ立てる人々に向けて話しかける。


「お前たち――観戦者に公開グループ戦の注意事項を話しておく。

 注意事項一、公開グループ戦に干渉しないこと。

 注意事項二、公開グループ戦開始後は騒ぎ立てないこと。

 注意事項三、最後まで見届けること。

 もし違反者がいた場合はGポイントの半額を公開グループ戦の報酬に加える。

 僕からは以上だ」


 軽くそんな注意事項を告げると聞き終えた人々から謎の歓声があがる。

 これだけで歓声があがるということは、人々の中で公開グループ戦というものの注目度がかなりが高くなっていると思っていいだろう。


「いやぁ~、盛り上がってるねぇ~」

「そうだな。では、絶対コイントスの方もルール説明を始めるぞ」

「お、やっとか。もう待ちくたびれたぜ!」


 少し椅子を引き、堂々と足を組みながらそう言うカジキ。

 最短でこの場の準備をしたので、そこまで待たせたつもりはないんだがな。

 カジキは意外とせっかちな性格なのかもしれない。

 ちょっとサラと似てるかもな。

 そう思いながらサラをチラっと見ると、何も言っていないのになぜか睨まれた。


 それよりも絶対コイントスのルール説明だったな。

 グループ戦初のルール説明だが、昨晩しっかりと考えてきたので問題ないと思う。


「絶対コイントスではこのコインを使う」


 予め用意しておいた白と黒のコインをポケットから取り出し、カジキたちに見せる。

 用意しておいたと言っても、最近Gレイヤーの雑貨店で見つけてしまい、白黒という理由だけでつい買ってしまっただけだけどな。

 まぁ使い物になったので、結果的に買っておいて正解だったと言えるだろう。


「白が表。黒が裏だ」

「不思議な色のコインだな」

「そこは触れないでくれ」


 僕は「はぁ……」とわざとらしいため息をつき、話を続ける。


「まずはコイントスで先行と後攻を決める。

 次に先行グループがコイントスを行う。

 後攻グループはコイントスの結果を待つ。

 もしコイントスの結果、見える面が『表』だった場合、コイントスをしたグループが相手グループに対して、座ったまま行えることなら何でも命令することが出来る。

 相手グループはその命令されたことを絶対に行い、成功すれば一点、失敗すれば得点はなしだ。

 一方コイントスの結果、見える面が『裏』だった場合、コイントスをしたグループが相手グループに対して、YESかNOかで答えられる質問をすることが出来る。

 相手グループはその質問を絶対に答え、その答えがYESなら一点、NOなら得点はなしだ。

 質問の答えが嘘だった場合は得点が一点減点となる。

 勝利条件は先に三点取ること。説明は以上だ」


 僕が一通り絶対コイントスの説明を終えると、すぐさまカジキが小学一年生並みにビシッと天高く手をあげる。

 綺麗な挙手に見惚れながらも、僕は口に溜まった唾を飲んで口を開いた。


「質問どうぞ」

「そのルールだと後攻のグループが圧倒的に有利なのでは?」

「確かにそうだが、コイントスで先行後攻を決めるから一応平等だ」

「なるほど」


 カジキは理解したのか、僕の言葉に即答する。

 この絶対コイントスでは後攻であるグループから点を得られるからな。

 そういう考えになるのは当然だ。


 それから数秒後、またカジキが先ほど同様に手をあげた。

 僕は何も言わず、手だけをカジキに向けて「どうぞ」と質問を促す。


「コイントスって誰がしてもいいんだよな?」

「ああ、誰がしてもいい。だが、一人がコインを弾き、別の奴がコインを取るのは禁止とする」


 別に二人でコイントスをすることに関しては何の問題もないのだが、変なコイントスをされると色々ややこしくなりそうなので、念のため禁止にしておくことにした。

 それにこの絶対コイントスではコイントスをした後が重要となる。

 だから、どうでもいいところで面倒事を起こしたくないというのが本音だ。


「了解! じゃあ、スキルは使用可能か?」

「もちろんだ。自由に使ってくれ」


 僕は表情を変えないままただそれだけ答える。

 カジキはその回答を聞き、軽く口角を上げてそれ以上何も言わなかった。


 今回の公開グループ戦において、スキルというものはどうでもいい。

 なぜなら、この絶対コイントスでスキルを使うことがほぼないからだ。

 実際、スキル勝負にならないためにそう作ったしな。


 数秒待ち、カジキたちからこれ以上の質問がなさそうだと判断した僕は口を開く。


「質問がないならこれで公開グループ戦のルールは確定になるがいいか?」


 僕はそう言い、目の前にいる三人に視線を送るが、見た感じ何も問題はなさそうだ。

 そういうわけで、公開グループ戦の準備は整った。

 何か言い忘れはないかと頭の中で最終確認をしたが特になし。

 じゃあ、今から始めるとするか。


「それではこれより公開グループ戦を開始する」

「おう、よろしくな! 楽しもうぜ!」


 僕の公開グループ戦開始の宣言に対し、満面の笑みでそう言ってくるカジキ。

 正直、どういう心境でそんなことを言っているかは分からないが、楽しめるぐらいの自信があることに違いない。

 つまり、それは自信を持てるほどグループ戦に勝ってきたということなのだろう。


 周りの人々も公開グループ戦開始の宣言で一気に沸き立つ。


「ペンギン! 実力の差を見せつけてやれ!」

「ボコボコしろ! ペンギン!」

「ペンギン、頑張ってぇ~!」

「ラックを倒してしまえ!」


 まぁ聞こえてくるのは全てペンギンを応援する声。

 僕たちラックに対しては一切応援の声がない。

 それどころか「ここが墓場だな、ラック」とか「調子に乗るな、雑魚が!」などという言葉が飛んできていた。


 正直、こうなることは当然なので別にどうも思わないし、何も感じない。

 てか、そういうことを言われる方がむしろ気分はイイ。

 一応言っておくが、別にMとかではないぞ。

 どちらかというと、Sである。

 その証拠として、僕は今から皆にこの場で『現実』というものを見せつけるのだからな。


『<情報>公開グループ戦が開始されました。

 内容:絶対コイントス

 制限時間:無限

 場所:Gレイヤー』


 そんな声が街中に響き、ついに公開グループ戦が開始。

 同時に周りからの声は死んだように消え去った。


「先行後攻を決めるコイントスはカジキがやってくれ」

「いいのか?」

「ああ」


 僕はそう言いながら机に置いていたコインを指で押し、カジキの前で止める。

 カジキは僕の手が離れると同時にコインを手に取り、右手の親指にコインをセットしてすぐさま天高く弾く。


「僕たちは白で」

「それじゃ、俺たちは黒だな」


 コインはクルクルと空中で回転し、静かにカジキの両手に包まれるように収まった。

 ゆっくりカジキが両手を開いて行く。

 両手の中から見えて来たのは……白。


「お、白か。じゃあ、リバースだ」


 カジキが『リバース』という言葉を口にした瞬間、勝手にコインが反対を向く。


「それがカジキのスキルか?」

「そうだぜ! スキル『リバース』。何でも反対にすることできる」

「そうか。で、先行か後攻か」

「もちろん先行で」

「それはハンデのつもりか? それとも煽っているのか?」

「いや、どちらでもない。ただ命令をしたいだけさ」

「そうか。じゃあそのままコイントスをしてくれ」

「了解!」


 カジキが軽い口調でそれだけ言い、さっきコイントスをした手とは逆の左手にコインをセットして親指で勢い良く弾いた。

 さっきより高く綺麗に宙を舞うコイン。

 皆の視線をそのコインに集中する。

 数秒後、皆の視線の先はカジキの両手へ。

 さぁ、どちらだ。白か黒か。


「お、次は……白か!」


 パッと両手を開き、そう言うカジキ。

 今度はスキル『リバース』を使ってくる気配はない。

 ということは、公開グループ戦はまず白(表)から、つまり、挑戦から開始のようだ。

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