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67.山地と平地とタイキック

「サラ、そろそろベッドの上で跳ねるのは止めろ」

「何で? ふわふわで面白いよ!」


 サラは部屋に入った瞬間、大きな声を上げながら顔からベッドへダイブ。

 それから三台あるベッドの上をずっとピョンピョンと飛び跳ねながら、子供のような笑みを浮かべてベッドをぐちゃぐちゃにしている。

 綺麗に整ったシーツはもう目の当てられない状態。

 毛布も床に落ち、枕も変な方向を向いている。


 それよりも本当にそろそろ飛び跳ねるのを止めてほしい。

 こちらは一度ココに勘違いされているのだ。

 こんなにうるさくすれば、また勘違いさせるかもしれないし、他の客にも迷惑がかかる。


「リア、サラをどうにかしてくれ」

「サラ、イエーイ!」

「いぇーい! リア!」

「おい、何してんだよ」


 急に仲良くなりやがって、数日前から今日まで喧嘩状態というか面倒な状態になっていたとは全く思えないな。

 それにいつからなのかは分からないが、リアが子供っぽくなった気がする。

 いつもなら、こういう時はサラに対して注意していたはずなのにおかしい。

 いや、まぁ良い意味でグループメンバーに心を許し始めたのかもしれないが、これから僕一人で子供二人の世話なんて流石に嫌というか無理である。


「サラの水着いいね!」

「リアのおっぱいも良い!」

「サラのおっぱいも良いよ!」

「喧嘩売ってる?」

「そんなことないよ。ゼロにエロい目で見られなくて羨ましいなーって」


 少し煽るようにそう言い、リアがニヤケ面でこちらをチラリと見て来る。

 続けてサラが僕を生ゴミを見るような冷めた目で見つめて来た。


「サラ、何か言いたいことでもあるのか?」

「ゼロはリアのおっぱいをエロい目で見てるの?」


 真顔でする質問ではない。

 それに胸をエロい目以外で見る奴はいない。

 エロい目以外で胸を見る奴がいるなら、僕に教えてほしい。

 そしたら僕もそのエロい目以外の目で見る練習を試みるからさ。


 サラの質問に正直に答えるわけにもいかないので軽く流した返事を返す。


「いや、まず胸なんか見てないからな」

「嘘つかないで。じゃあ、あたしとリアのおっぱいどっちが良い?」

「は? 何で急にそうなった?」

「そんなことは気にしなくていい。それでゼロはどっちが好き? 早く見比べて選んで」


 何でこうなったのだろうか。

 僕に今ここで巨乳と貧乳を選べだと……。

 何という新手の虐め。

 これは酷い質問だ。

 しかし、僕は男としてグループメンバーとして見比べてるしかない。


「……まぁいいが」


 僕はそう軽く返事をしてベッドに立つ二人へ近付く。

 そして緊張した表情で二人が僕を上から見つめる。

 そんな僕の目の前にはリアの立派に実った胸とまだ発達途中だと思われるサラの平らな胸が存在する。

 今の景色を一言で言うなら『山地と平地』。

 だが、その景色は徐々に山地のみへ変わっていく。


「ん……」


 僕は顎に手を当てながらじっくりと見て考える……フリをして立派な方の胸を堪能する。

 じゃなくて、僕は見ているフリをして夕食の時間になるまで時間稼ぎをする。


「ゼ、ゼロ、流石に見すぎじゃない?」


 リアが少し頬を朱色に染め、恥ずかしそうな声でそう聞いてくる。

 しかし、僕はその言葉を一切気にすることなく、胸から視線を逸らさず口を開いた。


「いや、なかなか選ぶのが難しくてさ」


 と、言った瞬間だった。


 ――バチンッ!


「いってぇ~! 何するんだ、サラ!」

「ゼロ、ずっとリアのおっぱい見てる! ゼロにとってあたしのおっぱいは最初の二秒で満足ってことなの?」


 完全に怒っていらっしゃる。

 もちろん怒っている理由は分かる。

 でも、僕は悪くない。そう、悪くないんだ。

 なんかさ、この世には大きな胸の方が男の目を引き寄せる不思議な力があるんだよ。

 だから、これはわざとじゃない。

 至って真剣に見比べようとした結果、自然的にこうなっただけだ。


 まぁそんなことを言えば、火に油を注ぐようなものなので当然言えるはずもなく。

 まず女のサラにはこれを言っても伝わらないと思うしな。

 というわけで、僕はサラの怒りを鎮めるために、サラの胸を褒めることにした。


「いや、サラの胸は見ているだけで刺激的というか」

「どこがよ」

「それに刺激的だとずっと見てられないというか」

「刺激的な方をガン見して良く言えたわね」

「それにサラの胸はさらっとしていて凄くいいじゃん?」

「それはもうただの悪口」


 おい、さっきからリアの奴がうるさい。

 僕の褒め言葉を鼻で笑いながら否定してきやがる。

 その度にサラの表情が曇っていくのだが、僕はこのまま殺されるのか?


「だからさ、僕はサラの方がいいと思うぞ!」

「ぜ、ゼロ……」


 僕の死を回避するために放った最後の力強い言葉が、サラの心という心に響いたのかサラが少し笑顔になる。

 同時にサラの右足が僕の横腹に飛んできた。


「うっ……!」

「嘘つきは成敗」


 横腹を抑えて倒れ込んでいる僕を見てサラは「やってやった」と言わんばかりの満足気な表情をしている。

 何で……こうなった?

 僕は一切悪いことしてないのに。

 褒めたのに。

 優しさの嘘って知ってる?

 サラのために僕は嘘をついたのに……。

 酷い、酷すぎる。


「サラいいね!」

「リアも成敗!」


 と、サラは「ていっ!」と言いながら、リアの頭にチョップをする。


「い、いたたた……」

「二人があたしのおっぱいを弄るのが悪い」


 何で僕まで胸を弄ったことになっているの?

 勝手に巻き込まれただけなんだが。

 今、一番の被害者は僕だよ。

 だが、もう謝るしかない。

 サラの強烈なタイキックを受けていると骨が折れそうだからな。


「悪かったよ、サラ。ごめんな」

「サラ、ごめんね。久しぶりに楽しくて調子乗っちゃったわ」

「はぁ……今回だけ許してあげる」


 何とかサラの怒りは収まり、もうタイキックが飛んでくることはなさそうだ。


「って、これはどういう状況ですか?」


 そう思っていると、部屋の扉が開いてココがこちらにジト目を向けてくる。

 すぐに僕が説明を試みるが……。


「まぁいいです。夕食が出来たので早く降りて来てください」


 それだけ言い残して、ちょっと強めに扉を閉めて去って行った。

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