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61.不可解な点

「あー、そういうことだったんですね。ぼ、ボク勝手に変な妄想しちゃって……」

「全然大丈夫よ。分かってもらえたみたいだし! それに私たちも誤解を招くようなことしたのは事実だしね!」


 僕たちはココの宿に戻って早速、今朝の誤解を解いていた。

 最初、ココは気まずそうにしていたが、説明を聞いてすぐに理解してくれたようだ。

 だがしかし、ココに勝手に僕とリアのその……エロいことを妄想されていたということに関しては驚き半分、戸惑い半分である。

 まぁ男だから仕方ないか。


 それよりも今僕はリアに文句を言いたい。

 何で勝手に僕まで誤解を招くようなことをしたことにしたんだ?

 全部リアが誤解を招くような行動をしてたんだよ?

 分かってる?

 勝手に内容を変えないでもらいたい。

 全く、何もしていないのに被害を受ける僕の気持ちも考えてもらいたいものだ。


「あ、そうだ。ココには悪いんだけど、夕食もう済ませて来たんだよね」

「そうでしたか。別に構いませんよ」

「悪いな、ココ。リアが寿司を食べると無理矢理――」

「違うし! ゼロが寿司を夕食にするって決めたからじゃない!」


 僕の言葉を遮って堂々と半分嘘であり、半分本当のことを言うリア。

 しかし、これではまるで、僕が全て悪いみたいな言い方である。

 確かに僕は寿司を夕食にすると決めた。

 だが、そうなったのはリアが無理矢理あの店に入ったからである。

 つまり、あのまま聞き取り調査を続けていた場合、もちろん僕はココの料理を食べる予定だったというわけだ。

 まぁでも、結果的にあの寿司屋に入ったことは大正解だったので何とも反応に困る。


「はぁ……もう何でもいい。それよりココ、お風呂の用意は出来ているか?」

「もちろん。地下で湧き続けているので男女の時間さえ守ればいつでも入れますよ!」

「そうか。じゃあ、先に僕はお風呂に入らせてもらうよ」

「せ、せこい! 私だって――」

「男の時間だが一緒に入るか?」


 次は僕がリアの言葉を遮り、ニヤっと口元を緩めてそう聞く。

 すると、リアは可愛くリンゴのように顔を真っ赤にして「入るわけないでしょ!」と言い、振り返ることなく、僕たちの部屋がある二階へと上がっていった。


「悪いな、ココ。リアがうるさくて」

「いえ、そんなことないです」

「まぁまた何かあった時は言ってくれ」

「あ、はい」

「じゃあまたな」

「はい、いってらっしゃいませ」


 僕は耳に心地良さをもたらすココの声を背中で受けながら、軽く手を振ってお風呂場という名の温泉に向かうのであった。


        ⚀


「はぁ……きもちいぃ~」


 僕は体をパパっと洗い、露天風呂に浸かりながら沈む夕日を見つめていた。

 昨日の景色は夜景や星空だったので、現在、目に映る茜色の空は凄く新鮮で美しい。

 時間によってこのように景色が一変するところが露天風呂の醍醐味の一つだと思う。

 他にも季節によっても、景色がガラッと変わったりするらしいが、このGレイヤーでそれを楽しむことは難しいだろう。

 なぜなら、この水の街に四季が存在するとは思えないからだ。

 恐らく一年中、こんな感じで夏なんだと思う。

 そうじゃないと冬とか氷水の中、街中を裸足で歩くことになるからな。


 そんな話はどうでもよくて、この宿には不可解な点が多い。

 まずこの温泉で僕以外の誰かが入っているところを見たことがない。

 と言っても、まだ二回しか温泉には入っていないので何とも言えないというのが本音。

 だが、一泊してこの宿でココ以外の人一人見ていないのは流石におかしいと思う。

 今朝、ココが他のお客様の迷惑になるとか言っていたが、本当にその『お客様』が存在するのか疑いどころだ。


 正直に言って、僕はココをそしてこの宿を全く信用していない。

 なぜなら、客の姿がない上に、物音や人の声すら聞こえないのだから。

 本来の宿代がどれほどの値段がするのかは知らないが、宿ならば客が数人いることは当たり前だと思うし、むしろここまで良い宿なのだから奮発して一泊ぐらいするグループが少なからずいてもおかしくないと思う。

 というかそうじゃないとこの宿が破産してしまうはずだ。


 まぁ確かに人が誰もいない貸切状態というのは悪い気はしない。

 静かに自分の時間を過ごせるのだから有難いと思う。

 だけど、一週間以上このような状況が続くのであれば、僕はココとこの宿に何かしらの裏があるのではないかと、密かに疑いの目を向けるつもりだ。

 だがしかし、今のところはまだ様子見でいいだろう。

 無駄に意識してしまうと疑っていることを悟られてしまう可能性もあるからな。

 それにまずサラの件を解決しなければならない。

 この宿の不可解な点に関しては、それが終わってからでも大丈夫だろう。

 一応軽く警戒はしておくが、そこまで心配はしていない。

 まだ宿泊して二日目だ。

 本当に何かしらの目的があるならば、そんなすぐに仕掛けては来ないはずだからな。


 おっと、流石にちょっと警戒しすぎだろうか。

 自分でもこれまで以上にあらゆる可能性を考えていることは理解している。

 それがココやこの宿に失礼なのも分かっている。

 それでも『客がいない点』『一人1000ポイントという格安で泊めてくれている点』などココとこの宿に怪しい匂いしかしないのだから警戒せざるを得ない。

 もちろん、ココがただ親切な奴でこの宿が本当に値段が高く、客はそれなりのビップであまり顔を表に出したくないという可能性もある。

 だとしても、あらゆる可能性を考えておくことに越したことはない。

 新天地――Gレイヤーという未知な場所で油断など自殺行為だからな。

 と言っても、まぁ今の話は全て僕の妄想に過ぎない。

 どうなるかは時が来れば分かることだ。


 長考している間に、茜色の空は闇色に変わり、顔を出していた夕日は隠れ、星空が浮かびあがって来ていた。

 時間も時間だし、のぼせる可能性もあるのでそろそろあがるとする。


「今日もライトアップがあるのか」


 僕はそう一言呟き、チカチカとした光に照らされた体から水を垂らしながら立ち上がる。

 脱衣所に出る前に、シャワーで体を綺麗に流し、軽く絞ったミニタオルで体の水滴を拭く。

 そしてバスタオルでしっかり頭から足の裏まで拭き終え、先ほど洗濯機から取り出しておいた下着と寝巻を着る。


 時刻は午後八時前。

 丁度、お風呂の男女時間が変わる頃だ。

 僕は今日の洗濯物を洗濯機に入れ、明日の着替えを持って部屋に戻る。


「リア、交代だ」

「結構、長かったわね」

「今日はよく歩いたからな」

「確かにそうね。じゃあ、私もお風呂に行ってくるわね」

「ああ、そう長くなるなよ。明日の作戦会議もあるからな」

「はいはい、分かったわよ」


 流す感じで適当にそう言い、リアは部屋から出て行った。


「……部屋が綺麗だな……」


 部屋を見渡して自然とそんな言葉がもれる。

 今朝は朝食の時間がギリギリだったということもあり、かなり部屋が乱れたままだったのだが、今の部屋は見違えるほど綺麗に整えられていた。

 もしかして、僕がお風呂に入っている間にリアが片付けていたのだろうか?

 いやそれはない。

 リアは先ほど昨日使っていないベッドでダラダラと寝転んでいたからな。


 それによく見ると布団のシーツが交換されている。加えてゴミ箱の中身も空だ。

 他にも床にはゴミどころか埃一つ落ちていない。

 窓も綺麗に拭かれたのか、今朝よりも輝いている。

 恐らくこれは宿のルームサービス的なものだろう。

 外出中にココがやってくれたに違いない。

 掃除してくれたのは有難いが、そういうことは事前に言っておいて欲しかった。

 こちらも貴重品を置いてないわけではないからな。


「まぁいいか」


 僕は軽く部屋の状況を理解し終わったので、綺麗に整った昨日のベッドに腰下ろす。

 相変わらずベッドの質は良い。

 ダイチが灯台で作ってくれたベッドといい勝負だ。


 それよりも先に明日の準備でもしておくか。

 と言っても、特に何も持って行くものはない。

 そういうことで明日の着替えだけを準備し、僕はベッドに寝転び軽く目を瞑るのであった。

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