4.初戦
「んぅ~! 美味しいぃ~!」
頬に手を当てながら、クレープを食べるリア。
まぁつまり、街までの競争に僕は負けたのだ。
そして約束通り奢らされた。
「それは良かったが、結構な値段するな、クレープって」
「ん? 奢りなので私には関係のない話ですね」
いや、あるだろ。
一応、本当に一応、グループなんだからさ。
グループ全員のGポイントが無くなれば、生活が出来なくなるんだぞ。
先ほど確認したところ、初期に渡されるGポイントは一人10万ポイント。
地球上のお金で考えると10万円といったところか。
そして現在、一個1000ポイントのクレープを二個買ったから2000ポイントも使ったことになる。
はぁ……これからの生活を考えてくれよ。
そう言えば、初期のGポイントは10万ポイントに対し、初期のGスコアは30スコア。
メニューバーを見る限り、Gスコアが300スコアまで増えると今のランクが上がり、次のレイヤーに行けるようだ。
単純計算で九グループを倒せばいいということになる。だが、それは三人一組のグループを九グループ=27人を殺さなければいけないということだ。
もちろん、イベントでGスコアを増やすなら話は別だがな。
そういう方針を早くグループ内で決めたいのだが、僕とリアはクレープを堪能してるし、貧乳の方は未だに合流できていない。
「なぁ、これ食べたら貧乳のところに行くのか?」
「え、もう奢ってくれないんですか?」
「何でまだ奢らなくちゃいけないんだよ。僕はリアのATMじゃないぞ?」
「パパが『男は女のATMになることこそが、立派な男になった証なんだ』って言っていましたよ?」
どういう教育なんだよ、それ。
リアの父親は妻に洗脳でもされていたのか。
流石にリアを見る僕の目も自然と冷たくなる。
「じょ、冗談ですよ。だから、止めてください、その目」
「そうか」
そう一言告げてから僕はチョコバナナクレープを口に頬張る。
これ、意外に美味いな。
僕にとって食事というものは珍しすぎて、ちゃんと味覚が反応するのか心配だったが大丈夫のようだ。
これが甘味か。そして酸味か。
食事とは意外と悪くないものなのかもしれない。
『<情報>グループ戦が開始されました。
相手:ビギナーズキラー
内容:ババ抜き
制限時間:無限
場所:アルコールライフ』
なんだこれは?
いきなりメニューバーが目の前に表示され、アンドロイドの声が脳内に響き渡る。
「リアじゃないよな? グループ戦してるのって?」
「私、ゼロの横でクレープ食べてただけですよ」
「だよな。じゃあ、これって?」
「貧乳ちゃんじゃないですか?」
普通に考えてそうなるよな。
って、こいつ何で焦った顔一つ見せないんだ?
今の状況ってかなり危ない気がするんだが。
「負けたら僕たち死ぬよな?」
「え? そうなんですか!?」
話を聞いていなかったのかい!
本当に突っ込んでいる場合じゃないんだけどね。
「グループ戦で負けたら、僕たち三人とも死ぬ」
「貧乳ちゃんの戦いなのに?」
「貧乳が戦っているだけで、グループ戦だからな」
「それはヤバくないですか?」
え、本当に今更ですか?
クレープなんか悠長に食べてる場合じゃないんだよ?
美味しかったけど。1000ポイントの価値あったと思っちゃったけど。
「だから、急いで貧乳のもとに向かわないとな」
「えっと、先ほど私たちが走った距離で十分ぐらいでしたから、貧乳ちゃんの場所まで走って三分ぐらいですかね?」
三分か。
ルール上、制限時間は無限だけど、ババ抜きなんて三分もあれば決着がつく。
これは間に合うか、間に合わないか、ギリギリかもな。
「とにかく向かおう。ババ抜きなんて一瞬だ」
「ですね」
リアはそう言うと、残りのクレープをペロリと食べ、ゴミを僕に渡してくる。
「ん?」
「ゴミです」
「分かっているが……」
「ゴミはゴミ箱に捨てないと」
なんか正しいこと言ってるみたいな目で見てくるんですけど。
そしてなんか無理矢理、僕の手にゴミを握らせてきたんですけど。
僕っていつからゴミ捨て担当になったの?
それともリアは僕のことゴミ箱扱い?
「……」
僕は黙ってポケットにゴミを入れ、重いため息を一つ。
リアはそんな僕を見て、ニヤニヤと笑みを浮かべている。だが、その表情はいつまでも続くことはない。だって、僕が壊すのだから。
「貧乳のもとまで競争だ。負けたら晩飯奢りで」
「ちょ、そんないきなり言われても……って、待ってくださいぃ~!」
僕は振り返ることなく、真剣に先ほどのやり返しを行うのであった。
晩飯は出来るだけ高いものにするかぁ~。