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5.運か……実力か

「はぁ……負けたぁ~」

「まぁ晩飯が食えるかはこの戦い次第だけどな」


 走ること二分半。

 予定より早くグループ戦が行われているアルコールライフに到着した。

 先ほどの会話の通り競争は僕が逃げ切り勝利。

 と、言ってもグループ戦に勝たなければ、晩飯もクソもない。


「早速、入りましょうか」

「ああ」


 リアを先頭に僕たちは木の扉を押してアルコールライフの中へ。


「結構、人がいますね」

「だな」


 中は酒場のような感じで、髭を生やした海賊や山賊みたいな奴らがゴロゴロといた。

 そして酒を飲みながら、楽しそうに馬鹿笑いをしている。

 何というか、関わりたくない奴らばかりというのがパッと見の感想だ。


「てめぇはいつまでカードをシャッフルしてる気だ?」

「制限時間ないんだから別にいいでしょ?」

「いや、俺様もそんなに暇じゃねぇーんだ」

「何で? 昼間から酒飲んでるのに?」

「飲んでるだけで暇ではねぇーよ。そろそろこいつと風俗行かなきゃいけねぇーからな」


 数時間前に聞いた声が酒場の端の席辺りからする。

 僕は自然とそちらに視線を向けると、貧乳が目に入った。

 貧乳の対面には態度の大きい男性が二人。その後ろに肩をすくめながら、申し訳なさそうにする20代後半ぐらいの女性が一人。

 そしてその周りには酒瓶を片手に盛り上がる野次馬たち。


「だからさ、早く選ばせてくんないかな? お嬢さん、ブッハッハッ!」

「チッ、分かった」


 貧乳はカードを二枚、自分の目の前に持ってくる。

 状況からしてババ抜きは終盤の中の終盤。

 貧乳がババを相手に引かすことができれば、ババ抜きはまだ終わらない。だが、ババじゃない方を引かれれば終わり。つまり、負け=死が確定する。


「じゃあ、俺様はこっちを――」


 と、相手の男がカードを取ろうとした瞬間。

 カードは白く艶やかな手によって宙に浮く。


「何面白いことしてるの? 私も混ぜてくださいよ、おじさん」

「何だ、てめぇは?」

「この貧乳ちゃん……あ、この子のグループメンバーですよ」


 おい、こいつ完全に「貧乳ちゃん」って言ってから何もなかったように話を続けやがったぞ。


「そうか、ならてめぇでいいからこの戦いをそろそろ終わらせようぜ!」

「いいですよ」


 そう言って、貧乳の隣に腰を下ろすリア。

 僕はそれを片目にゆっくりと歩きながら、その二人の後ろにつく。


「おい、巨乳。何で邪魔するんだ?」


 いや、貧乳の方は普通に「巨乳」って呼んでるし。

 他に違う呼び方あっただろ。

 巨乳って心の中で呼んでいた僕が言うことではないが。


「へ? 邪魔? これはグループ戦よ。私が入っても問題はないはずだけど?」

「そうだが、今あたしが戦っていたんだ!」

「だから何? てか、貧乳ちゃんはもう死ぬ気?」

「それはどういう?」

「負ける気なのって意味」

「ババ抜きなんて運が強い方が勝つ。だから、負ける気なんてない」


 その言葉にリアは鼻で笑い、「バカ貧乳ちゃんだ」と嘲笑う。

 流石にその態度にイラッときたのか貧乳が巨乳の胸倉を掴み、鬼の形相で口を開く。


「じゃあ、運じゃないと証明してみろっ! 意味分かるよな?」

「ええ、いいですよ……フフっ」


 リアは不気味に笑い、カードをシャッフルする。


「てめぇは俺様に勝つ気かよ、笑えるぜ! ブッハッハッ!」


 確かに笑える話だ。

 リアはこのババ抜きで運ではなく、実力で勝つことを遠回しに宣言した。

 運によって勝敗が左右されるババ抜きという戦いで、実力で勝つということはとても謎と言っていい。

 自分の運を信じているのか、それとも秘策でもあるのか。

 どちらにしても、リアの発言、態度を見る限り何かある考えていい。


「ではでは、そろそろ引いてもらいましょうか」


 そう愉快に話ながら、リアはシャッフルしていた二枚のカードを机の左右に置き、それぞれ手で隠す。

 一枚はババ、もう一枚はハートの2だ。


「カードを見せてくれねぇーのか?」

「当り前じゃないですかぁー! だって、見せたら『ババ』がバレてしまうので! あ、これは言ったらダメでしたか?」

「チッ、面白いお嬢さんだぜ、ブッハッハッ」


 リアの煽るような言葉に舌打ちをして笑う相手の男。

 それを横で見る貧乳は不思議そうに二人を見つめていた。


「どういうこと? 何で『ババ』がバレる?」

「それは『ババ』に細工されていたからですよ。ババの端四か所は丸い角になっているのに対し、他のカードは尖った角になっている。まぁ簡単に言えば、おじさんは『イカサマ』をしてたんですよ」


 それを聞き、貧乳は目を大きく開け、「イカサマ……」と一言。

 そらその反応になるよな。

 僕は気付いていたから何とも思わないけど、今知った貧乳からすれば、寒気がしたはずだ。

 なぜなら、さっきカードを引かれていたら、ハートの2を引かれ、負けていたのだから。


「イカサマとは酷いねぇ~。これも一つの戦術! それにグループ戦は何でもありだから何の問題もない。これは当り前の行動だ」


 そらそうだ。

 何もなしにババ抜きという戦いをするわけがない。

 運ゲーで命をかけるとかバカすぎるからな。だから、普通に考えれば、こういう細工をされているのがむしろ当たり前。

 命をかけるグループ戦とはそういうものだ。


「種明かしもしたことだし、そろそろ選んでくださいよ、おじさん」

「じゃあ、お嬢さんの右手のカードをいただくぜぇ!」

「それでいいんですね?」

「ああ、それでいい」


 リアの最終確認の質問に口元を緩めながら答える相手の男。

 そらこのタイミングで最終確認なんてしてきたら、勝ったと思うだろう。だって、ババではないカードだった場合、そんな確認をするはずがないからな。


 リアは両手のカードをゆっくりと体の前に持っていき、そして右手のカードだけを相手の男の目の前に止める。


「では、私が表にしますね」

「おう。頼むぜ、お嬢さん」


 その言葉を合図に周りは静まり返り、リアの右手に注目が集まる。

 リアは「三、二、一」とカウントダウンをし、素早くカードを表にする。


「な、なんだと……」

「あらぁ~、残念! ババでしたね!」


 満面の笑みを相手に見せつけるリア。

 こいつ絶対に性格悪い。

 触れないでおこうと思っていたけど、そろそろ断言しとく。

 リアは性格が悪い。しかも、かなり。


「右だったはずだ! ど、どういうことだっ!」

「え? 私はずっと隠していましたよ?」

「俺様はシャッフルをずっと目で追っていた。だから、間違いない!」


 今の発言が事実なら、この男はシンプルにやり手だ。

 いや、事実だから本当にやり手だよ、この男は。

 確かに僕が最後に確認した時、右手のカードはハートの2だった。つまり、リアはシャッフル後に何かをしたのだ。


「まぁ二分の一ですからね。そういうミスも起こりますよ」

「あ、ありえねぇ……」

「では、次は私が引く番ですね」


 何はともあれ、ここにきて一気に形勢逆転。

 こちらがハートの2を引けば勝ちだ。


 相手の男はまだ信じられないのか、動揺しながらもカードのシャッフルを机の下で行う。

 自分が目で追えるようにリアも目で追える可能性を考えれば、当然の行動だ。

 そして相手の男はリアと全く同じようにカードを机に置き、手で隠す。


「さぁ、お嬢さん! さっきは驚いたけど、まぁミスを認めるよ。じゃあ、選びなっ、好きなカードを!」

「では、遠慮なく選ばせていただきます」


 そうニコっと微笑みながら一言告げ、椅子を引いて立ち上がる。意味不明な行動だ。


 ――バタンっ!


 立つ時に当たったのか、木製のコップが地面に落ち、机の下へ。


「あ、すみません。すぐに取りますね」


 軽く頭を下げ、机の下に潜り込み、コップを拾う。


「はぁ……取れました」


 コップを拾った右手でこめかみに流れる汗を拭い、コップを机に置く。


「私たちの勝利です」

「は? まだカードは机の上だ! 何を言っている?」


 相手の男の言う通り二枚のカードはまだ机の上。しかも、男の手で隠れている。

 何も決着なんかついて……


『<情報>グループ戦終了。

 グループ名――未定の勝利。

 これによりグループ名――ビギナーズキラーのGスコア及びGポイントの全てがグループ名――未定へ移ります』


 グループ戦開始時と同じようにメニューバーが勝手に開き、アンドロイドの声が脳内に響き渡る。

 それも『勝利』したと。


「ど、どういうことだっ!」

「分かっているのに現実逃避しないでください。おじさんは机の下でシャッフルするフリをして机の裏に用意していたババとハートの2を入れ替えた。だから、おじさんの二枚のカードはどちらとも『ババ』。そして机の裏にあったカードこそがハートの2。私はそれを取ったというわけです」


 つまり、イカサマすることを考え、逆にそれを利用して勝利したのか。

 本当に実力で勝ちやがったぞ、この女。


「クッ、クソがぁっ! あと少しで、あと少しでっ! ランクが上がって次のレイヤーに行けるはずだったのにっ!」

「兄貴……」

「私、やっと死ねる……」


 相手の男が悔しそうに叫ぶと、隣の男が一言告げて涙を流す。後ろで肩をすくめていた女は意味深な言葉を吐いて笑っていた。


「さようなら。楽しかったですよ、ババ抜き」


 リアの言葉が合図のように三人は意識を失った=死んだ。


「貧乳ちゃん、これでいいかしら?」

「チッ……でも、相手が引いたカードはなぜババだった」

「ちょっとした小技ですよ」


 面白そうに笑い、カードを先ほどと同じように配置する。

 小技というものを再現してくれるらしい。


「右手にババ。左手にハートに2」


 それを見せ、カードを反対に伏せて両手を体の前に持ってくる。


「はい、こんな感じですね」


 そう言ってカードを表に向ける。すると、カードは逆になっていた。

 何もしていないのに変わっている。いや、違う。何もしていないように見せただけだ。


「少しゆっくりしますね」


 また同じように再現する。

 そして次はハッキリと何をしたのか分かった。


「高速でカードを入れ替えていた……のか」

「そういうことです。マジックの小技の一つです」

「な、なるほど」


 そんな風に喋っていると店の店員らしき三人がこっちに来た。

 一人はおばさん、後二人は若い男とおじさんだ。


「悪いけど道空けて! この三人処理するから」


 店内に響き渡る声でおばさんはそう言い、三人は僕たちの相手の三人を抱えて、店の裏に運んでいく。


「あ、それとそこの三人、ちょっと話があるから待っときなさいよ」


 恐らく僕たち三人に言ったのだろう。

 何かされるのだろうか?

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