48.Gレイヤー<水の街>
「つ、冷たっ!」
周りの視界が見える前に、そんなリアの声が隣からする。
同時に「ピチャッ!」という水が跳ねるような音が耳に入ってきた。
そして足元が冷たい。
靴の中が濡れている感触があり、靴下の何とも言えない感覚がとても気持ち悪い。
そう思っていると、徐々に目が冴えてきたのか目の前の光景が露になる。
「おいおい、何だよここは……」
僕は目を細めながらその光景を見つめ、ため息交じりの言葉を吐く。
続いてリアも文句を口にした。
「何で浸水してるのよ、この街は」
「本当にな。濡れるなら転送前に言ってくれれば良かったのに」
僕はそう言いながら、転ばないように慎重に靴を脱いで靴下を脱いでいく。
リアも隣で同じように靴と靴下を脱いでいるのだが、太ももと濡れた脚が生々しくて謎のエロさを感じる。
「な、何見てるのよ、ゼロ!」
「あ、いや、何も」
僕はすぐさま視線をリアの脚からリアの顔へ。
「太ももと濡れた脚がエロいとか思ってたんでしょ?」
ニヤニヤしながらそう言ってくるリア。
正解だが、もちろん否定する。
てか、久しぶりに心の中を読まれたな。
「違う違う。ただボーっとしてただけだ」
「……そう」
僕の言葉に少し間を置き、リアはいつもより冷たい声で軽く返事をした。
はぁ……なんか怒らすことでも言っただろうか。
いや、分からん。
まず言っていない。言ってないよな?
まぁそれはいいとして。
このGレイヤーは水の街らしい。
街中どこを見ても浸水していて、その高さは足首ほど。
足元の水はダイヤモンドのように透明で、少し冷たくて気持ちが良い。
街の人はもう慣れているのか、みんな裸足で行動している。
後、みんな水着、もしくは薄着である。
男性が上半身に服を着ていないのは当たり前。
女性は綺麗な脚や大きく実った胸の谷間を堂々と出している。
「ゼロ、なーにさっきからビキニの女の子ばっかり見てるの?」
「いや、これはだな。この街がどういう街なのか確認しているだけだよ」
「ビキニの女の子を見ることが?」
「いや、他にも見てるから」
「あの食い込んだお尻とか?」
「そういう他じゃないって。他と言うのは街並みとかだから。はぁ……」
リアの面倒くさい絡みに思わず口からため息がもれる。
しかし、リアのやつ思っていた以上にいつも通りだな。
サラと一悶着あって、少し落ち込んでいるか悩んでいると思っていたのだが。
案外、普通でこちらからすれば有り難い。
って、そう言えば、サラのやつどこ行った?
完全に水着の、しかも、ビキニの若い女性に目が……じゃなくてこの新しい街並みに意識がいっていたが、今確認するとサラの姿がどこにもない。
「なぁ、リア。サラがどこに行ったか分かるか?」
「ん? あーどこかに走っていったわよ」
「おいおい、何で止めないんだよ」
「な、何で私が止めなきゃいけないわけ? 私はサラがどこかに行ってくれて、今は気分がイ・イ・の!」
リアの発言を聞き、僕は額に手を当てて呆れた表情を見せる。
やはりサラに対して何か思っていたらしい。
何事もなかったような態度をしていたのは、サラがいなくなったから。
はぁ……これって喧嘩だよな。
しかし、何でサラはどこかに走って行ったんだ?
普通なら正論をボロカス言われたリアがどこかに行くはずじゃないのか?
本当によく分からん。
サラは新しいレイヤーに行くと、どこかに逃亡する癖でもあるのか?
また勝手にグループ戦をしてなきゃいいけど。
まぁ今の僕がそれを言える立場じゃないが……。
とりあえず僕はマップでサラの位置を確認する。
位置を見る限り、それほど遠くには行っていないようだ。
それなら街を探検しながら、サラがお腹を空かせるであろう夕方頃に迎えに行くのが一番か?
だが、リアは賛成しないだろうな。
それにサラもマップを見て、僕たちから逃げるかもしれない。
今は少し距離を置くことが最善かもな。
「リア。サラは後でどうにかするとして、今からどうする?」
「えっ、ほっとくの?」
「いや、リアが見て見ぬふりをしたから逃げたんだろ」
「そ、そうだけど……」
リアは僕の言葉にパッと目を見開いて驚き、弱々しい言葉を吐いて視線を逸らす。
恐らく求めていた言葉ではなかったのだろう。
僕なら「探しに行くぞ」とでも言うと思っていたに違いない。
それにしても、この女はやはり面倒くさい。
さっきは「気分がイイの」とか言っていたくせに、今は「ほっとくの?」って、よくもそんな数秒で意見をコロコロ変えれるものだ。
正直、最初から本当のことを言えばいいのに。
でも、あれだけボロカスに正論を叩きつけられたら、少しは反抗したくなるものか。
まぁいい。
リアがどういう意見を持っていようと、僕は迎えに行く気は毛頭ないからな。
というわけで、僕は視線を逸らしているリアに対して話しかける。
「今、迎えに行って仲直りできるのか?」
「いや、そ、それは難しいかも……」
「だろ! サラだって逃げたということは、今はリアと関わりたくないはずだ。一人で考えさせる時間をあげるのも僕はいいと思うが」
「た、確かにそうね。じゃあ、まずはショッピングがしたいわ!」
リアの切り替えは早い。バスケ選手の攻守の切り替え並みに早いんだが。
でも、こういうところがリアの良い部分だと思う。
変に暗い態度でいられるぐらいなら、こっちの方が百倍マシだからな。
「ショッピングか。それは分かったが、その前にこの左手を治してくれないか?」
「あ、折れてるんだっけ? 痛そうにしないから完全に忘れてたわ」
「おい、忘れるなよ! 痛くしてなくても動いてないのを見て分かれ!」
僕がそうツッコミを入れると「えへへ」と笑みを浮かべて左手を治し始める。
本当に左手が使えない苦労を知ってもらいたいものだ。
約一日使えなかっただけでも、かなり大変だったんだぞ。
でも、無事に治りそうで一安心である。
左手の感覚が戻ってきていることを感じながら、僕は安堵のため息をついて口を開く。
「それでショッピングって何を買う気だ?」
「え、そんなの決まってるでしょ?」
「ん?」
僕にはサッパリ分からないので、不思議そうに首を傾げると、ニコと笑みを浮かべてリアは口を開く。
「水着!」




