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51.リアの本音

「ふぅ~、いいお湯だったわ」

「だな」


 お風呂から上がったリアが寝巻姿で部屋に入ってきた。

 体からは軽く湯気が出ており、黄金に輝く髪からはシャンプーの甘い香りがする。


 現在の時刻は午後十時。

 窓から海を一望できる部屋でオレンジの灯りを体に浴びながら、僕はふわふわのベッドで寝転んでいた。

 ここGレイヤーではIレイヤーとは違い、電気が繋がっているらしい。

 なので、夜でも外は街灯によって明るく、部屋もロウソクやアルコールランプじゃなくてちゃんとした電球が僕たちを照らしている。


 それにしても、僕たちが泊っているココの宿は予想以上に高級だった。

 夕食は魚類や野菜を使ったコース料理。

 前菜、第一メイン、第二メイン、サラダ、チーズ、デザート、コーヒー。

 それはまるで、一種のテーマパークを回っているような感じ。

 それぞれの味はもちろん文句なしで、見た目もオシャレで食べることを戸惑うほど。

 リアはその料理を一口しただけで、頬が垂れそうなほど柔らかな表情になり、もう終始「美味しい」という言葉が止まることなかった。

 でも、その気持ちは僕も理解でき、一口一口が舌に衝撃が走り、噛む度に味が深くなっていき、呑み込む瞬間の最後までどの料理も楽しめた。

 本当に昼間の海鮮丼が可哀想になるぐらい美味であった。


 その後、宿の地下にあるお風呂、いや、温泉へ。

 これだけ高級な宿にしては珍しく、男性ゾーンと女性ゾーンには別れてはおらず、時間制で温泉に入るような仕組みになっていた。

 だが、その理由もすぐに理解させられることになった。

 まず色鮮やかな花が壁に飾られた階段で地下へ降り、大きな扉を開くと広々とした脱衣所が存在する。

 そこには扇風機が数台とドライヤー、体を洗うミニタオル、体を拭くバスタオルまで常備されており、床は半透明なツルツルとした石床。

 そんな豪華な脱衣所で服を脱ぎ、奥へ進み扉を開けると温泉が現れる。

 流石、水の街ということもあり、温泉の種類は多く、当たり前のようにサウナと水風呂があり、一番奥には地下だというのに露天風呂の姿もあった。


 とにかく僕はまず如何にも高級そうなシャンプーで頭を洗い、トリートメントをしてミニタオルにボディーソープを付けて体を入念に洗う。

 自慢ではないが、イベント終了後はお風呂に入っていなかったからな。

 洗いすぎで少し肌が赤くなったが、これぐらいで丁度いいだろう。

 体に付いたしっかりとした泡をシャワーで流し、まずは普通の温泉へ。

 入った瞬間、僕の口から「ふわぁ~」と言う声が自然ともれ、一気に体の力が抜けた。

 その後、ブクブクと泡が出る温泉やサウナからの水風呂、そして夜景と海、星空が一望できる露天風呂で絶景を楽しみ、少し頭がぽわぽわしたような感覚に襲われながら、温泉を後にした。


 それから数分後、温泉は男女交代の時間となり、部屋でゆったりとしていたリアが温泉へ。

 そして今に至るというわけだ。

 おっと、僕が温泉に入る話など需要がなかったと思うが、そこは僕をリアに変換して想像してほしい。


 まぁこの宿についてはざっとこんな感じだ。

 1000ポイントなんて有り得ないクオリティだろ?

 でも、これは1000ポイントじゃなくても泊まりたい宿だと思った。


 リアが部屋に戻って来てから少し沈黙が流れ、僕の瞼がゆらゆらと上下していたら、リアがいきなりベッドに腰を下ろして話しかけて来た。


「結局、サラは戻ってこなかったわね」

「そうだな。まぁでも、サラなら何か食べてどこかに泊っていると思うぞ」

「本当に?」

「ああ。実際、サラの現在位置はどこかの建物の中だからな」

「あ、本当だ。なら問題はなそうね」


 リアは「ふぅ~」と安堵のため息をつき、上がっていた肩を下ろす。


「それでサラと仲直りはできそうか?」

「んー、分からない。まず私はサラに怒ってないと思うし」

「それはどういうことだ?」

「つまり、ただ正論をぶつけられて悔しかったというか、私自身が情けなかったというか。私は自分でサラよりしっかりしていると思っていた。だけど、本当はサラの方が何と言うか色々考えていて……」

「確かにな。僕もサラは衝動的に行動するタイプだと思っていた。けど、それは誤りだったとリアに向けた言葉を聞いて思ったよ。サラは本当は考えて行動するタイプ。あくまでも何かしらの意図を持ち、サラ自身が正しいと思う行動をとっていると考えていいだろうな」


 そう僕は言い、一度言葉を止めて一呼吸入れてまた話し出す。


「しかし、それはサラ自身が正しいと思う行動にすぎない。正直言って、あのイベントの最後の戦い。別にサラはあの150人を殺さずに出来たはずだしな」

「え……でも、サラは『あの場であたしが殺してなかったらみんな死んでいた』って言ったわよ」

「それは嘘だ」

「は? 嘘? 何でそんなことが分かるの?」


 目を丸くして前かがみになって、僕に問いかけてくるリア。


 ちょっと近いんですけど。

 それに谷間が、底なしの谷間さんが、谷間がぁ!

 水着姿の谷間には慣れたが、不意打ちの谷間はやはり吸い込まれるな。

 まだまだ鍛錬が必要のようだ。


「ちょ、聞いてるの?」

「あ、悪い悪い。で、何だった?」

「何で嘘だと分かるのって聞いてるのよ!」

「あー、そうだったな」


 僕が苦笑交じりにそう言うと、リアは「もうっ!」と言って少し膨れていた。

 まぁこういう態度になって当然か。

 大事な話中だったからな。

 それより話の続きでもするか。


「嘘だと思った理由は一つ。それはサラの拳銃テクニックの高さだ」

「拳銃テクニックの高さ?」


 僕の言葉をオウム返し、難しそうな表情をするリア。

 このような表情になるのも無理はない。

 だって、リアはあの時、放心状態だったのだから。

 というわけで、簡単に説明をすることに。


「ああ、そうだ。サラの中で的であったであろう敵の頭をサラは一発も外していない。それは逆に言えば、全てその銃弾を殺さずに戦闘不能にする場所にも撃てれたことになる。だから、実際は誰一人として犠牲者を出さずにあの場を乗り越えられることができたってわけだ」


 それを聞き、リアは全てを理解したようで、拳を強く握りしめて何度もベッドを叩きつける。

 目頭からは涙が流れ、ベッドのシーツを濡らしていた。

 それから五分という長いようで短い沈黙が訪れ、部屋には涙が落ちる音とリアの悔しそうな声のような音だけが響き渡った。


 僕はそんなリアに対してかける言葉がない。

 はっきり言って、仲直りさせるはずが火に油を注ぐような言葉を放ってしまった。

 でも、このことは知っておいてもらわないといけなかったことだ。

 リアのためにも、サラのためにも、そしてこれからのラックのためにも。

 もちろん、僕のためにもな。


 鼻をすすりながら、やっと落ち着いてきたのかリアが口を開く。


「ねぇ、じゃあ、サラはわざとIレイヤーのみんなを殺したってことなの?」

「そういうことになるな」

「な、何でそんなことを……」


 悔しそうに悲しそうに、歯を食いしばって拳を握る。

 それを見て僕は一言かける。


「分からないなら聞けばいい」

「え?」

「だから、何でみんなを殺したか分からないんだろ? なら直接本人に聞くしかないだろ」

「は? そんなの衝動的に……」


 リアはそう言いかけて、言葉を止めた。


「そう。サラは衝動的にそんなことはしない。何かしらの理由があったことは間違いない」

「だけど、私はどんな理由があろうともみんなを殺したことに関しては許せないわ」

「じゃあ、許さなければいい」

「え?」

「だって、許せないんだろ? 別に僕は許さなくてもいいと思う。実際、サラがやったことはイベントで許されることだったとしても、普通だと許されることではない」

「でも、それだと仲直りが――」

「できる。許さなくてもできる。リアがサラを受け止める覚悟があるのなら、許さなくても仲直りはできるはずだ。それに本当は仲直りしたいんだろ?」

「……」


 僕の言葉に少し頬を染めて、目を逸らすリア。

 分かりやすいというか、まぁ元々分かっていたがな。


「まぁ行動するのはリアだ。僕は手を貸す気はないぞ」

「分かっているわ。それにこれは私とサラの問題。最初から手を借りる気はないわ」

「そうか」


 僕はそう軽く返事し、七色の点滅する光でライトアップされた夜景を眺める。

 まだGレイヤーに来て半日。

 Iレイヤーの時は半日で楽しく過ごせていたのにな。

 今は僕とリアの二人か。

 早くまた三人で過ごしたい。ただそう思う。

 だって、日常はラックの三人が揃わないと戻ってこないのだから。


「僕は寝る」

「私も。じゃあ、電気を消すわね」

「ああ」


 僕の返事にリアがベッドから立ち上がり、電気を消しに行く。

 その背中を見ながら、僕はベッドに腰を下ろし、ゆっくりと寝転ぶ。

 同時に電気が消え、窓からの星光と七色の光が騒がしく部屋を照らす。


「……ゼロ、ありがとう……」

「別に何もしてないさ」

「……」

「って、それよりくっつくなよ」


 リアの立派に実った胸が僕の背中に押し当てられている。

 柔らかい、有り難い……じゃなくて、離れてほしくない。

 いや、全部違うから!


「だって、ベッドが一台しかないんだもん」

「嘘つけ! さっき確認した時は三台あったぞ」


 よくもそんなバレバレの嘘をつけたものだな。

 馬鹿にするのもほどほどにしてほしい。


「あ、バレてたか……」

「当然だ」


 僕は「ふんっ」と鼻を鳴らして、リアから少し距離を取る。

 だが、リアは離れた分だけ距離を詰めて来た。


「今日、今日だけはこの状態で寝させて……お願い」


 リアが弱々しく耳元でそう囁く。

 その言葉に僕は驚いたが、振り返ることはせず、それ以上は何も言わなかった。

 ただ背中に柔らかい感触と濡れるような冷たい感覚を感じながら、星空に見守られ、七色の光に歓迎され、静かに瞼を閉じるのであった。

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