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65.信用

『<情報>グループ戦終了。

 グループ名――ラックの勝利。

 これによりグループ名――ダックスのGスコア及びGポイントの全てがグループ名――ラックへ移ります』


 サラがいる目的地まで残り数メートルというところで、脳内にグループ戦終了の声が響く。


「やったか」


 僕はメニューバーを開き、時刻を見ると午後十二時。

 丁度、グループ戦が終わる時刻だった。

 相当ギリギリだったようだが、グループ戦には勝てたので予定通りである。


「ど、どういうことなの? 私たちは勝ったの?」

「そのようだな」


 リアは「何で?」みたいな顔で不思議にしていたが、そのような反応になるのも仕方ない。

 だって、今回僕たちは何もしていないのだから。

 それどころか、今やっと目的地に着いたところだ。


「ここだな」


 僕はそう言い、少し開いている扉からゆっくりと中へ。

 その瞬間だった。


「ゼロッ!」

「お、おい、何の真似だ?」


 サラが鬼の形相で僕を睨め付けながら、僕の顎に銃口を押し付けてきた。

 だが、そう簡単に引き金を引くとは思えない。

 なので、僕は冷静にまずは周りの状況を把握する。

 周りを見る限り、僕の期待通りサラは一人で解決してくれたようだ。

 昨日見た顔が絶望した表情で横たわっている。

 拳銃で撃たれた後があることから、恐らく今僕に向けている拳銃で殲滅したに違いない。


「冷静だね、ゼロ。それより何で裏切った?」

「僕たちが裏切った?」

「うん、そう。あたしを助けにこなかった」


 いつもよりも強い口調、鋭い目付き、それはまるで獣。

 しかし、僕はそんなサラにビビるわけもなく、顔色や態度を一切変えない。

 そして僕は平然とした表情で口を動かす。


「もしかして、サラは僕たちが助けに来ると期待でもしてたのか?」

「期待?」


 少しその『期待』という言葉に嫌な表情を見せるサラ。

 痛いところ突かれたと言った感じだろう。

 実際、僕が意図的に突きにいったからな。


「ああ、そうじゃないと裏切ったなんて言葉は出てこないだろ」

「でも、助けにこなかったことは事実」


 サラは「違う?」と言葉を付け加え、瞬きすることなく首を傾げる。

 今の言葉から予想するに、サラにとって僕たちが助けにこなかったことは裏切り行為に該当するらしい。

 で、サラの行動、言動、態度を見る限り、サラがもっとも嫌うことは『裏切り』。

 そう、裏切りだ。

 この予想から更に予想するに、あのイベントの最後に約150人を殺した理由は『裏切られたから』ということになる。

 これで答えは出揃った。

 後はこれを基にサラから『裏切り』というものを断ち切る。


 僕は一度瞳を閉じ、わざと大きなため息をつく。

 それからジーっとサラの瞳を見つめて口を開いた。


「サラが言っていることは間違ってはいない。確かに助けにこなかったことは事実だ。でも、僕は最初からサラを助けるつもりなど一切なかったのもまた事実」

「は?」

「え?」


 サラが顔を歪め、後ろで黙っていたリアも驚きのあまり思わず口から声がもれる。


 そう、僕はサラを助けるつもりなどなかった。

 だから、意図的にリアが遅れるようなこともした。


「念のためにもう一度言うが、僕はサラを助ける気など最初からなかったってことだ」

「ちょ、ゼロ! 助ける気満々だったじゃん! 嘘つかないでよ!」

「嘘などついていない。実際、助けは間に合っていないだろ?」

「それは私が寝坊したからで――」

「それも僕が仕組んだことだったら?」

「え……?」


 僕の衝撃的な言葉を聞いたリアの反応だけで、振り返らなくてもリアが困った顔をしているのが想像つく。

 ハッキリ言おう。リアが寝坊したのはリアのせいではない。

 リアが寝坊した原因は、僕が昨晩リアが飲んだ水に睡眠を持続させる睡眠薬を入れていたからだ。

 睡眠薬は昨日ダックスの情報収集中にリアの目を盗んで買って置いていた。

 もちろん、リアが水を飲まないという可能性はあったが、実は前の日の晩にリアが冷蔵庫の中から水を取り出して飲んでいたところを見ていたので、翌日も飲むと確信していた。


「ゼロ、そこまでしてあたしを助けたくなかったの?」


 一段と顔の表情が歪むサラ。

 だが、僕はその恐怖を感じるぐらいの歪んだ表情から目を逸らすことなく、サラと向き合う。


「違う。そうじゃない!」

「じゃあ、何?」

「サラ、わざと言っているのか? もう分かっているだろ?」

「……」


 僕の言葉に黙り込むサラ。

 それから下唇を噛み血を流す。


 少し沈黙が訪れた瞬間、僕たちの会話を一人だけ理解できていないリアが口を開いた。


「一体、それはどういうことなの?」

「簡単に言えば、僕がサラを助ける気がなかった理由は事実上サラを助けることが不可能だったからだ」

「不可能?」

「そう。ダックスの細いサムという奴がいただろ?」

「う、うん」

「そいつのスキルは『瞬間移動』もしくは『高速移動』だった」

「つまり、サラの場所に着いても逃げられていたということ?」

「ああ、そして敵の勝利は確定することになっていたというわけだ。だろ? サラ」


 僕の問いにサラの反応はない。

 何かを思い詰めるような表情で下を向いていた。

 それから数秒、その場に沈黙が流れた後、サラは急に拳銃を地面に叩きつけて僕を涙目で睨み、無言で僕の頬に平手打ちをかます。

 同時にやっと口を開いた。


「な、何で!? 何で助けに来なかったの!」

「それは――」

「分かってる、分かってるけど……グループメンバーとして助けるという意思ぐらい見せてほしかった。絶対に裏切らないという意思を見せてほしがったぁ!」


 目頭から大粒の涙がボロボロと落ち、鼻からは鼻水は垂れ、顔はもうぐちゃぐちゃ。

 でも、その顔が今まで見たサラの顔の中で一番本物に見えた。

 だから、僕は僕なりの『意思』があったのだと、サラに教えなければならない。

 そうしてサラを本当の意味で助けなければいけないのだ。


「そうか。でも、僕は充分サラに対して裏切らないという意思を見せたつもりだが」

「えっ?」


 サラは目を丸くして固まる。


「だって、僕はサラに僕の命をかけたんだよ? どういう意味か分かるよな?」

「……」


 サラはハッとした表情を見せ、無言のまま瞬きすることなく息だけを呑む。


「それだけ僕はサラを信用している。命を預けても大丈夫なんだと思えるぐらいには、な」

「私もよ、サラ! 私だってサラに命を預けられる。信用だってしているわ!」


 僕の言葉に続き、リアが大きな声でそう言葉を吐く。

 そして最後に僕はサラに問う。


「サラ、これでも僕たちが裏切ると思うのか?」


 サラはすぐにその言葉の答えを返さなかった。

 何かを思い、何かを考え、どうにかして変わろうとしているのだろう。

 脳内で何かと必死に葛藤しているのが、この苦しそうな表情を見れば分かる。

 だが、次の瞬間、急にサラの肩の力がふわっと抜け、ゆっくりと口が開いた。


「……ごめん、ごめんなさい……」


 サラが吐いた言葉は、僕の問いに正しい言葉ではなかった。

 だけど、この崩れ落ちて本当の涙を見せるサラを見て、僕の問いを否定してるとは誰も思わないだろう。

 僕はしゃがんでサラの銀色に輝く髪を優しく撫でる。


「大丈夫だ。サラはもう一人じゃない。だから、これからは何でも話してくれ」

「……うん、うん」


 泣きながらだったが首を何度も縦に振り、サラはしっかりとそう返事する。

 それから大声で子供のように泣くサラ。

 リアはその姿を見ると、すぐにサラのもとへ近寄って母親のように抱きしめた。


「ごめんね、ごめんね。私がサラのことをもっと考えるべきだったわ」

「ぢがう! あたじが、あたじがぁ! がわれながっだがらぁ……」

「もうっ、何言ってるか分からないわよ。じゃあ、後でゆっくり聞かせて。どんな内容だったとしても私とゼロは受け止めるから」


 そんなリアの言葉に大きく頷き、リアの胸に顔をうずめてサラは力強く抱きついた。

 全く、羨ましい。

 僕もその胸に顔をうずめていいですか?

 まぁそんなことは言わないけど、それぐらい馬鹿なことを考えられる状態にはなったと思う。

 まだ全てが解決したわけではない。

 でも、今この瞬間、サラが僕たちを信用すると心に誓ったことは間違いないだろう。

 同時にサラが大きく成長した瞬間でもあった。

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