69.Hレイヤーは超エロい?
今の聞き間違えじゃないよな?
ココの奴、Hレイヤーのことを『超エロい』レイヤーって言ったよな?
言ったよな?
「そ、それは本当なのか?」
僕はココの衝撃的な発言に驚きながらも少し間を置いてそう聞く。
「はい。事実です」
真剣な眼差しを向けながら、そうハッキリと言い切るココ。
嘘をついているようには見えない。
それよりもこの話は具体的に聞くべきなのだろうか?
それとも流すべきなのだろうか?
どっちにしても何と言うか後味が悪い感じになりそうだ。
そんな感じで僕が次の言葉に悩んでいると、リアが抹茶ゼリーの黒蜜かけを完食して真面目な表情で口を開く。
「もし嫌じゃないなら、Hレイヤーのことを詳しく教えてもらえないかしら?」
「はい、それは大丈夫ですけど、かなり刺激的なので出来るだけオブラートに包んで話しますね」
「こちらとしてもそうしてもらえる方が有難いわ」
リアは少し頬を緩めてそう言い、「ふぅ~」と深呼吸をして姿勢を正す。
それにしても、オブラートに包むと先に言うぐらい刺激的とは、Hレイヤーのエロさがまだ何も聞いていないというのに伝わってくる。
加えてこの謎に緊張感がある特殊な雰囲気。
何と言うかあまり好きではない空気感だ。
もう三人とも抹茶ゼリーの黒蜜かけを食べ終わり、今はココに視線を集中させている。
その視線に気付き、ついにココが話し出した。
「まずHレイヤーという場所について説明しますと、一日中太陽が昇ることはありません。常に空は闇に包まれていて、灯りは目がチカチカするほど輝きを放つネオンの光のみです。Hレイヤー全土は歓楽街のような雰囲気で、そのうち八割以上は性的なお店である風俗やソープランドなどで埋め尽くされています」
そう言い終えると、一度話しを止めて大きく息を吐くココ。
今、Hレイヤーについてココは平然とした表情で淡々と話しているが、こちらからしてみれば衝撃的な発言ばかりである。
まずは太陽が昇らないという点
それは常に夜を意味する。
全く想像ができないが、とにかく暮らしにくそうだと思った。
そんなことはよくて問題は話の後半だ。
Hレイヤー全土が歓楽街で、八割以上が性的な店という点。
ココは二個ほど性的な店がどういうものなのか例をあげていたが、恐らくもっと刺激的な店が存在することは間違いないだろう。
しかし、超エロいとは聞いていたが八割以上が性的な店というのは流石に驚きだ
なぜなら、理論的に考えてHレイヤーの人間の約八割は毎日のようにそういう店でエロいことをしているということになるのだから。
そうでなければ、その八割以上ある性的な店は今頃破産しているはずだからな。
ココの話を頭の中でまとめていると、ココが話を再開する。
「そういうこともあり、Hレイヤーの新規グループは雰囲気に呑まれて性的な方向へ行く場合が多いです。人間には三大欲求の一つに性欲というものがありますから仕方ないと言えば仕方ないのですが、その結果Hレイヤーから抜け出せないグループは数え切れないほどいると思います。それにGレイヤーからHレイヤーにわざと下がるグループすらいるぐらいなので、それほど性欲を満たすには最高のレイヤーというわけです」
ココはため息をつき「一度、席を立ちますね。飲み物を持ってきます」と言って、僕たちの皿をトレイに置きキッチンの方へ去って行った。
「リア。何でHレイヤーのことを詳しく聞いたんだよ」
「だ、だって、なんか知らないことって知りたくなるじゃない」
「確かにそうだが、こういう何とも言えない空気感になるのは想像できただろ?」
「だけど、Hレイヤーの情報を得られるのはゼロにとっても悪い話じゃないでしょ?」
「まぁそう言われればそうだけど……はぁ、もういい」
僕も興味がなかったわけではない。
だがしかし、この少しずつピンクに染まっていきそうな空気が嫌なのだ。
もちろん、Hレイヤーの情報は持っていて損はないだろう。
もしかしたら、Hレイヤーに落ちる可能性もあるわけだしな。
「ココナツジュースで良かったですか?」
トレイに飲み物を乗せているということで足元に気を付けながらそう聞いてくるココ。
リアはそれに「もちろん」と言い、その後に僕とサラが無言で頷いた。
ココだけにココナツジュースか……ネタなのか?
それともシンプルにこのGレイヤーの雰囲気に合わせたのか?
答えは謎だ。
まぁそんなことはどうでもいいけどな。
「美味しい!」
「本当だ」
喉を鳴らしながらココナツジュースを飲み、リアとサラが驚いたようにそう呟く。
それを見た僕は二人に遅れてココナツジュースを口の中へ。
「これは美味いな」
「それは良かったです」
僕の言葉にココが嬉しそうな笑みを浮かべ、ホッとしたのかやっとココナツジュースに手を付けた。
ココナツジュースというものは初めて飲んだが、とてもサッパリしていて飲みやすい。
あまり甘さはないが、食後にはこれぐらいのふんわりとした甘みが丁度いい感じだ。
「これはココが作ったのか?」
「あ、はい。基本はお客様には出さないのですが三人は特別です」
満面の笑みでそれだけ言い、その後に「では、続きを話しますね」と真面目な表情でそんな言葉を口にした。
「えっと、Hレイヤーのことは大体分かりましたか?」
「ああ。つまり、性欲が溢れかえるレイヤーってことだろ?」
「はい、その解釈で大丈夫です」
これでやっとHレイヤーからGレイヤーに上がるグループが少ない理由が理解できた。
Hレイヤーとは性欲が強い人にとって最高の楽園。
そんな楽園から離れたいと思う人間は少ないだろう。
加えてHレイヤーでは、人間の三大欲求である『食欲』『睡眠欲』『性欲』を持て余すことはないのだから、性欲が弱い人からしても居心地はそこまで悪くないはずだ。
問題があるとするなら、Gポイントの減りが凄く早い可能性があるという点ぐらい。
恐らくグループ戦が起こることもないだろうし、人間が生きる上ではベストな環境と言えるだろう。
「で、ここからはHレイヤーのイベントについて話します」
ココは一度喉を動かし、ココナツジュースを飲む。
そして話を始める。
「他のレイヤーのイベントが毎回変わるのに対し、Hレイヤーのイベントが変わることはありません」
「それは毎回同じイベント内容ということか?」
僕が少し疑問に思いそう聞くと、ココは「はい、そうです」と簡単に答えた。
他のレイヤーのイベントが毎回変わることも初耳だったが、Hレイヤーのイベントだけが変わらないという点はかなり不思議だ。
これでは攻略法を見つければ、すぐに次のレイヤーへ行けてしまうことになる。
疑問が次々と脳内に湧いてくるが、ココは話を続ける。
「イベントの内容は至ってシンプルです。四日間で性行為の体位である四十八手及び裏四十八手をグループメンバー全員でクリアすること。
報酬は九十六手全てクリアでGスコアとGポイントを獲得。それ以下から半分の四十八手クリアでGポイントを獲得。それ以下はGスコアの喪失という感じです」
四十八手とはココの説明通り性行為の体位のことである。
その名の通り四十八種類あり、裏も同様に四十八種類。
合計九十六種類も存在する。
もちろん、全種類覚えている人間はほとんど存在せず、基本の五種類ほどで大体の男女が性行為を行っている。
ところで、イベント内容を聞く限りこれでは全員が男、全員が女のグループだとこのイベントはクリア不可能になる。
なぜなら、男同士、女同士で性行為は行えないからだ。
そういうわけで僕はココに問う。
「全員男、全員女のグループはどうするんだ?」
「グループの男女比率で問題が出ないように、このイベントではHレイヤーの誰と性行為を行ってもいいことになっています。つまり、Hレイヤーの人間たちで協力し合うイベントという仕様になっているのです」
「なるほど」
確かにそれなら平等だと言える。
しかし、グループ内に限らずグループ外の人間と性行為を行うことが出来るとは驚きだ。
むしろ、このルールならグループメンバー全員がグループ外の人間と性行為をした方が効率良くクリアできることは間違いない。
それにしても、協力し合うイベントか。
Iレイヤーで殺し合いをした僕たちからすれば、正直考えられないイベントだ。
「まぁでも、毎回クリアするグループは出ないです。四日間という短い期間に三人で九十六種類の体位で性行為をすることはそう簡単ではありませんから。それに体力、気力、性欲などには限界がありますからね」
苦笑交じりでこのイベントの難しさについて語るココ。
まぁでも、このような表情になるのも当然だと言える。
だって、このイベントは難しいという次元じゃないのだから。
一番効率の良いグループメンバー三人がグループ外の人間と性行為を行うと考えても、最低一人三十二回も性行為を行う必要がある。
それは最低でも一日に一人八回の性行為を行わなければならないということ。
どう考えても、人間が一日に行える性行為回数を優に超えている。
つまり、Hレイヤーのイベントは最初からクリア出来ないようになっているのだ。
いや、クリアさせないようになっているという方が正しいのかもしれない。
「今までクリアしたグループは存在するのか?」
もちろんいないと思うが一応聞いてみる。
「いないと言われています。基本どのグループも四十八手前後で限界を迎えるので」
「ココのグループはどんな感じだったんだ?」
そんな言葉を口にした瞬間、部屋は凍り付いたように静まり返る。
同時にリアとサラから物凄い視線を感じたが、ココの方から視線を逸らさないようにして乗り切った。
だがしかし、ココは僕にそのような質問をされた上に、真剣な眼差しをずっと向けられて恥ずかしくなったのか、急にモジモジしながら頬を朱色に染めた。
それを目の前にして流石に申し訳なくなり、僕は口を開く。
「あ、悪い。今のはなしだ」
「……」
無言でココが頷き、入っていないココナツジュースを飲むフリをして顔を隠した。
「でも、じゃあココはグループ戦でGレイヤーに?」
「は、はい。そういうことになります」
まだ顔は赤いが、僕の質問には答えてくれた。
「Hレイヤーの話は以上です」
「わざわざこんな話をしてくれてありがとうな」
「いえ、別に大丈夫です。それにサラさんが最初にいなかったのが、Hレイヤーのイベントせいじゃなくて良かったです」
なるほど。
そのために心配してわざわざ「三人はHレイヤーのイベントでグループの関係性が難しくなりませんでしたか?」なんて聞いてくれたのか。
ただの客にそこまで気を遣ってくれるとは、本当にココは優しいな。
「では、ボクはそろそろ洗い物をしてきます」
ココナツジュースが入っていたグラスをトレイに集め、深く一礼して速足でキッチンの方に歩いて行った。
「で、さっきから何だ?」
「えっと……何の話か全く分からなかったんだけど」
「本当に分からない。四十八手って何?」
眉間にしわを寄せて難しい表情でそう聞いてくる二人。
もしかしてこの二人、僕がココにあの質問をする前からこんな感じで、ただ話の内容を理解してなくて「教えて教えて」というような感じで視線を送っていたのか。
イベントの話になってからずっと黙っていたもんな。
それにしても、変態だと思っていた二人が意外とピュアで驚いた。
普通の人程度の性知識はあるようだが、それ以上は全くと言ってないに等しい。
別に無理して知ることでもないし、折角僕たちはHレイヤーを飛び級でき、グループ内の関係性がややこしくならなかったのだから、むしろ言うべきではないだろう。
「まぁ知らなくていいさ。それより僕たちも今日はお風呂に入って早めに寝ようか」
僕は自然に話を逸らして立ち上がる。
「むぅ~、ゼロの変態」
「何でだよ」
「お風呂! お風呂!」
リアが僕にそう言うのに対し、サラは久しぶりのお風呂にテンションが上がっている。
サラがこんな感じで気分屋で良かった。
何とか話さなくても良さそうだ。
ところで、Hレイヤーのイベントとは何のためにあるのだろうか?
クリア不可能なイベント。
だから、目標Gスコアが低いというわけだと思うが、このイベントを毎回行っている理由は理解ができそうにない。
だが、何かしらの意図があることは間違いないだろう。
Iレイヤーのイベントに意図が、いや、『裏』があったようにな。
はぁ……BNWの『裏』はまだまだ分かりそうになさそうだ。




