70.ゼロのこと……どう思ってるの?
「お風呂! お風呂! お風呂!」
「走ったら転ぶわよ」
現在、久しぶりに私とサラは一緒にお風呂に入っている。
サラは地下に降りる階段から騒いでおり、脱衣所の広さを見た瞬間に水着を適当に脱ぎ捨てて、お風呂場へ走っていた。
私はその背中を見ながら、ため息をつく。
それからサラの水着を畳み、私も水着を脱いで私とサラのミニタオルを持ってお風呂場へ。
「大丈夫! 転ばない!」
サラは一度止まりこちらを向いて、雪国に住む雪兎のような真っ白な肌を堂々と見せながらそう言うと、浴槽を軽く見渡して走り出した。
だが、すかさず私はそのサラの手を掴む。
続けて口を開いた。
「こら!」
「リア、何?」
「サラ、何日間お風呂に入ってないと思っているの。先に体を洗うわよ」
「えー」
「そんな表情しても無駄よ。それに時間はまだあるわ」
掴んだサラの手を引っ張りながら、少し不機嫌なサラを洗い場に連れて行く。
サラの分のミニタオル渡して、私はサラが逃げないか監視しながら頭から洗い始める。
「リアは相変わらずおっぱい大きい」
「急に何よ」
目に泡が入らないように細く目を開け、チラっとサラを見て軽く返事をする。
「あたしのおっぱい小さいから羨ましい」
「おっぱいが大きくてもそんないいことないわよ」
そうそう。
いいことなんて全然ない。
肩は凝るし、可愛い服があってもサイズが無かったり、サイズがあっても着たら太って見えたり、谷間や下乳の裏側に汗が溜まったり、後は男の視線を浴びたりとか。
色々と巨乳は巨乳なりの悩みがあるのよ。
「リアは大きいからそう思うだけ。おっぱいが大きいと魅力的」
「そうかな?」
「そう」
魅力的か。
何だか嬉しい言葉だ。
「でも、その乳輪の大きさにはなりたくない」
「それ言うのは止めて! 結構、気にしてるの。それにこれはおっぱいの大きさから比べれば普通よ」
「回復スキルで治せないの?」
「別に腫れてないから! 貧乳のよりマシよ」
「あ、貧乳って言った。酷い」
何が酷いのよ。
サラが先に私のコンプレックスでもある乳輪を弄ってきたからじゃん。
それに貧乳に貧乳と言って何が悪い。
「そんなペチャンコだと楽そうでいいわね」
「嫌味?」
「そうよ」
私はそう言うと同時に立ち上がり、浴槽の方へ歩き始める。
サラも同じく洗い終わったのか浴槽へ。
「リアに前から聞きたかったことがあるんだけど」
「私に聞きたいこと?」
「うん。どうしたらおっぱい大きくなるの?」
まだおっぱいの話をするのね。
サラにとっておっぱいが小さいことがそんなにコンプレックスなのかしら。
別に何と言うか雰囲気に合ってると言うか。
戦闘系のサラには小さい方がメリットだと思うんだけど。
「さぁー、私にも分からないわ。てか、そんなに大きくなりたいの?」
「一応、あたしも女だから。ここまでないと寂しいというか、悲しいというか……」
目線を胸元に下げ、おっぱいに掌を当てながら弱々しくそう言うサラ。
確かにサラも女だもんね。
それにGレイヤーに来てから街にいる人はビキニの女の人ばかりだったし、小さなおっぱいを気にしてしまうのも仕方ないか。
「マッサージとかしてみたらいいんじゃない?」
「そんなのあるの?」
「まぁね。また今度教えてあげるわ」
「う、うん!」
サラはパッと明るい笑みをこちらに向け、そう嬉しそうに返事した。
立ち話もなんなので私はオススメの浴槽に浸かる。
サラもそれを見て私の隣に腰下ろした。
「しかし、綺麗な肌ね」
「ん? そう?」
「うん、焼けてたのが嘘のように真っ白でスベスベね」
私がサラの肌を見ながらそう言い、筋肉質だけど細い腕を軽く触る。
どうしたらこんな肌を手に入れることが出来るのだろうか。
本当にそう思うぐらい美しい。
つい羨ましいと思ってしまう。
最初この肌を見た時、私の肌も負けていないと思っていたんだけど、改めて間近で見て実際に触ってみたら私の完敗だ。
「くすぐったい」
「あ、ごめん」
「別にいい。でも、急に触れると驚くから」
「だ、だよね」
私は最後に軽く撫でるように触り、サラの腕から手を離した。
それから少し沈黙が流れる。
お風呂が気持ち良いせいか。
それとも私がサラの腕を急に触って少し気まずくなったせいか。
私は後者だが、サラはどうだろう。
瞼を閉じながら、天使のような表情をしているからその真相は分からない。
そんなことを思いながら、サラを見つめているとパッと瞼が上がって同時にサラが立ち上がる。
「外のお風呂に行こう」
「あ、うん」
サラの言葉に軽く返事し、私も立ち上がってサラの背中を追う。
「ここ綺麗」
「だね」
サラの独り言のような言葉に、私も独り言ぐらいのトーンで言葉を吐く。
相変わらずここの露天風呂の夜景は高級ホテルの最上階から見える景色並みに綺麗だ。
この時間だとライトアップもされていて、少し目がチカチカする時もあるけど、そんな景色も幻想的で良い。
それにこの夜風が肌に当たる感触も何と言うか気持ち良くて私は好き。
だが、そろそろ冷えてきたので体を浴槽の中へ。
そのまま肩まで浸かって一気に温まる。
これがかなり気持ち良くて、一日の疲れが落ちていく感じがする。
加えて浴槽の中だとおっぱいが浮いて肩が軽い。
「ふぅ~」
「このピカピカ光っている色んな色の光、綺麗!」
「そうだねぇ~。まぁ少し明るすぎる気もするけど」
「確かに目がチカチカする」
サラも同じようなことを思っていたようで、目を細めながら夜景を眺めていた。
「ずっとこんな感じでライトアップされているのかな?」
「……この光、ライトアップっていうのか……」
「なんか言った?」
「ううん」
小声で何か呟いた気がしたが、気のせいか、それとも独り言か。
まぁ何でもないなら、別に深く追求する必要もないだろう。
「そう言えば、このライトアップ! 新しくこの街に来たグループを歓迎する演出らしい」
「へぇ~。豪華な演出ね」
何故かライトアップを強調してそう言ってきた。
まぁそれはどうでもいいか。
それよりもこのライトアップが新規グループを歓迎する演出だったとはね。
派手と言うか何と言うか。
どこの誰が考えて行っているかは知らないが、新規グループを歓迎しているなんて意外だ。
基本的にBNWでは全てのグループが敵だからね。
歓迎とはおかしな話である。
そんな考えをしていると、急にサラがいつもより真面目な声で「ねぇリア」と私の名前を呼ぶ。
私は夜景から目を逸らすことなく、「サラ、どうかした?」と口だけ動かす。
すると、サラは少し間を置いてから口を開いた。
「リアはゼロのこと……どう思ってるの?」




